第25話 光蜂〈ライトハニー〉の大量発生

 行きと違い、目的地がある帰りは結構早い


 基地を出たときには正午を過ぎて、既に太陽は傾き始めており、俺と太郎が拠点へと戻ってきた頃には辺りは暗くなり始めていた。


 あら、もう帰ってきたの


 そう言わんばかりに、家の前にある畑の土を掘って虫を啄む向日葵を見て少し安心


 ただ当人(鳥?)は、帰ってきた俺と太郎を一瞥して特に気にしていない様子


そこまで心配しなくてよかったかな?


 予定外の出来事に二日間も家を空けてしまったが、特に荒らされた様子は無さそう


 ただ


「なんでこんなに花が咲いているんだ?」


 家の裏手に咲いていたお花畑


 それらが拠点周辺を埋め尽くし、どこか幻想的な光景が広がっていた。


「蛍?いや、蜂かな?」


 いつの間にか、メルヘンチックな光景に様変わりしていた家の近くには、赤、青、黄、様々な色合いの光の玉がふよふよと空中を漂っていた。


 現在は日が落ちる手前、辺りはちょうど薄暗くなってきたこともあり、その光の玉ははっきりと見える。


「ん?やけに人懐っこいな」


 家の外で待っていても仕方がないので、侵食してきた花畑をかき分けて家に近づく


 拠点に残っていた向日葵も気にした様子もなく餌探しをしているので、多分危険性は無いんだろう


 万が一、刺されても蜂の毒で死ぬこともないだろうし


 ただ花畑に近づくと


 ふよふよと空中を漂っていた光る蜂達が俺や太郎に近づいてきて止まる。


 太郎に関しては、その鼻先に留まる豪胆な性格の蜂もいる。


 俺には肩や指先にとまり、特に警戒している様子もない


 じーっとこちらを観察し、休憩しているようだ。


(この周辺の生き物、やけに人懐っこいよな)


 太郎といい、向日葵といい


 今回の蜂といい、やけに友好的というか


 おとなしい生物が多い気がした。


 まぁ太郎のテリトリーから一歩でも外に出れば凶悪なモンスター達が襲ってくるんだけど


 もしかしたら、そいつから避難してきた優しい生き物なのかもしれない






「大きくなってるなー」


 なぜ蜂が付近に大量発生して、お花畑が周囲に広がっているのか原因を調査することにした。


 太郎は連日の長距離移動の疲れを見せずに、そのまま狩りへ出かけてしまったので今は一人だ。


 向日葵はお腹いっぱいなのか、自分の小屋に戻って眠っているみたいだし


 そして、蜂が大量発生した原因と思われるものはすぐ見つかった。


「本当にデケェ、人と同じサイズほどあるぞ」


 ちょっと前に、いつの間にか家の中に侵入していた銀の種子


 それを家の裏手に植えて、観察していたところ


 ボンヤリと暖かな光を放つ若木へと成長していた。


 その若木が太郎と調査している一ヶ月の間にぐんぐんと成長して


 今では小屋を覆うほどまで成長していた。


 そしてその若木に人間サイズの巨大な蜂の巣が出来ていて。


 そこから蛍のように光蜂が出入りしていた。


「なんだろ、この光る木は」


 向日葵といい、蜂といい、家の裏手に植えた木といい


 どれもがやたら光るので薄暗い森でも結構目立つ


 もし、調査隊の人が巨樹の森まで来れたらすぐに発見されそうなほどだ。


 それにしても・・・・・・


「本当に大きいな、さすが異世界パワー」


 銀の種子を植えてから、一ヶ月ほどで家を覆うほどまで成長した光る木


 その幹は太く、若々しい


 葉っぱ一枚一枚がボンヤリと光を放ち、周辺を飛ぶカラフルな色を放つ蜂も相まって、なんとなくクリスマスツリーのようなイメージを思い出させる。


 空気が美味しく感じられるのも、この木のおかげなんだろうか?


 光る木なんて見たこと無いし、もしかしたら特別な種類の木なのかもしれない





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