第35話 雷雨の日に森へ堕ちた邪神

「太郎、外はすごい雨だね」

「わぅ」


 フロウゼルさんと模擬戦をやった後、何処か納得した様子のフロウゼルさんと、何故か自分への対応が少し変わった基地の人達と、アーシェさんの救出の件の話に移った。


 救出の件の話とはズバリ報酬の話である。


「うーん、汚れが取れないなぁ」


そして貰ってきた3つの聖遺物


今日は稀に見る大雨なので、家で聖遺物のお掃除をしていた。


 本来報酬では金銭や名誉爵位として支払われる事が多いらしいんだけど、元々お金を必要としてこなかった自分としては、大金を持っていたとしても使い道があまり無い


 であれば亡くなった隊員たちの聖遺物を幾つか貰えるという話になったのだ。


 最初は故人の遺品を使う事に少し申し訳なさもあったんだけど、フロウゼルさんと模擬戦をやった訓練所では、あの時新たな聖遺物の使い手を選ぶ場所でもあったらしい


なのであの場所に多くの人が集まっていたんだそうだ。


「ただまぁ、武器が手に入ってよかったかな?」


 亡くなった人達が持っていた聖遺物は全てが一級品、どれもが強力な性能を誇り無駄にすることは出来ない


 中には使い手を選ぶような聖遺物も存在するらしいけど、今回俺は剣、弓、杖の三種類の聖遺物を貰った。


 防具は既にあるし、武器となれば作るもの難しいのでそれぞれ役割の被らない物を貰ってきた。


 それぞれ〈蒼炎之剣〉、〈疾風之弓〉、〈白夜之聖杖〉の三種類を選んだ。


〈蒼炎之剣〉は火魔法に特殊な効果を付与する魔剣の聖遺物で、回収した聖遺物の中では唯一A級に位置する凄い聖遺物だ。


 ただこの剣は強力なんだけど、使い手を選ぶタイプの聖遺物なようで、試しにその場にいた全員が使用してみたけど誰も力を引き出す事が出来なかったみたい


〈蒼炎之剣〉を十全に使えるようになると、その剣からは特殊な蒼い炎が現れるという


 とてもカッコイイ、流石魔剣だ。


二つ目の聖遺物は〈疾風之弓〉は風魔法を付与する魔法の弓


 風を纏った弓ははるか遠くまで射る事が出来、前の持ち主のオフェリアさんは1キロ先のモンスターの頭を撃ち抜いたという


 そしてこの弓の最大の特徴は


 なんと、魔力を込めれば魔力の矢が生成されるのだ!


 フロウゼルさん曰く、それをするなら普通に魔法を撃った方がいいと言うが、実質無限に撃てる弓である。


 矢の本数を気にしなくていいのは、とてもユニークな能力だ。


 なのでこれは何としても欲しかったので貰ってきた。


 そして最後にもらったのが〈白夜之聖杖〉


 これはまさしく魔法使いが使う杖である。


 これを媒介にして魔法を使用できるんだけど、呪文とか覚えないと使うのは難しいらしい


 簡単な魔法なら本になってたり、覚えることは簡単なんだけど、強力な魔法や危険な魔法となってくると、人から教えて貰う必要があるそうだ。


それらは大変価値があるもので、金銭で取引に応じないこともあるし、人によってはそのまま誰にも教えず墓場まで持っていく人もいるんだとか


 ただあらゆる本が存在する〈空想図書館〉で探せば大体の魔法は覚えられそうだけど


〈空想図書館〉だと本だけでなく、研究レポートから子供の落書きのよう物まで様々あるんだけど、この〈空想図書館〉に保管される条件は分からない


 ただパッと見た感じ、〈空想図書館〉の蔵書の大半を埋めているのは魔法関連の本だと思われる。


 フロウゼルさんに聞いてみても、世界各国どこもが魔法関連の研究が一番盛んなようで、新魔法の開発や失われた魔法の復活といった魔法関連の研究には様々あるそうだ。


 そして〈白夜之聖杖〉なんだけど、これはB級聖遺物の魔法の杖で、火、水、風、光、聖の五属性の魔法に対応している万能な聖遺物だという


 一般的な魔法の杖だと、各属性ごとに揃えるのが当たり前で、複数の属性に対応した杖は漏れなく失われた技術で作られた聖遺物だそうだ。


 文献では、フロウゼルさんたち新人類が台頭する前に繁栄してた前人類、つまりは旧人類の人達でも、三つの属性に対応した杖を作成するのが限界だったんだそう


 なので、この〈白夜之聖杖〉はかなり貴重な品だと言える。


 形状は杖の先端が白と黒が螺旋状に交差していて、三つの透明な宝珠が螺旋の中に縦に並んで埋め込まれている感じ


 すっごいオシャレ


そんな感想を抱いていると


 ドオオオオン!


「うおっ!?」


 腹の底から響くような轟音


 外を見てみれば、大雨はさらに酷くなっていて、もはや嵐といった具合だ。


それは〈巨樹の森〉の巨木達がしなるレベルで暴風が吹き荒れ、横殴りの雨が凄い


 暗闇を白く塗りつぶすかのように雷鳴が轟き、さすがの太郎も今日は狩りへ出向かずお留守番


 というか俺が止めたんだけど


「本当に凄いなこの不思議な木、なんていう種類なんだろう?」


 今では小屋を覆う程に、巨大化したボンヤリと暖かな光を放つ不思議な木


 植物大全を見ても分からなかった謎の木なんだけど


 この木周辺は不思議なバリアのような保護膜が張られているようで、外は台風の中心にいるような暴風なのに、木の周辺は穏やかな空間が広がっている。


 木に巣を作っている光蜂もふよふよと飛びながら今日も花の蜜をせっせと運んでいた。







「昨日の轟音の原因はこれか」


 雨が止んだのは二日後の昼間だった。


 あれ程の嵐を受けたのに、異世界の植物たちは逞しく被害にあった様子はない


 ただそんな森の中でもとても目立つ一個のクレーターを発見した。


「落雷?いや、隕石かな?」


 直系3メートルほどのクレーターに、周辺には焦げたような跡が残っている。


 その中心には黒い塊が鎮座していて、あれが多分先日の轟音の正体なのだろう


「おー、これが隕石か」


 黒曜石みたいに黒く艶やかな隕石、それを手に取ろうと近づいた瞬間


「ん?柔らかい」


 手に取ってみようと隕石に触った瞬間、もっちりとしたゼリーのような感触が手に伝わり、思わず飛び退いてしまった。


 ぷるぷる


「何だこの謎物体・・・・・・」


 俺が触れた瞬間、何やらプルンと揺れてこの隕石と思われた物体が生きている事に気がついた。


 ただ距離を取っても何かアクションをする様子はなく、そのまま沈黙を貫いている。


「死んでる?いや、弱っているのかな?」


 こいつがこの場所に放置されていたって事は、二日間ずっとあの嵐の中に晒されていたということになる。


「助けるべき・・・・・・か?」


 横目を見ると太郎は敵意は出していないけど、警戒はしているっぽい


 こいつが何の生き物か分からないけど、家に持って帰ろう





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