第48話 前線基地のお家・裏
黒の塔の応接室に二人の男女
一瞬、恋人同士の逢瀬かと思うが、その二人から流れる空気は甘ったるいものではなく、何処か張り詰めた緊張感が存在した。
「どうだい、ソラ君は?」
「えぇ、中々の好青年かと」
部屋の主、フロウゼルは正面に座る男性に向かって、今日一日の出来事を聞いた。
あまりにも端的な質問ではあるものの、彼女の正面の席に座る男性、サラン公国の冒険者フランクは淀みなく答える。
「純真無垢なお方だ、ただあのなりをしていて私よりも断然強いぞ?」
「噂では聞いていましたが、それは本当でしたか・・・・・・先の大戦で敵兵五千を屠った貴方よりも彼は強いと」
「あぁ、この私が赤子の手をひねるかのように何も出来なかったさ」
クックックと声を抑えるかのように笑うフロウゼルにフランクは以外そうな目で見る。
「彼に興味がお有りで?」
「寧ろ興味がない人間がいるのかい?びっくり箱のような存在だよ、彼は」
確かに、とフランクも内心そう思うが、こうやって楽しそうに語る彼女に驚く
彼女が男嫌いと言うわけではないが、フランクにとってフロウゼルという女性は先の大戦の英雄だ。冒険者としてのランクこそA級ではあるものの、彼女はどちらかと言えば戦争向きの能力を持っている。
彼女の代名詞である風魔法〈
男尊女卑の考えが蔓延る軍部に置いて、その実力で多くの男達を黙らせてきた彼女が一人の男性、しかも未開の土地の原住民に懸想するとは思いもしなかった。
サラン公国はエマネス帝国の属国である為、戦時中に何度か軍幹部の一人としてフロウゼルの姿を見たことがるが、当時のフランクに取って彼女はまさに王の気質を有しており、これで未婚の女性なのだから末恐ろしいとさえ思った。
「使用人の候補は?」
「抜かり無く、獣人2人にエルフ1人ですが全員にこちらの息が掛かっています」
そう言ってフランクが取り出したのは、昼間にソラの使用人へと推薦したテイマーとして経験のある元冒険者の三人の女性の詳細が書かれた書類だった。
「女性三人で大丈夫でしたでしょうか?あまりにも露骨だと・・・・・・」
「問題ないよ、使用人に女性が多いのは間違いじゃ無いしね」
フロウゼルの脳内には書類に書かれている女性三人の顔が思い浮かばれていた。社交場で様々な人物と顔を合わせる都合上、彼女は人の顔を覚える事は得意だ。
記憶ではカリア、メール、アイシェ三人の顔が脳内に鮮明に映し出されていた。
カリアは猫人族、メールは羊人族、アイシェはエルフの女性だ。
緑の国出身者が多い獣人族とエルフの亜人種ではあるものの、全員何世代も前からエマネス帝国に移住し、他国との関係が無いと裏取りが出来ている人材だ。
三人ともタイプは違うが全員美しい顔立ちをしており、男性冒険者達からも人気が高く、良く言い寄られていた覚えがある。
そしてフランクが思案しているのは、使用人がこうも見た目麗しい女性を集めたとなれば、周囲や対象者に対して要らぬ考えを与えてしまうかもしれないと思っているようだが
フロウゼルはそのフランクの危惧を無視した。
彼女にとって、そう思われても構わなかった。むしろ彼女たちの色香に惑わされて過ちを犯してくれた方が、こちらとしては有り難い
むしろ周囲が反応してくれれば、こちらが彼を重要視しているという事を対外的にアピールする事も出来る。
なんせ過酷な環境が広がる神の地に住む唯一の人間なのだから
この事に関しても本国から了承を得ており、寧ろフロウゼルは本国から提示されたソラ篭絡作戦の豪快過ぎる作戦内容を縮小し、制御した側なのだ。
サラン公国に聖女アリアが居たように、エマネス帝国にも見た目麗しく実力のある貴族の女性が存在する。
それもサラン公国と違い、エマネス帝国は世界有数の大国であり歴史も古い
代々受け継がれ洗練された血によって、貴族は男女問わず見た目が麗しく魔法の素質に優れている。
そんな中でも特に美しいと称される貴族の社交界で有名な五人の姫君
その内の一人を前線基地に連れていき、彼に会わせようというのだ。
その話は、フロウゼルが彼に一騎打ちで負けたことによって端を発したのだが、流石にやりすぎだと止めた経緯がある。
エマネス帝国まで、サランの聖女のように悲劇を生み出す必要は無いのだから。
アルメヒ前線基地が出来て約2年、調査が開始されてから4ヶ月が経とうとしているが調査の進展はほぼ無いと言っていいだろう
どうも白の連中らが遺跡を発見して騒いでいたが、それ以上にこの地を知る原住民を確保している我らのほうがアドバンテージがあるとフロウゼル考えていた。
なので、ソラを他の陣営に奪われるという事だけは何があっても阻止をしなければならない、だからこそ今回わざわざ貴族区に住居を確保し、それっぽい理由をつけて周りの人々を説得したのだから
出来ることならそのまま住居を基地にある家に置いてくれたら嬉しいが、彼の反応を見る限りそれも難しいだろう
無理強いすることは出来ない、これが普通の貴族なら強引に事を進めるだろうが彼は紛れもない強者だ。
確かに彼は純真無垢で優しい、短い付き合いではあるものの、彼は他人に対して怒らないし、人の悪性より善性を長所として見出す人間だ。
それに付け込もうとする輩は数多いが、フロウゼルにとって彼のようなタイプはある一定のラインが存在しそれを超えると何があるか分からない、そんな人間が一度決心してしまえば厄介な存在となる。
フロウゼルはその様な人物を一度怒らせると、非常に強く厄介で関係修復が難しい事を先の大戦で知っていた。
「それで、遺跡の調査の方はどうなりそうでしょうか?」
「ん?あぁ、来週には我らにも解禁されそうだ。まぁ満足に出来ないだろうがね」
話は変わり、目の前に座るフランクはどうも最近発見された遺跡について危惧をしているようだった。
これが白以外の陣営なら、彼もそこまで危惧しなかっただろうが、運命の悪戯か遺跡を見つけたのは白の陣営だった。
調査隊の理念として各国手を合わせて神の地を調査をするというものだが、エマネス帝国とコーヴィス聖王国が仲が悪いように、調査隊にも様々な派閥がある。
そして一番険悪な関係の派閥が停滞する調査を進展させたとなれば、黒の陣営に属する関係者の内心は心休まらない事だろう
「そうだ、ソラ君も連れて行こう」
「よろしいのですか?彼の存在を他の陣営に教える必要もありますまい、まず彼が遺跡へ行くとは・・・・・・」
「非常に嘆かわしいことだが、彼の存在は目敏いものは知っているよ、一番は彼が遺跡調査へ同行してくれることだろうが、そこは聞いてみるしか無いだろうね」
フロウゼルは、ハァとため息をついて未だ判明しない内通者の存在に内心憂えていた。
彼に遺跡同行を願い出るのはそう難しくはない、必ず来て貰わないといけない、という訳でもない
非常に強力なモンスターが出没する始まりの森において、西側は比較的安全でその道は確保されている。
なので必ず案内人が必要というわけでもなく、フロウゼルら調査隊だけの力だけでも遺跡へ向かうのはそう難しくない
ただ遺跡の奥は始まりの森以上に強いモンスターが確認されているようだが・・・・・・
なのでソラとの軽い会話の中で少し聞いてみるだけでいいのだ。断られたらそれで下がればいいし、彼も気を悪くしないだろう
ただ彼の存在が既に他陣営に漏れているということがフロウゼルにとって重要だった。
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