第26話 光蜂と花の交配実験

 羽音も立てずにフヨフヨと飛ぶ光蜂


 拠点周辺が一面お花畑になって一ヶ月が経った。その間、特に何かをするわけでもなく、せっせと花の蜜を運ぶ蜂の様子を見て過ごした。


 そこで分かったことは幾つかある。


(普段は白く光って、花の色によって蜂の色も変わるのか)


 お花畑には色鮮やかな花が咲き誇っているんだけど、基本的に赤、青、黄の三色だ。


 そして、光蜂たちは蜜を吸った花の、花びらの色によってその輝きの色が変わる。


 それに気がついたのは家に戻ってきてから二日目、それまで赤、青、黄の三色から、新たに若草色に発光する蜂を見つけたのが切っ掛けだ。


 そして次の日には青紫や桃色に輝く光蜂が現れ、その中には際立って光る蜂が存在した。


「条件が分からんなぁ」


 青紫や桃色の花は、異なる色同士を隣り合わせて育てると、次世代の花の中で、一定の確率で違う色の花が咲く


 そして、光蜂は蜜を吸った花の色によって光る色が変わるので


 もし、花畑を一面桃色の花に変えたら、蜜を運ぶ光蜂も全て桃色に輝くと言った感じだ。


 これが結構面白い


 本当であれば、花の交配は年単位で行うものだけど、植物の成長スピードが早いこの場所だと、一週間のうちで何度も世代交代が行われる。


 自然環境でも珍しい色の花が咲くことはあるんだけど、確実に変化させたいのなら人の手で受粉させる必要があるんだけど


 そうやって手間ひまをかけて、自分が好きな色にお花畑を変えると、拠点周りの雰囲気が変わって、リフォームをしたかのように真新しさを感じる。


 そして更に面白いのが、極稀に花弁が輝く花が存在することだ。


 通常であれば拳大サイズ程度しか輝かない光蜂の中で、バランスボールぐらいのサイズに輝く特異な光蜂が存在した。


 その発生条件を調べていると、バランスボールサイズに輝く光蜂(大光蜂)は、偶然生まれたキラキラと輝くレアな花の蜜を吸っていることに気がついた。


 そしてその事実がわかった瞬間、俺に何か変なスイッチが入った。


 そこからはひたすら花の交配実験を進め、通常花では13種、輝くレアな花(輝花)は赤と緑の二色まで作ることが出来るようになっていた。


 これが出来るまでに一ヶ月ぐらいかかったけど・・・・・・


 フロウゼルさんたち怒ってないかな?


 正直花の交配実験が楽しすぎて、時間が経つのを忘れて熱中してしまった。


 新種の輝花が咲いた時は思わずガッツポーズをしてしまったほどだ。


 まだ輝花の確立は殆どが出来てないけど、自然発生を含めたら何色かはドライフラワーにしてコレクションしてある。


「これが異世界ガチャか・・・・・・」


 そして気がつけばフロウゼルさん達との約束をすっぽかして花作りをしていたという訳だ。






 そんな花の実験に熱を上げている中、予想外な幸運があった。


「甘い!」


 指先に付着しているのは黄金色の蜂蜜、不思議な光る木周辺に巣を作った光蜂から頂いた蜂蜜を舐め、思わず顔が人様には見せられない表情になってしまう


 前世から甘党というわけじゃないんだけど、異世界に転生してから甘味を体験してこなかったのでその感動も一際大きい


 いや、前世でも売り物になるでしょこれ


 我ながら凄い物を作ったと思う


 花の交配に熱を上げたもの、蜂蜜を採取出来たというのが大きい


 理由の殆どは花の交配のガチャみたいな要素だったり、単純にコレクター心に火が着いたわけなんだけども、光蜂が採取してきた花によって若干風味が違ってくる。


 今回採取したのは既に確立している色の輝花の蜜を多く採集した光蜂たちから貰った蜂蜜


 通常花の蜜より少しコクのある甘みかな?


 砂糖を入れたホットミルクのような優しい甘さが花を抜けて大変美味


 一ヶ月の集大成が実を結んだって感じだ。


 光蜂たちの巣は、触れば垂れてくるほど潤沢な蜂蜜を巣に蓄えている。


 なので少量貰う分には特に怒る様子はない


(怒ったらめっちゃ怖いけど・・・・・・)


 一度だけ、太郎の警戒網をくぐり抜けて光蜂の蜜を取りに来た熊型のモンスターが居た。


 パンダのような白黒の毛並みに、二対の四本腕


 大きさは優に五メートルを超え、森の中でもカーストの上位に位置するモンスターだ。


 名前を【グロウベア】といい、本には数少ない特A級のモンスターと書かれている。


 ある程度強くなったけど、今の俺でも多分敵わない強敵


 太郎のテリトリー内に入ってくるモンスターはかなり珍しく、特A級のモンスターでも中々入ってこないので非常に驚いた。


 それほど、光蜂たちの蜂蜜が美味しそうだったのかな?


 周辺には仄かに漂う甘い蜂蜜の匂い


 気持ちは分かる。


 そして普通であれば熊の圧勝かと思ったんだけど、光蜂たちは予想以上に強かった。


 いつもより激しく輝くと思えば、パチ、パチと点滅して巣へ近づいてくる熊を警戒する。


 そしてグロウベアの手が巣にかかろうとした瞬間、弾けるような音と共に、熊の絶叫が空気を震わせ、周囲に響き渡ったのだ。


「自爆特攻かよ!」


 見た目はミツバチのようにもふもふした可愛らしい姿からは思えないほど凶悪な戦法


 厚いグロウベアの毛皮を焼き裂くほどの強い衝撃と共に、どんどんとグロウベアにくっついて自爆していく光蜂たち


 その光景に思わず漏らしそうになったことは内緒だ。


 本当におっかない


 グロウベアは、数分のうちに狩りから急いで戻ってきた太郎によって捕食されたけど、グロウベアは太郎がとどめを刺す必要もないほど弱っていた。


 それでもまだまだやれるぞ!と言った様子で点滅し怒っている光蜂の皆さん


 太郎と光蜂たちの間に何があったのか分からないけど、少し間が経てば光蜂はその警戒を収め、何時ものように花の蜜を集めに戻った。


 その事件以降、一時蜂蜜を採取できなかったけど、なんか家の前までやってきて飴玉みたいな蜂蜜の塊を置いてきたので、多少蜂蜜を貰っても多分大丈夫だと思われる。


 多分


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る