第44話 アルメヒ前線基地拡大計画

「わぁ、新しい壁が建設されている!」


 生活用品の補充を兼ねて、俺はアルメヒ前線基地へとやって来た。


 何時ものように始まりの森を抜け、基地を一望できる丘から聖地された土地を見渡してみれば、何百という人数の人達が巨大な壁を建設していた。


 一部の開墾した畑を潰し、堀を埋めること無く、既存の基地を更に囲うように壁を建設しているようだ。


 なのでアルメヒ前線基地は三重の壁に囲われる堅牢な基地となるんだと思う


「えぇ、アルメヒ前線基地は当初の計画を拡大して第三の壁を建築し、5万人規模の基地にするそうです」

「5万人ですか・・・・・・」

「えぇ、今回は南部諸国がアルメヒ調査隊に参加し、他にも多数の商人が拡大計画を支援しています」


 当初の基地は二重の壁に覆われていたんだけど、今回の拡大計画で3つ目の壁が建設されるそうだ。


 3つ目の壁はそれまでの壁よりも広く面積を取り、巨大な壁を建設するようで、その費用は調査隊結成に乗り遅れた大陸南部の国々と、世界を股にかける巨大な商会グループが出資しているそうだ。


「それでも、当初の予定より大きいですよね?何かあったんですか?」


 拡大計画については、以前この基地へやって来た際にカエラさんから大まかな概要は聞いている。


 その計画では1.5万人規模だったはず・・・・・・多少の誤差があったとしてもこれは何かがあったというのが普通というものだ。


 周囲を見渡してみても、計画に無かったためか開墾したエリアを潰して急ピッチで建物を建設していたりするし、何処か急いでいる気もする。


「ソラ様も知っていましたか・・・・・・」


 俺の言葉に少し驚いた様子の男性


 名前をフランクというそうで、フロウゼルさんらエマネス帝国と同じ、黒の陣営のサラン公国の冒険者の方らしい


 その為、首には金色の冒険者タグを掲げていて、その体つきもしっかりとしている。


 見るからに体育会系の人なんだけど、学問にも深く通じている人だそうで、古代魔法言語も喋れる文武両道な人


 古代魔法言語については、アルメヒ前線基地に来る前に本国で学んだそうだ。


 自分と会話が出来る数少ない人なので、今回基地を案内してもらう事になっている。


 いつもなら、フロウゼルさんや学者の方々に案内してもらうんだけど、フロウゼルさんは基地の偉い人なので、毎回のように会うのは難しい


 この基地内では文官としての仕事も兼ねてやっているラロッソさんやカエラさんも、この前調査隊が壊滅したこともあって忙しさは増しているそうだ。


 そんな中、フランクさんは壊滅的な被害を受けた黒の陣営の調査隊の人員を補充するためにやって来た第二陣の冒険者の方で、比較的時間に余裕がある人物


 半分軍人で半分冒険者という特殊な職業をしているそうなんだけど、軍でもお偉いさんのようで物腰が丁寧で粗暴さが無い


 通訳と護衛を兼ねた人物だ。


 腕っぷしには自信はあるけど、ここだと喧嘩が起きたらただ殴り倒せばいいという訳にはいかない


 殆どの人と言葉通じないし、最近周りの人達に対して俺の心象があまりよくない


(あの件以降、やたら突っかかってくる人がいるからなぁ・・・・・・)


 苦虫を噛み潰す様に、フロウゼルさんと決闘を行った後の出来事を思い出して顔をしかめそうになる。


 フロウゼルさんは貴族様だ。


 それもただの貴族ではなく、五大国の内の一つであるエマネス帝国に三つしか存在しない公爵家のご令嬢だ。


 そして優れた冒険者でもある。


 フロウゼルさんはその生い立ちと貴族として優れた魔力と血筋、冒険者としての名声、あらゆるものが彼女に集約されている。


 聞けば、フロウゼルさんは貴族の中でも最も有名な人物の一人とも言われるそうだ。


 その声は他国にも轟くと言われている。


 そしてフロウゼルさんは現在20歳で独身


 貴族にしては最早適齢期を過ぎていると言われている。


 なぜ?と言われるとそこには様々な事情があるようで、そこについては誰も教えてくれなかった。


 多分、権力や名声が大きく絡んでくると、縁談話も慎重になるのかもしれない


 王族の女性とかだと、20代で結婚というのも珍しくない見たいだし


 そんな中で、フロウゼルさんはこのアルメヒ前線基地へとやってきた。


 比較的神の地から近いとされるエマネス帝国でも、早々に行き来する事が出来ない遠方の地


 そこに、何故未婚の貴族の女性が赴くのか?


 そこに多くの貴族や冒険者が疑問に思った。


 その時、黒の陣営を中心とした人々にある噂が流れる。


 フロウゼルさんの家、アーマレア公爵家は神の地で新たな貴族家を立てる。そしてそこには優れた実力者を示した人間が、彼女の婿となり選ばれるというものだ。


 この地では権威よりも実力が物を言う世界


 強い力を持つものが偉い、という風潮があるそうだ。


 例え辺境の地アルメヒ前線基地であっても、貴族と平民には壁が存在するんだけど、現在は特殊な状況下な訳で


 何故か、冒険者の間では優れた実力を持つフロウゼルを一騎打ちで屈服させるか、調査隊の任務で著しい戦果を挙げると、彼女と婚約出来るなんて言うとんでもない話が出回っている。


 何故知っているかというと、その騒動に巻き込まれた後にフロウゼルさんから直接聞いたからだ。


 そして彼女自身、その噂話を受け入れている節があるから尚更たちが悪い


 なのめフロウゼルさんとの一騎打ちを行った後、彼女や周囲の人達から実力を認められたことは凄く嬉しいんだけど、認められたことによってその婚約の噂の信憑性が増し、やたらと目の敵にされることが多くなった。


 なので、最近アルメヒ前線基地への足取りが重くなっていた。







「白の陣営が、西の森で遺跡を発見したんです」


 ある意味、黒の陣営の人々から目の敵にされているんだけど、自分の横に立つ壮年の男性冒険者であるフランクさんは、落ち着いた様子で接してくれるので助かっている。


 そんなフランクさんからもたらされる情報


「遺跡ですか・・・・・・」

「はい、始まりの森を迂回するように、白の調査隊は西の森を調査していました。ここから約北西に3キロの近い場所で古代遺跡を発見したとのことです」


 アルメヒ前線基地の北から東にかけて覆う様に、〈始まりの森〉が存在する。


 始まりの森はアルメヒ調査隊を神の地の奥へ進むのを阻むかのように前線基地を覆うようにあるんだけど、始まりの森の西側は、森のエリアが小さいという事が最近になって分かったそうだ。


 そして始まりの森を西に進み、抜けてみればそこには巨大な古代遺跡が見つかり、現在調査中とのこと


 それが大体半月前の出来事だそうだ。


「でも白の調査隊ですか」

「はい、白の調査隊です」


 俺とフランクさんが喋った白の調査隊を指揮するのはコーヴィス聖王国、つまりはフロウゼルさん達と仲が悪い国となる。


「大丈夫なんですか?」

「一応、各国が協力して神の地を調査するという名目がありますけどね」


 フランクさんの言い方的に、黒の陣営は上手く調査が出来ていないということになる。


 話をもっと聞いてみれば、殆どの陣営がその新たに発見された古代遺跡の調査に向かい、今居る人達は非戦闘員が大半を占めているそうだ。


 そして、フランクさんやフロウゼルさん達黒の陣営は、その非戦闘員の方々を守る役目を任されたという


 見るからに仲間外れだというのが分かる。なので同じ黒の陣営であるフランクさんも古代遺跡については殆ど分からないとのこと


 フランクさんからそう聞いて、俺は思わず心の何処かでモヤっとする感情が生まれたような気がした。






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