第38話 シロの変身能力

「シロ、待て」

「ん!」


 わかった!といった具合にコクリと頷くシロは、昨日いきなり現れた美少女の姿をしていた。


 ただそれは既に予想していたので、一応家で使う普段着を着てもらっている。


 といっても動物の革を鞣した簡素な作りの服だけど・・・・・・


「シロ、その姿はなんだ?」


 俺は人間そっくりになってしまったシロに対して単刀直入に聞く


 モンスターの中にも、ゴブリンやオークといった人型のモンスターは多く存在する。


 だけど、それら人型モンスターは人から見れば醜悪な姿をしており、人食を好み、その凶暴性から人間とは決して分かり会えない種族だと言われている。


 だけどシロはそれら人型モンスターと違い、意思疎通が取れて姿も人間とそっくりな見た目をしている。


 なぜその様なクールな見た目の美人さんになっているかは不明だが、本来ひんやりスベスベのスライムボディと違い、人としての温もりがあるし、試しに人型シロの手首を触ってみても脈も存在した。


 ただ言葉は話せないようで、んの単語しか使えないようだけど、俺の言葉はちゃんとわかっているようだ。


「ン!」

「杖?これを使ったのか?」


 シロが指を差したのは白と黒の螺旋がおしゃれな〈白夜之聖杖〉だ。


 つまりは魔法ってことなのかな?変身魔法っていうのもありえるだろうし、そう思っていたら、シロはおもむろに〈疾風之弓〉を取り出してペロペロ舐め始めた。


「シロ!ってあれ?」


 はしたない真似は止めなさい!と叱ろうとしたんだけど、〈疾風之弓〉を舐めたシロはアイスブルーの髪色が特徴的なクール系美少女から、艶やかな黒髪をしたおっとり系の美女へと変身した。


 穏やかな性格の若奥様、という言葉が似合う見た目なんだけど、中身が子供っぽいシロなので妙にアンバランスな雰囲気がある。


 褒めて!と言った様子で目をキラキラさせて俺の方を見ており、俺に合わせて正座をしているんだけど、ソワソワとしていて落ち着きが無い


「聖遺物の前の持ち主の姿をコピーしているってこと?」

「ン!」


 正解!といった感じで両手で大きな丸を作り表現してくれる。


「凄いな、記憶とかもコピー出来るの?」

「ン!」


 勿論!と言った様子でシロは横に置いてあった〈疾風之弓〉を手に取ると早速家の外へ出る。







(凄い、本当に熟練の冒険者みたいだ)


 家の外に出て、おもむろに弓を構えるシロの姿は歴戦の狩人の風格を感じる。


 弓を構えるその立ち姿は様になっており、風に靡く黒髪がとても美しい


 キラキラしていた表情もキリッと引き締まり、どこかフロウゼルさんに似た雰囲気を感じる。


 ゴウッ!


 シロの持つ〈疾風之弓〉から魔力で練られた白い矢は、風を纏い周辺の空気を切り裂いて一直線に飛んでいく


 家の近くに咲く、人の腰辺りまで伸びた花々が飛翔する矢によって大量に舞い、そのまま矢は森の奥へと消えていった。


「ん」


 おいで、と言った様子でシロは俺の腕を握ると、シロが放った矢が飛んでいった方向へ向かって歩き出した。








「すげぇ、グロウベアの眉間に一発」


 シロ(若奥様モード)が射た魔力の矢は数百メートル先に居た四つ腕の巨熊モンスターのグロウベアの眉間を見事に撃ち抜いていた。


 強靭な身体を持つグロウベアの眉間にはまるでマグナムで吹き飛んだかのように巨大な痕が残っていて、その姿は痛々しい


「ン!」


 どう?凄いでしょ!といった様子で胸をはるシロはなんか可愛らしい


「いや、本当に凄いよ!まさか持ち主の経験や技術までコピー出来るなんて」


 いや、本当に凄い、心からそう思う


 これら持ち主は神の地の始まりの森、と呼ばれる場所で亡くなった人達なんだけど、その技術や経験は一級品だ。


 そしてシロは俺よりも力が強く、身体能力が優れている。身体から溢れ出る魔力のオーラは膨大で、これに亡くなった人達の技量や経験が合わされば無敵なんじゃないんだろうか?そう思ったのだ。


 ただ膨大な魔力はフロウゼルさんたちと同質の物なんだけど、シロにはまた別の違ったオーラがあるみたいだ。


 それは俺や太郎とも違い、向日葵が持つオーラに似ているけどそれもと少し違う様子だ。


「ンー!」

「ちょっと!ここで抱きつくのは危ないって!」


 ただ性格は元の甘えん坊のシロのようで、何故か俺に対して抱きつく癖があるようだった。


 しかも若奥様のような見た目で、昨日の杖モードの少女形態と違って、若奥様風な弓モードのシロは女性らしい体つきをしているので、余計に目に毒だ。


「はーーなーーしーーてーーー!」


 俺の言葉が巨樹の森に響き渡る。


 その声を聞いて駆けつけた太郎が救出するまでの約5分もの間、俺は若奥様姿のシロにすりすり甘え続けられるのであった。


 この間の五分間がこれまで生きてきた人生の中で、一番精神が消耗した時間だと思った。



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