第33話 フロウゼルの独白②

「laoue dogwa23」

『これはアーシェさんを助けたときに回収した仲間の遺品』


 家具としては最高級のマツワキの木で出来たテーブルの上に置かれたのは見覚えのあるぼろぼろな状態の聖遺物の数々


「〈疾風之弓〉・・・・・・という事はオフェリアも」


 彼女は私と同じ様に貴族の出でありながら、冒険者としても活躍する才媛


 ただ私と違い、彼女の家はほぼ豪商と変わらないぐらいの下級貴族の出であり、そういう経緯から平民であるロームと結婚した珍しい経歴を持つ私の友人だった人物だ。


「〈双璧之盾〉もあります。」


 そうか、彼女の夫であるロームの聖遺物も確認できたようだ。


 優れた魔法適性がありながら、貴人として礼儀正しい振る舞い、などと言って貴族出身の冒険者は全体を通して少ない


 貴族出身で冒険者になる者は、大体が食い扶持に困るほど困窮した下級貴族の次男以下が大半だ。


 困窮してもいないのに、態々冒険者になる貴族は少ない


 代々脈々と繋いできたその力を、民の為に使うどころか、国家存亡を掛けて戦う戦争時で参加せず。あろうことか戦時中に関わらず宮殿で宴を開く腐りきった貴族ども


 私はそんな連中が心底嫌いだった。


 それは裕福な平民と暮らしが対して変わらない下級貴族でも同じだ。


 寧ろこちらの方が質が悪いとも言える。


 貴族という権威を盾に、自領の女子供を攫ったり


 遊びで平民の酒場を荒らす子息達に、それを罰しない親


 そんな事が当然かのように蔓延っているのがこの帝国だ。


 勿論、その様な奴らは時期は多かれ少なかれ、皇帝の名のもとに粛清される運命にあるのだが、如何せん数が多い


 栄華を極めたからこそ、この様な腐敗が進むのも当然だと言えた。






「アーマレア様、明日の調査についてなのですが・・・・・・」

「あ、あぁ・・・・・・大丈夫だ。その作業はこちらでやっておこう」


 入室したオフェリアが両手に抱えるのは大量の紙束、明日は帝国初の神の地へ調査へ出向くと言うのに、往来几帳面な彼女は夜遅くまで作業をしていたようだ。


「これぐらい他の者に任せればいいものを、明日はオフェリアも外地へ出るんだろう?」

「はい、明日は夫と共に森の中腹まで調査する予定です。アレス様を筆頭に目標は信号装置を設置する予定ですね」


 彼女は男爵家の出ではあるものの、貴族特有の傲慢さがない


 貴族特有の傲慢さとは、目上の者には媚びへつらい、目下の者にはまるで畜生を見るかの様に扱う


 面従腹背は当たり前、その場しのぎの耳障りの良い事を言いつつ逃げる。


 そんな気配をオフェリアからは感じなかった。


 帝都の社交場で、数多くの権謀術数に長けた人物たちとやりあってきた中、地方の下級貴族の次女がこの私を欺けるとも思えない


 ただ彼女は帝都でもそれなりに有名な女だった。


 自領から出土したC級聖遺物〈疾風之弓〉


 それを手に取り冒険者になったという


 裕福ではない地方貴族の相続権を持たない子どもたちは、冒険者になるものが多い


 その力は平民と隔絶した魔力量を誇り、性格に難があっても有望な人材だからだ。


 ただオフェリアはそれだけではない


 数百万という帝国冒険者の中で、上位1%未満しか居ないと言われているA級冒険者に昇級し


 あろうことか同じA級冒険者の平民の男と結婚したというではないか


 オフェリアが男であれば珍しくはあるものの、そこまで騒ぎ立てるものでもない


 ただオフェリアは女で、貴族の女は他家へ嫁ぐのが当たり前だ。


 公爵家の出で、相手を選ばなければならない私ですら見合いの話は多くある。


 私の場合はこのアルメヒ前線基地に赴任することになり、縁談の話も流れてしまったが、これは特殊な例だ。


 だからこそ、オフェリアが平民と結婚したことに誰しもが驚いた。


 それを許した家もそうだ。


 ただ、彼女は良い意味で貴族らしくない女であった。


 貴族としての品位は持ち合わせつつも、目下の者に対してちゃんと目線を合わせられる器量が彼女にはあった。


 だから、私はオフェリアと友人になれたのだと思う


「彼女たちの遺体は?」


 事前にアーシェを助けた謎の男がおそらく〈古代魔法言語〉を喋るということで呼び出した帝都の研究機関で働くラロッソという男を呼び出し、そいつを介してオフェリアの最後を聞く


 チクリ、と顔には出さないが心が鋭い針に刺されたかのように痛む、ただ彼女の最後を聞くのも友として役目だろう、そう思ったのだ。


『殆どが原型を留めていない程に荒らされていた。そのままでは可哀想だったので埋めて遺品だけを持ってきた』


 彼はそう言うと、小袋を取りだし、テーブルの上に広げる。


「これは・・・・・・」

『これは、多分身分を確認する為の物だよね?出来るだけ全員分集めて持ってきた』


 彼が集めてきたのは様々な模様が施された金属の冒険者タグ


 帝国の冒険者には必ず首に掲げる事が義務付けられている認識票だ。


 冒険者の片割れでもある私もA級冒険者を示す金色のタグを首に掲げている。


 そして小袋から出された20数枚ほどの冒険者タグは、A級以上を示す金色のドッグタグ


 調査隊にはサラン公国の冒険者を始めとした他の国から派遣された冒険者も居たため、作りが若干異なっているが、それでも等級を示す色は世界共通だ。


 そしてそこから生えるように目立つのは銀に虹色の光が反射する特殊な金属、聖銀で作られたドッグタグ


 これは数少ないS級冒険者の物だ。


 そして二人いた第二調査隊の中で、片方のS級冒険者であるモロウは命からがら戻ってきたので、おそらくは第二調査隊の隊長であったアレスのドッグタグであろう


 これを持って第二調査隊の隊員はアーシェとモロウを除いて全滅したということが分かった。


 最初に渡された大量の聖遺物の中には、血痕の残ったぼろぼろの〈疾風之弓〉が聖遺物の山から微かに覗いており


 この時、はっきりと私は友が死んだことを認識した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る