第40話 水路作り
「シロ、そっちはどう?」
「ん」
先日、シロが張り切りすぎて〈白夜之聖杖〉を焼き切ってしまい、そこから現実逃避をして農業に勤しんでいた。
あの事件以降、どうもシロは元気が無い
やってしまったのはシロだけど、原因を作ったのは俺だ。
なので気にする必要は無いって言ったんだけど、それでも落ち込んでいる。
なので俺はシロと一緒に共同作業をすることにした。
シロの気を紛らわす意味もあるんだけど、いつかはやらなきゃいけないことだ。
「わぅ」
別の作業を任せていた太郎が俺とシロがいる場所に戻ってきて、作業が終わったことを教えてくれる。
そんな太郎の見た目は美しい銀色の毛並みに土埃が大量に付着していた。
「ありがとう、じゃあ土を固めるか」
みんなでやっている作業は水路作り
近くの川から地面を掘って細い水路をつなげる。
今回は拠点西側、家と研究スペースの間を縫う様に作る予定だ。
他にもため池だったりも作ってみたいと思ってる。
なので太郎には川から拠点の近くまで水路となる部分を掘って貰っていた。
シロが水魔法を使えるので、最初の頃に比べて水路建設の重要度は減ったんだけど
今後シロには変装してアルメヒ前線基地の方へ一緒に行ってもらおうと思っていたりもする。
理由は単純で、シロにはコピー能力があるので、その能力の幅を広げたいっていうのもあるし
シロは赤ん坊みたいな無垢な性格をしているので、それ以外の経験を自ら培って欲しいという気持ちもあった。
その際、この拠点で水を生成できるシロが居なくなるわけで
拠点に残る光蜂たちや向日葵が苦労しないように、今回水路を作ろうと思ったわけだ。
そして、水路作りで一番難しいのは水路となる部分を掘ることなんだけど
その一番の重労働の掘削作業担当である太郎は、数百メートルという長さを2時間もかからずに終わらせてきたようだ。
この有能狼、凄い
前世の重機より早いし、作業も正確だ。
俺が指示した線を、一センチもズレること無く水路となる部分を掘っていた。
太郎が匠の技を魅せる一方、俺とシロは水門作りに精を出していた。
そしてなぜ、今になって水路作りを始めたかというと
シロが水量を調整する水門を製作出来るからだ。
あらゆる技術や経験、記憶といった物をコピーできるシロなんだけど
戦闘技術以外にも、これら建設技術の経験もシロは引き継いでいたので、かねてよりやりたかった水路作りを始める決断をした。
どうも冒険者は料理から簡易的な建築といった様々な作業が出来るのが当たり前のようで
小屋を増築したりして、それなりに経験を積んだ自分よりもシロは綺麗で丈夫な物を作る。
少し複雑な気分
だけどその御蔭で色々と出来る幅が増えたのだ。
武器の手入れもシロから教わりながらやったり
魔法も教えてもらったりしている。
やっぱりシロのコピー能力ってチートじゃないか?
そんな事を思っていたりするけど、水門作りを始めた時は少し落ち込んでいた様子のシロも幾分か元気を取り戻したようだ。
「うん、立派な水門だ」
俺とシロ(殆どはシロがやったけど)が一緒に作った水門は前世で言うところの、水田や畑の近くにある用水路に設置されるような小型の水門だ。
普段は隔壁を上げており、必要に応じて流す水量を調整する感じだ。
今は隔壁を落としており、まだ水は流していない
拠点の近くにある川は山から流れる川の支流で、先日の雷雨でも氾濫しなかった程度には安定している川なんだけど
万が一のことがあるので水路を補強しておきたい
といっても石を敷き詰めたりして、削られないようにするだけなんだけど
「良い感じだ!」
水路作りから一週間程度でため池を含めた殆どの作業が完了した。
川から流れる透明な綺麗な水が流れてきており、太郎もペロペロと舌を出して水を飲み始めた。
今回の作業のMVPはやはり太郎になるかもしれない
次点でシロかな?
俺は二人の作業を手伝っていただけで太郎が地面を掘って積み上がった土を移動させたりぐらい
余った土は畑の拡張に使う予定だ。
一時的に置いてある盛られた土には多くの虫が潜んでおり
俺と太郎とシロが作業している間、虫が主食の向日葵はずっと盛土を嘴で突っついて食事をしていた。
ちなみにそんな向日葵は、夜間作業の際にライト代わりとして活躍していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます