第12話 香辛料の王様、巨大化する
我が家の食卓に鶏卵が追加されたことによって食事の幅が広がり、俺はさらなる美食を求めて太郎と一緒に森を彷徨っていた。
地面からは巨木の根が隆起して、その複雑な地形を移動する森の探索は結構な体力を使う。
しかも地面は湿気によって苔むしているので、しっかり踏ん張らないと滑ってしまう。
今更数メートル落下したところで怪我をしない丈夫な身体になってはいるものの、痛いものは痛い。
一方太郎はまるでこの森は自分の庭と言わんばかりにスイスイと進んでいく。
次第には背中に乗るよう催促される始末だった。
「これはミサミサの実・・・・・・かなぁ?」
巨大な針葉樹の一帯を抜けて、いつも水汲みをしている川を越える。
川を超えた先は殆ど見たことが無い未知の場所、その森の姿も川を越えたあたりで一気に変化する。
拠点付近の高さ数十メートルにも及ぶ巨木が生い茂る森と違い、川を越えた先は至って普通の森といった感じ。
精々数メートルぐらいの木が生い茂り、その間に人間の子供サイズの背の高い雑草が密集している。
そして手につまんでいるのは青い粒のような実。
見た目はブルーベリーに近いかな?
ただこんな見た目でも危険な毒を含んでいる場合もあるので、念のため調べてみることにした。
異空間に手を突っ込み、この世界のあらゆる植物が描かれている『植物大全』を取りだす。
この世界にも例に漏れずモンスターを討伐したり、遺跡を調査したりする冒険者と呼ばれる職業が普及しているそうだ。
彼らは国の枠組みを越えて、一つの組織として動きあらゆる未解明なものを調査する。
その中の結果の一つである『植物大全』、これはあらゆる植物が記載されており、この本が作られる歴史さえ本になっている偉大な書物だ。
大全と名のある通りに、世界中で活動する冒険者達を動員して執筆されたこの世の植物が描かれた本は、簡易的なイラストと一緒に群生地や特徴が記載されている。
もっと詳しい本もあったりするけど、その手の本は個人で執筆されている物が多いので記載されてない植物も多い。
ただ鈍器として人を殺せそうな程分厚い、植物大全は長い歴史の中で、何度も改定されたお陰もあり、この本に書かれていない植物はあんまりない。
(小屋に変な種子が落ちてるんだけど、全然わかんないんだよなぁ)
風に運ばれたのか、部屋に落ちていた銀色の木の実。
これについては人智の結晶である大全にすら書いていないから現在この本に対してイマイチ信用度が下がっているけど・・・・・・
調べてみたら今採取した実はミサミサの実というらしい。
イラストもピッタリ一緒だ。
ただ似たような実の中には猛毒の物もあるので、しっかりと確認してみたが大丈夫そう。
【ミサミサの実】
・高濃度の魔素が充満する危険地帯にのみ植生する香辛料の王様、鼻を一気に抜けるような匂いは香辛料や漢方として重宝され、その希少性や薬効から一粒で大金を手に入れられると言われている。
おぉ・・・・・・
早速大当たりを見つけた。
コレは幸先が良い。
本来は乾燥させて砕いて粉末状にして使用するみたいだが、生食でも使われるみたいなので早速噛んで見る。
「これは・・・・・・胡椒に近いのかな?」
実自体が硬いので噛み砕いて食べてみると、口の中には一気に胡椒の様な独特な風味が広がる。
どこかスモーキーな燻製じみた風味もするけど良い辛味だ。
乾燥させて粉末状にすると更に風味が増すみたいなので塩コショウとして使えるかもしれない。
しかも漢方薬の材料にもなるようなので、苗を持ち帰って研究スペースの方で植えてみよう。
「大きくない?」
胡椒みたいな香辛料を見つけてウキウキで帰った次の日。
前日に植えたミサミサの苗は研究スペースの方の畑で実を付けていた。
ただ細枝の苗は太くしっかりと畑に根を張り立派なものになっている。
それに比例するかのようにミサミサの実も藍色の艶やかな美しい実を結実していた。
ただブルーベリーの大きさからトマトや小さなメロンぐらいにデカいんだけど・・・・・・
本当に同じ苗から出来たの?
そう思いたくなるけど、大きさが変なだけで姿形はミサミサの実ではある。
うーむ、コレは予想外。
どうもこの拠点周辺の土壌は特に栄養素を含んでいるようで。
裏手にはププ草や色鮮やかな綺麗なお花畑が広がっている。
川も近く、比較的日の当たる場所だからかな?
家の増築用に周辺の木を伐採したので、拠点近くは日が当たり、早朝に見える朝露が太陽の光を反射した光景は非常に美しいのだ。
それは置いといて。
まさか巨大化するとは思いもしなかった。
植物によっては土壌の成分によって辛味が増したりするとは聞くけど。
巨大化するのは聞いたことが無い。
ただ味は変わらないし、多分風味は森で採取してたやつよりも良いかも?
繊細な舌を持っているわけじゃないので何とも言えないが。
まぁ味や成分に問題ないなら気にしない方が良さそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます