第45話 古代遺跡
「祭壇・・・・・・ですか」
最古にして最大の謎、と呼ばれる北サンレーア地方に存在する神の地
かつて世界を支配した旧人類でも、この地を完全に支配することは叶わなかったという場所
遥か北に聳える〈マガス山脈〉にはエマネス帝国が所有するS級聖遺物〈時之王錫〉や我が国が所有するS級聖遺物〈愚者之王〉に匹敵する聖遺物が存在すると言われる。
他にも〈蘇生薬〉の原材料であるププ草といった伝説と呼ばれるに相応しいアイテムが眠り、それを牛耳ることが出来れば次世代の覇権を握ることが出来ると言われるが……
馬鹿馬鹿しい
そう結論づけるのは簡単だが、我が国が保有するS級聖遺物〈愚者之王〉のように、一つの聖遺物で万の軍隊に匹敵する力を発揮できる聖遺物が存在すれば、それは脅威だ。
私個人からすれば、それら伝説と肩を並べる不老不死の薬には興味があっても、〈蘇生薬〉や〈再生薬〉については全く興味がない
確かにその効果はすごいのだろうが、時として復活してもらっては困る人物も居たりするので、出来ることなら無い方が良い
それは国の上層部も同じで、コーヴィス聖王国は出来るだけ多くの聖遺物を保有することが至上命題とされている。
「えぇ、ここの遺跡に描かれている文字は、古代魔法言語とはまた違った異なる言語です。解読に時間が掛かるかと」
獣が犇めく森をなんとか切り抜け、遺跡に到着すれば、先程まで絶え間なく襲ってきたモンスター達は、まるでこの遺跡群がモンスターを阻む特殊な結界が張られているかのように近づかなっくなった。
念のため、周囲の安全を確かめてから非戦闘員である学者や作業員を呼び寄せ、調査を始めている。
そして今、私の目の前で調査の途中経過を報告する学者は、まるで小人のように小さく、弱々しい体つきの軟弱者ではあるものの、彼らは聖王国から派遣された優れた頭脳を持つ者だ。
私と対峙するだけで生まれたての子鹿のように震えるものの、この僻地まで望んでやって来た人間だ。その熱意は確かなものだし、彼の目には好奇心が見て取れる。
ただそんな彼らであってもこの遺跡は全くの未知なる文明が作った物だという、彼らから聞けば、旧人類でも地域によって幾つかの文明が分かれているそうで、今回は全くの一からの調査になるという
ただこれまでの経験上、今回発見した遺跡は、その形状からして何かを祀っていたもしくは封印していた場所だという
「では早く済ませなさい、そろそろ黒の連中達も煩いですから」
「は、はいっ!」
緊張しているのか、上擦るような声で返事をした学者はその場を後にし、狭いキャンプに残るのは調査隊を指揮する私のみ
ふぅ、と肺に溜まっていた空気を吐き、本国の物とは比べ物にならない粗悪な……泥のような味の珈琲を啜る。
始まりの森を抜けさ先に存在する遺跡群、その周辺はアルメヒ前線基地と違い、まるで大陸南部の様なジメッとした高温多湿の環境が広がっている。
たかが数キロ移動しただけで、劇的に環境が変わったことに驚きはしたが、男がこれまで経験してきた冒険の中にはその様な環境の変化が激しい場所も幾つか存在する。
その多くは巨大なダンジョン内部で起きる物だが、ここは神の地、他とは比べ物にならない強大な魔物が跋扈し、熟練の冒険者であっても一瞬でも隙を晒せば一気に食われかねない、そんな場所だ。
コーヴィス聖王国において不倶戴天の敵であるエマネス帝国の調査隊が壊滅し、その勢力が衰えたことについては私にとって福音ではあるものの、今度は自分たちがあの様な惨状を招く可能性もあり、あの事件以降、どこか緩んでいた規律が引き締まったのは行幸だった。
「カスティオ様、赤の陣営の方々がお見えです」
「何?・・・・・・いや、通しなさい」
天幕を開けばそこに立っていたのはゴーヴィス聖王国軍で普及する銀白の金属鎧に身を包んだ大柄な男性、髪を短く刈り上げ、腰には見事な装飾が施された剣を携えている。
その男の名をライ・オルフィネス、と言いコーヴィス聖王国が主軸となった白の陣営でも、ナンバー4に位置する実力者だ。
国でも子爵家の出身でありながら、優れた剣術と兵士の運用にも長けており、軍からの評価も高い
彼は様々な派閥争いによって、上からこの地へ出向を命じられた悲しい運命を辿る人間の内の一人
ある意味エリート街道をひた走っていた中で地方に飛ばされ、この仕打ち
最初はエリート街道から外れ、心が腐っているかと思えば、別にそんな事はなく真面目に実務をこなす好青年だと、カスティオは思う
同じ国に所属する者同士ではあるが、カスティオとは派閥が違うので仲が良いと言う訳でもない
ただ敵対している訳でもないので、感情を交えず事務的に会話をする仲だ。
「これはこれはカスティオ殿、此度は遺跡調査にこの赤の陣営ををお招きいただき誠にありがとうございます」
「いえ、アルメヒ調査隊の理念は人類が協力してこの地を解明することなのですから」
ライに案内される形でやって来たのは、何処か南蛮風の涼し気な服装をした男性とその部下達
ずいぶんと暑苦しいこの環境において、肌の露出が多い赤の陣営ならばずいぶんと過ごしやすいのだろう
その表情に疲れた様子はなく、こんな蒸し暑い場所でも自然としている。
逆にコーヴィス聖王国は一年を通して肌寒い気候が続くため、通気性が悪く、保温性が高い服が多い
それは装備関係でも同じく、カスティオも貴人として、はしたなくは無い程度にしか着崩しているが、出来ることなら今装備している暑苦しい鎧を脱ぎたいぐらいだ。
「しかし黒の陣営は?現地に居ないようですが」
「黒の方々には手薄になった前線基地の防衛をお願いしております。補充人員が集まり次第、黒の方々もこちらに来れるかと」
「そうでしたか、それは良かった」
ホッとした様子の赤の陣営に所属する老齢の男性、パッと見では心から安心した様子に見て取れるが、内心何を考えているか分からない
赤の陣営はコーヴィス聖王国と仲が良い訳でも、悪いわけでもない
単純に国との距離が遠く、互いに干渉が出来ないといったほうが正しいか
一方、敵国である黒の陣営はその規模、理念、成り立ちに置いて全てが聖王国と相反する間柄だ。
亜人共の緑の陣営とも聖王国は仲が悪いが、致命的と言う訳でもない
少なくとも態々会って話そうとも思わないが、一応緑の陣営も今回の遺跡調査に呼んでいた。
緑と黒、どちらとも仲が悪いが結局のところ、どちらも今回の遺跡調査において呼ばなければ、他陣営にどう思われるか分からない
いや、分かっては居るだろうが嫌いな国とは、絶対に手を取り合わない
そう宣言して各国に対し、下手に心象を悪くしても今後何かしらの協力体制を組む際に、悪影響を及ぼす可能性があった。
だったら最悪よりはまだマシの緑の陣営を呼んだのは当然と言うことだ。
不倶戴天の敵である黒の陣営は、基地の防衛という、もっともらしい言い訳を持って、今回の調査において足踏みをして貰う事にした。
あの国には聖王国よりも先んじて行かれては困るのだから
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