第43話 進化する不思議な土地

「夜、月、飯は美味しいか~」


 漆黒の毛並みを持つ狼系モンスター〈影狼〉の二匹、オスの夜とメスの月を飼うことになったわけだが、二匹の仮住まいも急ごしらえにしては立派なものになった。


 夜と月の一時的な住処は厩舎のように雨風を凌げつつも開放感のある作りになっている。


 将来的にはここに山羊やら牛やらを住まわせてみたいと思っているけど、この森には鹿しか居ない


(基地の方から貰えないかな?)


 以前、アルメヒ前線基地に行った際に馬や牛を何頭か見かけた記憶がある。


 ただそれら家畜は結構な値段すると思うので、譲ってもらえるかは怪しい部分、要交渉と言ったところだろう……輸送の問題もあるし


「わぅ!」


 粗鉄で出来たお皿にはカブとかさつまいものような野菜、後は太郎が狩ってきた動物のお肉とかを与えている。


 バクバクと美味しそうに食べるその姿は大きい見た目をしていても可愛い


「犬もいいなぁ」


 前世では実家で猫を飼っていたんだけど、こうやって間近で犬(狼)を飼ってみるとその良さが少し分かるような気がする。


 最近ではシロから弓術を教えてもらいつつ、〈疾風之弓〉を使って動物を自力で何匹か狩れるようになってきたし、フロウゼルさんから野菜の種を何種類か貰っているので食事の幅も広がった。


 夜と月は大型犬より一回りも大きな狼なので、殆どお肉しか食べないかと思ったんだけど、家で採れた野菜もバクバクと食べる。


 見た感じ特に我慢している様子とかもなく、本当に美味しそうに食べているのでこっちとしても嬉しい






「不思議だよなぁ・・・・・・」


 作物は種類によるけど、夜と月に与えている野菜達は一日から二日程度で収穫が出来る。


 他にも薬草類は四日程度かかるものもあるけど、病気もしないしどれも通常より大きく育つ


 実際にカブのような野菜はスイカ並にデカくなってしまったので、切って細かくして夜と月の食事として出してるぐらいだ。


 アルメヒ前線基地でも、これら作物の育成スピードが上がったという話は以前フロウゼルさんから聞いたことがある。


 他にも通常、ダンジョンの奥地でしか自生しないような上級薬草類も、神の地を隔てる谷を越えた場所では栽培が出来るみたいだし


 自分が想像する以上に、この地は不思議な性質を持っているみたいだ。


「でも、ここら辺だけなんだよね、こんなに成長が早いの」


 小屋の付近は元々自然が豊かで今程では無いにしても、ほかと比べて様々な植物が育っていた場所だ。


 そこを俺と太郎で木を切って日光が差し込むようにすると、爆発的な速度で周囲の植物が育ち、今では切り開いた空間を覆い尽くすような巨木が枝や葉から温かみのある淡い燐光を発し、周囲を照らしている。


 まぁ、この木に関しては自分が植えたからなんだけど


 この光景が見えるようになってから、ただえさえ早かった成長速度が更に加速し、作物は油断していると実をつけすぎて注意が必要だ。


 下手に種が地中に埋まってそこから育ってしまえば撤去も難しい


 ある意味暴走状態とも言えた。


 今でこそ、種類の分からない色鮮やかな花々が満開に咲き、数日後には朽ちて、新芽が生えるといった短期間で自浄作用が働いているんだけど、作物となると扱いを注意しなければならない


 ププ草も例外じゃなく、本では繊細で少しでも環境が変わったり、傷ついたりすると枯れてしまうってあるんだけど、今じゃ小屋に張り付いて、天然のグリーンカーテンが敷かれている。






「なんだこれ?」


 今でこそ、小屋周りに張り付き厄介な雑草と化してしまっているププ草なんだけど、何時ものように刈り取ろうとしたら、ププ草に花が咲いていた。


 なんで?


 今まではププ草から花が咲くなんて見たこと無いし、本にもその様な記載は無い。


 ただ葉の形状を見るに間違いなくププ草だ。


 それがピンク色の綺麗な花を咲かせている。


 見た目はユリに近いかな?


「・・・・・・少し採取しておこう」


 どういう訳でププ草から花が咲いたのかは分からないけど、多分自分が思っている以上に貴重な物な気がする。


 ただ以前にププ草の〈蘇生薬〉とカルッサ草の〈再生薬〉で酷い目にあったので取り扱いは注意だ。


 慎重に使おう


 悪いことでは無いんだろうけど、確かにこの土地は変化し続けているような気がした。

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