第31話 初めての戦闘訓練②
前世は日本人であるソラにとって、戦闘とは特別な意味を持った物ではない
彼にとって戦闘とは生きる為に必要な行為だし、必要の無い戦闘行為は避けるべきだとも思っている。
事実、太郎が家族になって以降、食料調達や外敵排除を目的とした戦闘行為は太郎に一任しているし、この前ボボスと戦ったのだって急に奴らが襲ってきたからだ。
なので、武人として何か拘りがある訳でも、戦闘に対して価値を見出しているわけでも無かった。
強いて言えば、食肉として美味な動物を見かけた際に、血眼になって狩るぐらいだろうか?
多分この考えはこの世界に置いてかなりの異端で、正面に相対するフロウゼルさんに話しても一ミリも共感してもらえないだろう
(うーん困ったなぁ・・・・・・)
話をしていたら急にフロウゼルさんが一対一の決闘を申し込んできた。
彼女の服装は革の防具を装着し、胸着けられている金属のプレートにはエマネス帝国の紋章が描かれている。
どういう理由かは知らないが、フロウゼルさんの右肩から手先に掛けて義手のように、部分的に彼女の右腕を金属の鎧が覆い、その表面には何やら刻印が施されている。
「では準備はいいかな?」
「はい!」
返事をすると、フロウゼルさんは左腰に掛けていた細剣を見事な動作で抜剣し、指揮棒を振るかのようにその剣先を空に向けて構えた。
「〈
精神を統一していたフロウゼルさんは、その閉じていた目を一気に開眼すると、流れる動作で細剣を振り、呪文を唱える。
すると彼女の右腕に装着してた金属鎧に彫られていた刻印が緑色に輝き出し、その光は段々と細剣の刀身に集まってくる。
そして彼女が剣を突く様に剣を振れば、その剣の先からは翡翠の閃光が三つ飛び出し、こちらへ向かって襲ってくる。
パチィ!
(うん、これぐらいなら大丈夫)
俺はその攻撃を避けることなく胴体で受け止めた。
分厚い革鎧越しに、静電気を浴びたような小さな衝撃を受ける。
〈風刃〉と唱えられた魔法は速度を重視した奇襲向けの魔法だろうか?
気がつけばフロウゼルさんは一気に距離を詰めて来ており、その間は既に剣が届く範囲内だ。
「風刃を受けても微動だにしないとはねっ!」
どうも先程の攻撃を受け止めたのが癪に障ったようで、フロウゼルさんは少し不満げな様子
繰り出された細剣の刺突を避け、距離をとる。
(どうしよう)
下手に殴ったら人間ザクロより酷い光景が出来上がりそうだし、武器を無力化しようにも下手に壊して弁償となったら後が怖い
自分が剣を使えればいいんだけど、武術の心得は無いしどうしたものか
距離を取ろうにもフロウゼルさんがそれを許さない、常に張り付くようについてくる。
うーん、突破口がないな
アレをやってみよう
そのアレとは、先程盛大に訓練場を壊して怒られていたアーシェさんが使った隕石が降り注ぐかのような技の模倣だ。
(確かオーラを集中させて……)
距離が離れない状況で、俺は一気に自分の右脚に魔力を集め一気に地面を踏み抜く
ズドン!
すると、脚に溜め込まれていたオーラが足を伝い、地面に流れてゆく感覚がある。
「なっ!?」
局地的な大地震、俺が地面を踏み抜いた右足を中心にして蜘蛛の巣状に地面が割れる。
フロウゼルさんを直接蹴ると大惨事になりかねないので、地面を揺らして体勢を崩してもらう事にした。
その目論見は見事的中したと判断できる。
急な振動と割れた地面に足をとられ、体勢を崩すフロウゼルさん
ここがチャンスだろう
「よいしょ!」
俺は体勢を崩したフロウゼルさんの右脇を背後から抱える様に持ち上げ、そのまま首元まで回し、ガッチリとホールドする。
身体能力ではこちらが上なので外せないだろう
「グゥッ!?」
ただそのまま暴れられても困るので少しキツめに締め付ける。
拘束されたフロウゼルさんの苦悶の声で少し力を緩めそうになるが、ここは我慢だ。
俺がフロウゼルさんを捕らえた時点で勝負は既についたも同然だった。
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