第28話 危険な甘味

「ソラ君、よく来てくれた!」


 案内された一室で一人待っていたら、扉を開けて中へ入ってくるのは以前と違い、冒険者風の格好をしたフロウゼルさんだった。


 前回は軍服のような格好をしていたけど、今日は厚めの生地を重ねた革鎧を装備しているみたい


 銀の胸当てには、フロウゼルさんの祖国のエマネス帝国の紋章と思われる赤の太陽を背景に、空に向かって咆哮をする黒竜の絵が描かれていた。


 パッと見た感じ、フロウゼルさんが着ける鎧は普段使っている装備の様で、何度か使われているのか修理されたような痕が残っている。


 そんな装いのフロウゼルさん自身は、淡い金髪にパッチリと開いた鷲を彷彿とさせる大きな目、女性でありながらその背丈は大柄の部類であるけど、それに加えてスタイルも良いのでとても映える格好だ。


 個人的な感想を言わせて貰えば、フロウゼルさんは間違いなく美女、と言えるけど男性よりも女性に人気が出そうな人って感じ


 そして、後ろに控えるのは先程この部屋へ案内してもらったカエラさん、今回はラロッソさんとアーシェさんは居ないようだった。


「フロウゼルさん、お久しぶりです」


 部屋へ入ってきたフロウゼルさんに軽く会釈をして挨拶をする。


 この部屋にいるのは俺とフロウゼルさんに通訳担当のカエラさん


 ちらっとフロウゼルさんが入ってきた扉入り口の廊下側には二人の男性がチラリと見えたので、彼らが護衛の人なのかな?


「いやいや、一ヶ月も音沙汰がなかったからね、もしかして帰り際に何か会ったんじゃないかと心配していたよ」

「色々とやっていたら時間が過ぎていまして・・・・・・本当に申し訳ないです」


 時間を指定していなかったとは言え、流石に近いうちに来ると言っておきながら一ヶ月も放置していたのは流石に不味かった。


 なので素直に謝る。フロウゼルさん自身、特に気にしてはいないと言ってくれるけど、それでもこちらが悪いし、今後良い関係を築いていくためにも謝罪は必要だと思う


 ん?


 そんな事を思いながらふと、ある違和感に気がついた。


「あれ?フロウゼルさん俺の言葉を話せるんですか?」


 一連の会話で思わず自然と話してしまっていたけど、フロウゼルさんは通訳担当のカエラさんを介せずに自分の口で俺が話す言語、〈古代魔法言語〉を流暢な喋り方で話していたのだ。


「あぁ、あの後ラロッソや後ろに控えているカエラに頼んで教えて貰ったんだ。私自ら直接話せたほうが、会話もスムーズに進むからね」


 フロウゼルさんとの再会は大体一ヶ月ぶりだ。そしてその間にフロウゼルさんは古代魔法言語を習得したという


 確かに本人同士で直接話せたほうが良いのは間違いないけど・・・・・・


「異言語を一ヶ月でですか?そんなすぐ覚えられる物なのでしょうか?」

「どうだろう?私としては特に難しいとは思わなかったけど・・・・・・といいつつも、私も未だ勉強中の身だけどね」


 フロウゼルさん曰く、殆どは通訳を介せず自ら話せるそうだが、まだはっきりと分からない単語も幾つかあるそうだ。


(言語ってそんな早く覚えられるものなのか?)


 前世であっても、異なる言語を習得するには多大な時間がかかった。


 文字や文章だけでなく、文法から覚えることは多く、その量は膨大だ。


 発音だって、自然と耳に入るぐらいに違和感がなく、流暢に話せるのは至難の技のはず。


 そう思い、フロウゼルさんの講師役となったカエラさんを見てみると・・・・・・


(あ、これはフロウゼルさんが特別っぽいな)


 アハハハ、と言った様子で少し苦笑いを浮かべているカエラさんを見るに、短期間で異言語を習得するのは難しいという事だろう


 フロウゼルさんは貴族の人というから勉強とかその方向には強いのだろうか?



 そんな事を思いつつ、フロウゼルさんが古代魔法言語を習得していることに驚いていると、そんな頃合いを見計らって給仕の女性が台車を押して部屋に入ってきた。


「これは?」

「私の祖国、エマネス帝国のお茶会で良く出されるお菓子のフロールだよ、ぜひ食べてみて欲しい」


 フロール、そう呼ばれたその食べ物は薄いメダルのような形をしており、周りがきつね色に焼けている。


 サクッ


(うん、美味しい・・・・・・)


 フロールは前世で言うところ、ただのビスケットやクラッカーに近い、ただ俺の知るビスケットよりも生地が薄く、サクッと割れて口の中には、フロールの生地本来の甘味があって美味しい


 このお菓子だど一緒に出された紅茶の味も楽しめるし中々良い組み合わせだろう


 これなら……


「ふむ、その小さな容器はなんだい?」


 俺が急に荷物を漁り始めたので、フロウゼルさんは何事かと凄く興味を持ってくれている様子だった。


 貴族文化は俺には分からないけど、返礼品は何かしら特別な意味合いでもあるのだろうか?



 そんなことを思いつつ、荷物の中からフロウゼルさんとアーシェさん用のお土産として持ってきた光蜂の蜂蜜が入った容器を取り出す。


 これなら蜂蜜本来の味が楽しめるだろう


 せっかくなのでこの場で少し味見をして貰おうと、今回売る為として持ってきた方を試食用として使う事にした。


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