第27話 アルメヒ前線基地

「アーシェさんやフロウゼルさんはこの蜂蜜喜んでくれるかな?」


 後日来てください、と言われて一ヶ月もすっぽかしていた謝罪も兼ねて、先日採取した光蜂の蜂蜜を、村で拾った小さな容器に入れて持っていくことにした。


 女性は甘味に弱いと聞くし


 ラロッソさんには赤色の輝花を渡す予定だ。


 男が男に対して花を渡すのもあれだけど


 根が学者だから珍しいものを貰ったら嬉しいんじゃないか?と思ったからだ。





「あのー、すみません」


 相変わらずの人嫌いを発揮する太郎を森で待機させ、基地へと続く橋を護る守衛の人に話しかける。


「Low4 ;aoujo!」


 相変わらず何を言っているかは分からないけど、向こうは自分のことを知ってくれている様子で、一人が基地に向かって走っていった。


 多分ここで待てばいいのかな?


 守衛の人達が休憩すると思われる駐在所の待合室に案内され、ふかふかの椅子に座らせてもらう


「あっ、ありがとうございます」


 コトン、と置かれたのは茶色に濁った飲み物


 香ばしい香りがするので、烏龍茶に近いお茶なんだろうか


「おいしい」


 淹れたてなのか、少し熱いけど、その熱さがよりお茶の風味を豊かにしてくれている。


 フロウゼルさんの所では、紅茶のような甘みのあるお茶が多かったので、日本人的感性の自分としては、守衛の男性が出してくれたこのお茶のほうが好みだ。



「遅くなりました!ソラ様、こちらへどうぞ!」

「あ、はい」


 駐在所でお茶を楽しみつつ待っていたら、やって来たのはハキハキとした女性の声


 ラロッソさんと同じように水色のモノクルを付けた濃い金髪のセミロングの女性


 深い青色のローブを着ており、その見た目から多分ラロッソさんと同じ学者さんなのかな?


「私、エマネス帝国第五聖遺物研究所に所属していますカエラっていいます。よろしくお願いします!」

「自分はソラっていいます。こちらこそよろしくお願いします」


 ペコリとカエラさんがお辞儀をしたので、それに返すようにお辞儀する。


 カエラさんはおっとりそうな見た目だけど、言葉はハキハキとしていて、目もギラギラと少し怖い……カエラさんは何故か興奮?しているようだった。


 しかし


(すっごい大きい)


 何とは言わないけど


 女性にある二つの果実が凄かった。


 身体を覆う、ぶかぶかのローブを着けていても分かるその見事なモノに思わず目が釘付けになりかけるが、流石に初対面の女性に失礼極まりないので気をつける。


(よかった、俺だけじゃ無さそう)


 そんな反応をしたのは、俺だけじゃなく後ろで待っていた守衛の男性陣も同じように気まずそうな反応をしていた。


「どうしましたか?」


 コテン、と首をかしげるすがたは非常に可愛らしく、あざとさすら感じるが、どうも自分を含めた男性陣は居心地が悪い


「い、いえ・・・・・・なんでもありません」





 基地は南北に巨大な門に基地へと繋がる橋が存在する。


 俺が通過した門は森から一番近い北門


 こちらは神の地へ進む方角なので、北門付近は冒険者が多く歩いていて、装備の修理や製作を行う鍛冶工房も全部、基地北側に集まっている。


 一方、南側は毎日のように各国から様々な支援物資が届き、多くの馬車や巨大なトカゲのようなモンスターを荷車を引いている竜車が南門に長蛇の列をなしている。


「すごいですね、基地って聞きますけどまるで街のようだ」

「はい、このアルメヒ前線基地では調査隊員300名、それを支援する補助隊員が700名、そして基地を維持し、隊員の衣食住から装備のメンテナンスを行う人間、各国から招集された学者が3000人、計4000人がこのアルメヒ前線基地で生活しています」

「4000人!これでは基地じゃなく都市ですね」

「いえ、これでもまだ予定の半分にも満たしていません」


 基地の中をカエラさんに案内されながら進んでいく


 様々な種族の人達が多く行き交い、まるで祭りのような騒がしさがある。


 そんな場所でも、カエラさんの声は一段と聞き取りやすく、目的地へ向かう間、軽くこの基地・・・・・・アルメヒ前線基地について解説してもらっている。


 アルメヒ前線基地は総勢4000人が住む巨大な施設だ。


 エマネス帝国を含めたこの基地を維持する為に尽力した五大国と、数十の国々によって設立された調査隊は、毎日のように沢山の物資が基地の中へと運ばれていく


「本来は神の地の調査でしたが、この地だと上級以上の薬草の人工栽培が可能なことが分かりました。それもあってか最近はいつもより支援の数が多いですね」

「薬草って本来は栽培出来ないんですか?」

「はい、市販のポーションに使われる程度の薬草でしたら大丈夫ですが、医療用や上級ポーションの原材料は現状ここか、ダンジョン内部で採取するしかありません」


 カエラさんが言うには、アルメヒ前線基地は最終的に1.5万人程度の規模になるそうだ。


 俺としてはそれだけで充分凄いんだけど、最近になって人類圏と神の地を隔てる大渓谷【リヴォル川】を越えた先の、神の地側の土地だと、それまで天然物を採取するしか無かった上質な薬草達が栽培出来ることが判明したらしい


 なので、そのお話を聞いた各国のお偉いさん方は、当初の予定よりも更に規模を大きくし、アルメヒ前線基地を3万人規模の基地に


 他にもこのアルメヒ前線基地以外に、複数の基地を建設しようなんて案も出ているらしい


 やることが大きすぎて一般人の俺には到底思いつかない壮大な計画だった。


「上級薬草の栽培可能、それだけでもこの場所には大きな価値があります。ダンジョン産の薬草では品質にばらつきがありますし、供給量も少ないですからね」


 効能の高い薬草は、ダンジョンといった魔力の素である魔素と呼ばれる物質が多く含んでいる場所でしか育たないそうだ。


 他にも、魔素を含まない土地に比べて一般的な作物の成長スピードも早く、病気にも強く多くの実を付けるそうだ。


(だからウチの畑もあんなに成長スピードが早いのか)


 ミサミサの実しかり、巨大化したり豊作したりする理由が何となくわかった気がする。


 その一方で、カエラさんは魔素が多く含まれているという事はより強力なモンスターが発生しやすい場所でもあるそうなので、非常に危険という事がデメリットとしてあるそうだ。


 なのでカエラさんとしては豊かな土地に対して、その危険度の高さや人的被害をみたら、基地の拡張に反対だと考えているそうだ。

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