第14話 人の痕跡?
「人の痕跡が全然無い」
太郎の脚で南へ一時間ほど進めば昔住んでいた村の跡地がある。
太郎の脚で一時間なので距離にすれば数十キロレベルだと思われる。
徒歩で行ったら片道で一日が終わってしまうレベルだ。
道が険しい林道なら尚更。
そんな厳しい場所でも太郎は難なく進む、戦闘能力が高く普段から動物やモンスターを狩ってくれる太郎の真骨頂は、人間を乗せても一時間休まずに移動できる持久力だと思う。
体力は勿論、足も速いのでまさに疾風の如くと言った感じ。
そしてなぜ、太郎と一緒に村の近くまでやって来ているかというと。
本格的に人と交流をしてみようと思ったからだ。
何故今になって?というと、防具が出来たことによって、以前の獣革を腰に巻いていた蛮族スタイルから文明人らしい装いになったこと。
いま着ている防具はファッション雑誌を参考にしつつ作ったので見てくれはそこまで悪くないと思うし、多分侮られることは少ないんじゃないかなと。
他の理由としては武器が欲しいと思ったからだ。
防具は良いものが出来たものの、現状今持っている武器は村で拾った鉄製の鉈ぐらいで。
その鉈も付近に生えている強靭な草木を刈り取るとすぐに刃毀れを起こしてしまう。
なので刃毀れのしない丈夫な武器や刃物が欲しい。
太郎の抜けた牙は流石に小さくて使えないし・・・・・・
ただやろうと思えば自分でも作れると思う。
拠点付近では鉱石類も豊富に採掘できて。
なんなら近くの川付近には赤や青色の鉱石が露出している始末。
ただ経験のない人間が、一から炉を作って製錬することは流石に難しい。
なので大きな街などで武器を購入したい、出来れば鍛冶師を雇ってみたいと思っていたりもする。
「向日葵は大丈夫かなぁ・・・・・・一日ぐらいなら太郎が居なくても問題ないはずだけど」
派手に輝く向日葵は拠点でお留守番。
一日程度、太郎が拠点を空けてても周囲にモンスターが侵入してこないことは確認済みなので、多分大丈夫だとは思うが。
食事に関しても、向日葵は畑付近にいる虫を啄むので問題はない。
ただしかし、鶏である向日葵だけでのお留守番は少し心配だ。
なので捜索範囲は日帰りできる範囲。
それでも太郎の脚であれば結構な範囲を探索する事が出来る。
そしてわかったことが一つ
「本当に辺境だったんだなぁ・・・・・・あの村」
早朝から家を出て、太陽がはっきりと登る頃には村の跡地に着いた。
ただそこから午前中移動し続けたのだけど、街どころか微かに残る道が途切れている始末。
余程使われていなかったのだろうか。
太郎の脚を使って広く探索してみても、全く痕跡も見つけられないとなると本格的にヤバいかもしれない。
村もあったし、当時は行商人も来ていたので案外近くに人は住んでいるだろうと予想していたが、その考えは甘いようだ。
一ヶ月ずっと探していてこれなのだ。
太郎の疲労も考えないといけないので、毎日とはいかないが結構な頻度でこうして人里を探している。
・・・・・・一方、太郎は散歩かと勘違いしている様子で毎回嬉しそうに尻尾をブンブンと振っているけど・・・・・・
「ここまで痕跡が無いかぁ」
拠点の北側には天を貫く程の高さを誇る山脈が連なり、そこに人が住んでいるとは考えにくい。
単純に山方面の方がモンスターが強力な奴が多いっていうのもあるけど。
東は拠点と同じ巨大な木々の森が広がり、そんな森にポッカリと穴が空いたように広々とした湖があるぐらい。
可能性があるとすれば、川を越えた先にある普通の森が存在する西か、村の跡地がある南かといった感じ。
一番可能性が高いのは村の跡地がある南方面だろう。
南側は比較的環境が安定していて、出現するモンスターも弱い。
微かに残る道も南側に伸びているしね。
人がいるなら南側だろう。
東西はどちらもモンスターが強いし。
「わん!」
「おー、よしよし」
今いる場所は村から更に南下して見通しの良い丘の頂上。
丁度お昼時なので、周辺に居た動物を狩って太郎と二人でバーベキューを開催していた。
拠点周辺の森と違い、この周辺に住むモンスターは太郎の威嚇が効きにくい。
なので、バーベキュー会場を設営するのにわらわらと襲ってくるモンスターに少し苦労した。
まるで気分は某無双ゲーム。
丈夫な防具の割に、武器はただの鉄製の鉈しかもっていないので俺は殴ることしかできなかったけど。
怪力になったおかげで、拠点周辺のモンスターとも個人で戦えるようになったし、この周辺のモンスターには特に苦労はしない。
しかし、俺と太郎がはっちゃけてしまったので、美しかった丘は血まみれになっている。
ただ午前中、戦闘をしたりずっと俺を乗せて移動していたのに太郎は元気いっぱい。
本当に凄い狼だ。
「太郎も焼いたの食べる?」
「わふ」
熱した石で焼いた鹿のお肉。
家から持ってきた岩塩とミサミサの実を乾燥し、砕いて作った胡椒もどきを持ってきて焼いた肉に振りかける。
太郎には調味料を使っていない、ただ焼いただけの鹿肉をあげる。
偶にはタレで食べたいと思うこともあるけど、塩コショウのシンプルで焼いたジビエも悪くない。
新鮮だし、臭みも少ないのでとっても美味しい、一頭まるごと、それぞれ部位事を食べ、噛みごたえや味が変わるのも初めての体験だ。
丁度バーベキューを開催している場所も丘の上、ということもあって景色も申し分ない、ここにビールでもあったら最高なんだろうけど。
食事を終えて、太郎の背中に乗り更に南下する。
今日の予定としては太陽が降りるまでは進み、夜に帰る予定だ。
それまではぐんぐんと太郎が大地を駆けて前に進む。
「ん?黒煙だ!」
まるでビデオの早送りのように移り行く景色を見ながら、それは見えた。
「太郎、あっちへ行こう!」
「わん!」
森の中を駆け抜けていたら、丁度開けた場所からかすかに見えた黒い煙。
それは天に向かって立ち昇っており、高い確率で人がキャンプをしている可能性が高い。
俺はその方向に向かって指を差し、その指示を聞いた太郎は方向転換して黒煙が立ち上る場所へ向かって駆ける。
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