第51話 国喰いの蛇王
太い幹を持つ巨樹の森の巨木をなぎ倒し、暴れまわる一匹の蛇
その大きさは少し身体を持ち上げただけで、二階建ての建物以上もあり、全長は小さな街なら囲える程長いという、その気になればアルメヒ前線基地の外壁すら軽々と超えることが出来るだろう
巨樹の森に住むモンスターらしく、全身は闇のように黒く、薄暗い巨樹の森の微かな木漏れ日から反射する鱗は見事な美しさを持っていた。
そのモンスターの名は〈シュネイプ〉、強力なモンスターが蔓延る巨樹の森でも生態系のトップに位置する特A級のモンスターだ。
〈シュネイプ〉の特徴は、巨大な身体から繰り出される鞭の様な打撃、獲物を確実に粉砕する程の強力な締付け、そして生半可な生物を一滴で死に至らしめる猛毒を持った牙
過去に神の地を様々な偶然によって離れ、大陸に進出した一匹のはぐれシュネイプが存在した。強者ひしめく神の地において蛇型モンスターであるシュネイプはただの最強格の一角でしか無かったが、その檻から解き放たれれば周囲は平和ボケした弱者しか居ない
腹を空かせた獰猛なライオンが家畜小屋を襲うかのように、その蛇が寿命尽きるまで各地を転々とし暴れまわり、その時代の勇者や英雄たちを何人も殺し、伝説に残った蛇の王
はぐれシュネイプが暴れた時代の書物によれば、当時そのはぐれシュネイプを人々は〈国喰いの蛇王〉と呼び、事実、幾つもの国と種族がはぐれシュネイプによって滅んだそうだ。
またその伝説によって人々の中には畏怖と敬意が生まれ、現在では各地で細々と信仰される小さな宗教の神と祀られる存在までに至っている。
そんな国喰いの化け物とソラは現在巨樹の森で対峙していた。
「〈
ありったけの魔力を右腕に込め、〈シュネイプ〉の頭を殴り倒すように上から振り下ろす。
確かな手応えを受け、力いっぱい腕を振り下ろし、辺りにまるで隕石が落ちたかのような轟音とその衝撃で森がざわめく
フロウゼルさんと戦った時とは違う、シュネイプに対してありったけの魔力とありったけの力を込め全力で殴った。
そして蛇の頭は見事にひしゃげ、大地に叩きつけられる。
その衝撃は凄まじく大地を割り、叩きつけられた〈シュネイプ〉の頭が地面にめり込む程の衝撃だが、それでもシュネイプの目はじっとこちらを捉えていた。
「うおっ!?」
確かな手応えに少し緊張が緩んだ次の瞬間、視界を塗りつぶす漆黒の巨体が目の前に突如として現れ、物凄い衝撃が身体を襲ったと思えば、ソラの身体は木々を掻き分ける様に吹き飛び、数度のバウンドと数本の巨木をなぎ倒したところで止まった。
「イテテテテ、強すぎんだろあの蛇!」
全身に張り巡らせた魔力の鎧によって衝撃の割りにダメージは少ない
ただ少し口の中を切って口の端から血が垂れるけど、異世界ボディのお陰で口内で切った部分も直ぐに塞がる。
その血を指先で乱暴に拭えば、そんな暇を与えんとばかりにそのまま猛然と襲ってくる黒い大蛇
その姿はまさに破壊の化身と相応しい光景だが、これでも太郎なら、発見して数秒の内にシュネイプの首を叩き折るか噛みちぎるのでこんな事で苦戦してはいられない
大地を削りながらそのまま飲み込まんと〈シュネイプ〉は限界一杯まで口を開き襲ってくる。
その上顎には全身真っ黒な〈シュネイプ〉だとより映える純白の大牙が二本、その牙から垂れるように溢れ出てくる青黒い毒液を撒き散らしながら噛みつこうとした。
「ぐぎぎぎぎ・・・・・・」
上顎の牙を両手で掴み、下顎を足で抑えて丸呑みにされないよう踏ん張る。
噛む力が尋常ではないものの、力比べなら自信がある。単純な力比べなら〈グロウベア〉に負けないし、そこから無属性魔法の身体強化を合わせれば大蛇の咬合力に負けはしない
シュウウゥゥゥゥ.........
ただ〈シュネイプ〉の牙は毒液が滲み出ており、それに手が触れて皮膚が焼けるような嫌な臭いが鼻につく
非常に危険な状況だけど、〈シュネイプ〉の柔らかい内部が晒されている状況でもありチャンスとも言える。
防具の素材に選んだだけあって、〈シュネイプ〉の黒曜石の様な鱗と外皮はそれぞれ物理と魔法に対して高い耐性を持っている。
なので生半可な攻撃は無効化されてしまうんだけど、俺を丸呑みにしようとしている都合上、口の中に魔法を叩き込めれば〈シュネイプ〉に対して大ダメージを狙える。
「〈始原の雷〉!!」
なので俺は最近練習して使えるようになってきた切り札を投入することにした。
それは〈空想図書館〉に存在する本の中でも、かなり古い部類の魔術書にかかれていた魔法のうちの一つ
他の魔術書と違う古の魔法、フロウゼルさんたちが使う現代魔法言語や、俺が使っている古代魔法言語ともまた違った言語で書かれた雷魔法
ボロボロな5枚の紙切れに書かれていたシンプルな魔法のうちの一つだ。
通常の雷魔法よりも色が黄色く、まるで絵の具のような色をした雷を全身に迸らせる。
この魔法は一般的な魔力とはまた違った不思議エネルギーを使うんだけど、それ以外なら初級魔法と難易度は対して変わらない
なのに威力は通常の魔法よりも強力だ。
ただ火力が高すぎる故に調整が難しいのが難点
異変に気がついた〈シュネイプ〉は俺を引き剥がそうと暴れるが、逆に俺が〈シュネイプ〉の牙を強く掴み離さないようにする。
「〈雷砲〉!!」
フロウゼルさんやシロが使った刃の魔法はまだ使えないけど、ただ属性を付与した塊を飛ばすシンプルな属性弾の魔法を全身を使って〈シュネイプ〉の口の奥に向かって魔法弾を放った。
人間大の雷の塊が〈シュネイプ〉の身体の奥へ飲み込まれ、少しの間が空いた後、ボコリと〈シュネイプ〉の身体の一部が盛り上がり、内部で連鎖的に爆発をおこす。
「太郎、どうだった?」
「わふ」
俺と黒い大蛇〈シュネイプ〉の戦闘の一部始終を、木の上で見ていた太郎は着地音を立てずに静かに降り、俺の側までやってきて首を横に振り今回の戦闘の合否を教えてくれる。
「倒したけどやっぱりダメ?」
「わぅ」
全身に雷の魔力を迸らせ、巨大な属性弾の魔法を放つ〈雷砲〉を〈シュネイプ〉の内部に撃ったことにより、見事討ち倒したんだけど太郎的には駄目らしい
なんせ切り札を使ったのが太郎的にNGのようだ。
何故こんな事をやっているかというと、先日、アルメヒ前線基地から出発する際に、仕事の合間を縫って会いに来てくれたフロウゼルさんから遺跡調査に同行しないか?と誘われたのが始まりだ。
以前、始まりの森の同行を断ったこともあって少し後ろめたさがあったんだけど、フロウゼルさんは気にしなくて良いと言われ、自分自身、今回ちょうさたい発見された遺跡に興味があったので、遺跡調査に向かう事にした。
ただ発見された遺跡にはフロウゼルさんを始めとした他陣営の方々も多くいるそうで、人嫌いがある太郎を連れて行くことは難しい
そして、フランクさんには基地に影狼を連れてきても大丈夫なように許可も取ってあるので、遺跡調査の予定日である4日後は太郎にお留守番して貰おうと思っていた。
代わりにシロと影狼の二匹を連れて行こうと思っている。
ただお留守番予定の太郎的には、俺やシロが心配なようで今回戦った〈シュネイプ〉クラスを簡単に倒せないと行くのは駄目らしい
シロは膨大な魔力とコピーした人物達の戦闘経験を持っているので、太郎ほどではないにしても数分で巨樹の森に住む特A級クラスのモンスターを討伐した。
なので俺も今回同じ特A級のモンスターである〈シュネイプ〉を討伐したんだけど、その内容は太郎的には駄目だったらしい
国喰いの蛇王って言われるぐらいだし、討伐しただけで凄いと思うんだけど、審査官である太郎が〈シュネイプ〉を10秒以内で倒せるので文句も言えない
・・・・・・遺跡調査の日までに太郎の試験、間に合うかな?
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