第30話 初めての戦闘訓練

 今回お土産として持ってきた光蜂の蜂蜜は、残念ながらお蔵入りとなり、封印が決定した。


 流石に大げさな、と一瞬思ったけど、蜂蜜を摂取したフロウゼルさんが小一時間フラつく様子を見ていると、フロウゼルさんが言った言葉は決して嘘では無いことが分かった。


 ただ蜂蜜を摂取した事によるの酔いと、一般的なお酒による酔いは違うようで、酩酊状態でも嘔吐感が無く、多分体に害は無いだろうと体験者であるフロウゼルさんはそう語ったので少し安心した。


 寧ろ、酔いが醒めた後はすこぶる体調が良いとの事


(うーん、お酒に強いのかな?この体)


 昨日、あまりの感動で結構蜂蜜を摂取したけど特に酔った感覚は無かった。


 聞けば、エルフやドワーフといった亜人種の人達は酒に対する酔いに強く、彼らならそのまま原液で摂取しても大丈夫かもしれないとのこと


 ・・・・・・もしかしたら俺、亜人の血が入っているとか?


 村では俺だけ肌の色が違って目立っていたし


 可能性としてはありそうだ。


 そんな事を思いつつ、現在フロウゼルさん達と一緒にやってきている場所はエマネス帝国居住区に存在する訓練場だ。


「結構広いですね」

「魔法訓練もあるからね、基地建設に貢献した五大国は専用の訓練場があるが、その他の国の調査隊は共同の訓練場を使っている」


 フロウゼルさん曰く、アルメヒ調査隊には30カ国以上の国が参加していて、300人居る冒険者のうち約半分が五大国から選ばれているそうだ。


 その為、エマネス帝国を含めた五大国出身の冒険者には専用の訓練場が与えられ、こうやって好きな時間に訓練をすることが出来るそうだ。


「我が国の調査隊は前回多大な被害を受けた。その為人員を補充して、来週、再度始まりの森へ調査することが決まっている」


 始まりの森とは、前回アーシェさんを助けた場所


 あの時、エマネス帝国の冒険者を主軸とした4カ国合同で調査に当たっていた所、一頭身の鳥型モンスター〈ボボス〉に襲われ、壊滅的な被害を受けた。


 奇跡的にアーシェさんは生き残ったけど、亡くなった冒険者の中にはエマネス帝国出身の冒険者も数名参加しており、先週補充隊員が送られてきたそうだ。


「祖国でもアルメヒ調査隊への抽選倍率は高くてね、人材には困らないが質を求めるとなるとどうも・・・・・・」


 長い間、調査が禁止されていた神の地は冒険者達にとって憧れの地なんだそう


 昔から立身出世物語や御伽噺として、神の地を題材として語られる事が多く、実際に存在した伝説の冒険者アスラーが、神の地で獲た聖遺物を国に収めた功績を持って、貴族として召し上げられたりといったり


 冒険者たちにとって、神の地とは富と名声を得られる場所として考えられているそうだ。


「でもあの森に入るのは止めたほうがいいと思いますよ?」


 嫌味に聞こえるかも知れないけど、俺は敢えて本心から思っていることを正直に話す。


 実際、俺とフロウゼルさんの目の前で繰り広げられている訓練の動きに淀みはなく精練とされており、彼らが一流の冒険者だというのも納得が行く


 ただ技術や経験でどうにかなるのなら俺も止めない、俺は神様から貰った転生チートを持っているから何とか戦えているだけであって、本来であれば人類が挑める様な場所では無いんだと思う


「そうかい?手厳しいね」

「仲良くなった人達に死んでは欲しくないですから」


 事実、俺はこの基地に置いてフロウゼルさん達以外と交流が無い


 勿論、やろうと思えば出来るんだろうけど、一から再度関係を構築するには些か面倒だし、こうやって良くしてくれるフロウゼルさんやアーシェさん、ラロッソさんに今日出会ったカエラさん達が不幸な目にあって欲しくないと思うのは当然だ。


「コレを見てもそう思うかい?ほらあれ」


 フロウゼルさんが指を差した訓練所の一角には、赤く輝く閃光が天高く飛翔し、その煌めきが太陽と重なった直後、少しの滞空を経てまるで隕石が落ちてくるかのように、地面に向かっていく様子だった。


アーシェさんですか」


 その閃光の主はあの赤い髪が特徴的なアーシェさんだった。


 酷い状態だった鎧も新調され、その特徴的な赤い髪と同じ、赤を基調とし、白や黒の線が刻まれた鎧はまるで芸術品かのように見事だ。そしてその赤髪を靡かせながら両手で持っていた剣を地面に突き刺し、その次の瞬間、周辺の大地は割れ、割れた境目から緋色の閃光が吹き出した。


 以前、彼女を見た時よりも内包する魔力は大きく洗練されている。


「彼女は帝国でも期待の若手と言われていてね、膨大な魔力と出力を併せ持った才女だ。そして顔立ちも非常に整っているから貴族連中からも人気が高く縁談の話も幾つか来ている」


 聞けば、この世界において魔法を行使する上に必要な魔力量は、一部の例外を除いて親から受け継いだ血統で決まるそうだ。


 エマネス帝国を始めとした様々な国において、貴族と平民という枠組みが存在し、支配階級である貴族の人間は先祖代々から優れた魔力量を誇る人間と結婚し繋いできたそうだ。


 そうして出来上がったのが、貴族=魔法使いという構図だ。


 勿論、平民の中には複雑な事情で貴族の血が混じり、その因子が覚醒して貴族級の魔力量を誇る平民もいるそうで


 その例外が今現在、俺とフロウゼルさんの眼の前で楽しそうに訓練をしている赤髪の少女アーシェという女性らしい


(確かにアーシェさんの魔力のオーラは他の人より大きいし、前よりも格段と強くなっているけど、それでも・・・・・・)


 それでもあの森で戦うには少ないと俺は思った。


 この場でアーシェさんよりも魔力が多い人は数人存在するけど、その内の一人であるフロウゼルさんを抜いた全員が、魔法使いらしいローブに身を包んだ人達だった。


 パッと見ても、彼らの体付きはラロッソさんら一般人と変わらず、特に身体が鍛えられている様子もない


 訓練の様子を見ても彼らは杖をかざして魔法を唱えるだけで、近接戦闘はおろか、短剣すら装備していない


 彼ら魔法使いの周りには、複数人の武器を持った冒険者が周囲を囲み護衛する。そんな感じだ。


 ただそれでは見渡しの悪い森では厳しい、そう思う


 日によっては数歩先も見えない濃い霧が急に立ち込める事もあるし、魔力の波長を乱す不思議な波を放っていくるモンスターも居る。


 俺や太郎はどうもアーシェさんやフロウゼルさん達とは違ったオーラを持っているようで、その不思議光線はあんまり効かないけど、立ちくらみのような感じにはなる。


 あの気持ち悪い魔力の波を受けたら、彼らは一溜まりもないんじゃないか?と思う


「ふむ、今のアーシェでも駄目か・・・・・・」


 あの事件以降、死地を彷徨った彼女は格段と強くなり、森から抜け出して基地へ向かってくるモンスターも単独で倒せるようになったらしい


 元々有望な若手冒険者の才能が花開き今の彼女の実力だと、来年のランク更新ではS級に昇格すると言われてるみたい


 ……某有名漫画に出てくる戦闘民族なんだろうか?アーシェさん


 ただそれでも厳しいと思う


 森に住むモンスターなら何とかなるかもしれないけど、ボボスみたいな別格の敵が現れないという保証も無いし


 劇的に強くなったアーシェさんの訓練を見ても尚、意見を変えない自分を見て何処か思案するような表情でフロウゼルさんは指を上顎にあてた。


「少し、私と一対一の勝負をさせて貰ってもいいかな?」



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