第50話 朝の番人と小さな芋虫

 仕事とか学業に縛られないと、朝起きる時間が結構ルーズになる。


 先日泊まったアルメヒ前線基地だと、始業の鐘があったり、朝早くから商人の人達が忙しなく行き来していたりするんだけど、そういうしがらみが無い異世界生活において、二度寝するというのはそう珍しいことじゃない


 一緒に住んでいる太郎もシロも朝はのんびりしているので、我が家の朝はゆったりとした時間が流れる。


 夜と月に関しては種族上、夜行性なので昼間はどうも動きが鈍いので休ませている。二匹は俺や太郎以上に朝に弱いようだ。


「んあ・・・・・・向日葵か、おはよ」

「コケ」


 ただ家族の中で唯一というか、鶏という種族特性なのか朝に強い向日葵は、度が過ぎて起床が遅いと家の中に入って、布団に寝転がる俺の腹の上に鎮座する。


 部屋を照らすほど常時光り輝く向日葵は、近寄るだけで目覚ましと同じ効果を発揮する。そのせいか気持ちよさそうに隣で眠るシロが苦しそうなうめき声をあげていた。


 太郎は早い段階で起きているけど、俺が起きないと行動を起こさないタイプ


 なので一週間の内の何日かは、こうやって向日葵に起こされて我が家の朝は始まる。





「あ、芋虫」


 俺やシロが起床したのを確認して、一仕事終えた感のある向日葵が家から出たところでふと窓の外を見てみると、夜中に雨でも降ったのか、木々に付着する水滴が日差しを乱反射していた。


 そして同じく気がついたのが、小屋に嵌められている窓の木の枠に小さな芋虫が引っ付いていた事


 やはりというか、ぼんやりと光る芋虫に何処か既視感を覚えつつ、周囲の生物では珍しい虫に大変興味を持たされる。


(家の周りって光蜂以外の虫って居ないんだよなぁ)


 巨樹の森自体に虫は存在する。


 その数も多く、小さくとも凶悪な力を持った虫が多い


 異世界産の虫だと、例え可愛らしい蝶でも幻惑効果のある鱗粉を振りまいてきたり、一回でも刺されれば死に至る毒針を持つ毛虫など結構危ないんだけど


 不思議な木の一帯となるとそんな虫たちが居なくなる。


 正確には、地上で生活するタイプの虫が居なくなるのだ。


 光蜂が駆除しているのかな?


 個人的にも花畑や薬草を食い荒らされるのは勘弁して欲しいし


 光蜂達も同じ考えなのかもしれない


「いや、本当に珍しいな・・・・・・蜂たちから許されたのかな?」


 近づいて見てみると、芋虫はこちらの存在に気がついたのか、上半身を持ち上げ半立ち状態になる。


 ぱっと見は喜んでいるようにも見えるけど、多分威嚇しているんだろう


 身体を持ち上げても、自重でふらふらと揺れる芋虫の姿は何処か可愛らしい


「あ、そうだ」


 少し観察していたら、警戒していた芋虫はのっそりと移動を始めた。その歩みは非常に遅く、どうみても光蜂達の監視網を掻い潜ることは不可能だと思う


 花畑の門番である光蜂の監視網はかなり厳しい


 下手すればA級クラスのモンスターすら倒すぐらいだ。


 多分、夜や月も光蜂には敵わないと思う


 光蜂どころか、凶悪な能力を持った巨樹の森の虫の世界でも生き残れるのか?いうレベルの遅さだ。見た感じ戦闘能力も毒も持ってい無さそうだし


 弱すぎる故に見逃されたのかも


 そんな芋虫の姿を見ていたら、どうも愛着が湧くというか、多分餌を探していると思われるので家の裏手に生えている不思議な木の葉を持ってくることにした。


「これもなんか調合に使えそうだよなぁ・・・・・・」


 温かみのある淡い燐光を放つ葉は、採取してもその光が失うことはない


 ボンヤリと光り、嗅いでみるとうっすらミントの様な清涼感のある匂いがする。


「これをお茶にしたら美味しそう」


 今度茶葉にしてみよう、そう思ったけどまずは芋虫の餌やりだ。この家に入ってこれるぐらいだから多分大丈夫な子なんだろう


「おいしい?」


 トコトコと歩く芋虫の進行方向上に不思議な木の葉を置き、掬うように芋虫を乗せる。


 芋虫は葉の上に乗っかると、多少混乱したようすだったけど直ぐにそれが葉っぱだと分かるとむしゃむしゃと元気に食べ始めた。


(前世では虫とか触れなかったんだけどなぁ)


 前世の自分だと子供の頃は触れた昆虫も、年を取るにつれて触れることが出来なくなっていた。


 逆にこの異世界に来てからは触れる事が出来るようになった。


 歳が若返ったからかな?


 多分この世界だと俺は15歳ぐらいだと思うから、前の世界と4~5歳ぐらいしか変わっていないだろうけど


 異世界の生活で慣れたというのが大きそうだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る