第39話 異世界魔法事情

「シロ、じゃあこの剣の持ち主に変身出来る?」


〈疾風之弓〉の人物は、腰まで伸びる艶やかな黒髪が特徴的な、おっとりとした若奥様で、その技量はまさに弓の名手といった感じで


〈白夜之聖杖〉は肩にかかるぐらいの、サラッとしたアイスブルーの髪色でボブカットの銀の綺麗な瞳が特徴的なクールな美少女さんだ。


 こちらはシロのお気に入りらしく、基本的にシロはずっとこの杖の持ち主だった少女の姿をしている。


 なので、最後に残った〈蒼炎之剣〉の持ち主に変身して貰いたいと言うのは当然の疑問だった。


「お、おい大丈夫か?」


 いっつもはキラキラとした眼で楽しそうに俺の顔を覗いてくるシロが、その綺麗な見た目でしてはいけない様な、とても嫌そうな顔をしていた。


「そ、そんなにこの剣の持ち主のコピーが嫌なの?」

「ン!」


 首を大きく縦に振り、〈蒼炎之剣〉の持ち主のコピーに対して拒絶の反応を示すシロ


 無理にコピーさせるのも気が引けるしなぁ


 ただシロは剣の持ち主の見た目が嫌なだけで、杖モードの姿で剣を持ち、見事な剣術を見せてくれた。


 シロは見た目だけじゃなく、記憶や経験だけでも読み取れるらしい


 見た目は単純に気分だという






「ン!」


 シロはまるで忍術を使うかのように、右手の人差し指と中指をピンと立てると、その先端から翡翠色の魔力が集まる。


 バチリ!と放電するかのように魔力が集中したところで前方へ突き出すように放った。


「おー」


 シロが使ったのは以前、フロウゼルさんとの決闘の際に使用していた〈風刃エスパーダ〉だ。


 ただフロウゼルさんのと違うのは、フロウゼルさんは鎧から剣に伝い、その剣先から魔法を飛ばしたのに対して、シロは指先から〈風刃エスパーダ〉を放っていた。


 他にも〈風刃エスパーダ〉の翡翠の閃光が7つと数が多く、巨樹の森の巨木を切り裂くように、ぱっと見でも威力も高いように見える。


「ん」


 まだまだあるよ、と言った様子で、シロは立て続けに赤、青、黄色の閃光を飛ばし、遂には目標物の巨木を倒してしまった。


「今使ったのは〈炎刃〉、〈氷刃〉、〈雷刃〉だよね?」

「ん」


 俺はシロが先程放った〈風刃〉と違った三種類の閃光について尋ねた。


 シロは右手を開くと、ぞれぞれの指の先端に赤、青、黄、緑のオーラを集める。


 俺が手に持つ魔術の本では、シロ使った魔法のこれらを刃の魔法と呼ばれ、魔法使いの世界では広く使われる基本的な攻撃魔法の一つだそうだ。


 刃の魔法は主に一対一の少人数戦で使われるそうで、魔力消費量の割に殺傷能力の高いコスパの良い魔法らしく


 これらを使えるようになって、一端の魔法使いと名乗る事が出来るそうだ。


「無詠唱魔法で杖も持たずにこの威力って凄いな」


〈空想図書館〉から取り出した魔法の基礎と呼ばれる本をパラパラと流し見しながら、今行われたシロの技術力の高さに驚いていた。


 魔法には、呪文を全て詠唱する【詠唱魔法】があり、これを威力100%とすると、【無詠唱魔法】は大体40%ぐらいと言われている。


 無詠唱魔法の利点は、敵に対してどの魔法を使用するのかを察知させないとか、咄嗟に使用できるだとか色々あるそうだ。


 無詠唱魔法は主に対人専門の魔法使いが好んで使うそうで、詠唱魔法は戦争などで、大規模な魔法を使用する際に使われるそうだ。


 そしてその中間に位置するのが、【略語魔法】と呼ばれ、これは以前フロウゼルさんが使っていた物が該当する。


 こちらは詠唱部分を省略して、威力と詠唱スピードを両立させた物だそうだ。


 こちらは威力とすれば詠唱魔法の75%ぐらいになる。


 略語魔法は主に冒険者が好んで使うそうで、フロウゼルさんを始めとした多くの冒険者が、この略語魔法の使い手だそうだ。


 ちなみに魔法の媒介装置である杖を使わなかったら威力は著しく下がるので、基本的に魔法使いは杖や指輪といった媒介装置を持っているらしい。


「シロさ、今度は杖を持って魔法を撃ってみてくれない?念のために空に目掛けて撃ってね」


 そしてシロは無詠唱で杖を使わずに、数発の刃の魔法で樹齢数百年という巨木を倒してしまった。


 なので、杖を持って放てばどうなるか?そう思い、シロに〈白夜之聖杖〉を渡す。


「ん」


 分かったとシロはコクリと頷くと、杖を空に掲げ、魔力を込め始めた。


「あ」


 シロが持つ〈白夜之聖杖〉からはキィイイイイン!と甲高い音が集まり、膨大な光量が杖の先端に集中し、周辺が暗くなる現象が起こる。


「シロ、早く撃って!」

「ン!」


 流石にヤバい!と思い、未だ魔力を込めるのを止めないシロに早く放つように指示を出すと、それを聞いたシロは杖を天に掲げ、光を放った。


 その瞬間、俺とシロが居た周辺の景色は白く塗りつぶされ、まるで時が止まったかのように一瞬音が消えた。


 そして目を再度開けてみれば、分厚い雲が綺麗に切り裂かれポッカリと丸い穴が空いていた。


「杖が・・・・・・」


 唖然と口を開いていると、シュウウゥゥと焼けるような音がすると思えば、シロが持っていた〈白夜之聖杖〉は焦げて焼き切れており


 特徴的な透明な三つの宝珠は黒く炭化して、杖の先端は溶けて無くなっていた。


「・・・・・・あー、どうしよっか」

「・・・・・・ん」


 俺とシロとの間には気まずい空気が流れる。


 シロも期待に答えようと、奮発して多く魔力を込めてしまったようだ。


 ただ問題なのが、フロウゼルさんから頂いた〈白夜之聖杖〉が一週間も経たないうちに、使い物にならなくなってしまった事だ。


 どうしよう











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