第9話 異世界式家庭菜園②
この世界、というかこの森で何かしらの作物を育てると一日で結実し収穫出来るみたいだ。
「おいしい」
トマトのような形をした黄色い実。
しゃくり、と齧ってみれば甘酸っぱい爽やかな風味が口の中に広がる。
これは野菜というより果物に近いのかもしれない。
品種改良が進んだ前世の野菜や果物にも引けを取らない程だ。
この世界の食べ物が美味しいのか、この森で育ったから美味しいのか分からないがこれだと野菜が嫌いな人でも食べられるレベルだ。
そんな感想を抱いている間にも畑に植えた野菜はどんどんと育っている。
ここまで成長が早いと最早恐怖だ。
葛とか虎杖とか繁殖すると大変な植物を植えたら一体どうなってしまうんだろうか?
そう思わなくもないが、このトマトもどきは太郎もお気に召したようで美味しそうに食べている。
これだけ成長スピードが早いと畑を拡張しなくても問題無さそうだ。
村にあった種籾は全部で四種類、この前植えたのがナスとかキュウリに似たポプカという野菜。
それで今収穫したトマトみたいな野菜で二種類目。
残りもそのうち育ててみよう。
ここまで育てやすいならもっと色んな種類の種が欲しくなる。
元日本人としてはお米を食べたいところではあるけど、村で水田は無かったし、小麦畑と言うわけでも無さそうだった。
となれば望みは薄いかもしれない。
いや、住んでいた村で育てられていなかっただけでもしかしたら街や他の地方だとあるかもしれないし。
森の中には野生種も存在しているかもしれないしね。
・・・・・・ただ森の植物は大体何かしらの毒を持っているんだけど
数年生活していて、この森で取れた野菜やきのこを食べて腹痛や湿疹なんて日常茶飯事だった。
本当によく生き残れたなと我ながら思った。
コレばかりはチートボディをくれた神様に感謝するしかない
「ただなぁ」
作物の育ちが良いように、雑草の成長スピードも尋常では無いのが欠点だ。
すでに耕した畑からはうっすらと草が生えてきているし。
野菜を育てるまでに引っこ抜いた草は山のように積み重なっている。
一応使い道があるかもしれないので、枯れ草として干して保管する予定だ。
そのうち山羊や羊を育ててみたいという願望もあるし。
枯れ草の置き場は、簡易的に屋根を立てて雨を防ぐ簡易的なものだ。
拠点周りは太郎のお陰もあり、結構様になっている。
元々存在した小屋と繋がるように増築した建物があって、西へ進めば少し離れた場所に薬草を保管した貯蔵庫が存在する。付近には氷室として使用する予定の小さな洞穴も存在し、ここは個人的な研究スペースになっている。
研究スペースにも畑を作る予定で、こちらは作物ではなく薬草を育てる予定だ。
元々薬草にはミントのような匂いを放つのも多いので、余程のことがなければ太郎は絶対に近づかない場所になっている。
なので俺が研究スペースに行こうとすれば太郎が軽く吠えるのはご愛嬌だろうか。
そして小屋を囲うように、枯れ草置き場と小さな畑がある。
他にも雨水を貯める用の桶とかもあったのだが、気絶している間にボロボロになってしまったので修理が必要そうだ。
やることはいっぱいあるけど、誰かに命令されるわけじゃないので自分のやりたいスピードで出来ている。
日によっては太郎と遊ぶだけの日もあるし、読書だけで一日を過すこともある。
この傾向は食料に不安が無くなったことが大きいんだと思う。
今でこそ太郎が動物やモンスターを狩ってくれるようになったけど、元々数日に一回のペースで動物を罠で捕らえていたし
川も近く水源にも困ることがない。
流石に川の水だと飲むには煮沸消毒する必要があるけど、少し遠い場所にはなるが湧き水もある。
そして作物も一日で収穫できる。
「うーん、いいのかなぁ」
衣食住には困らないし、娯楽も読書という形で揃っている。
多少不便ではあるものの、大自然の中で暮らしていると思えば寧ろ苦労は少ない方だろう。
ペットも居て、生活も安定するとなれば怠惰になるもの致し方ないと言うもの。
ただこんな暮らしをしていて罰が当たらないか心配になる。
村で生活していた時は、餓死や凍死は当たり前だし。
内政チートをやろうと思って知識を披露した際に交わした会話ではこの世界はそこまで科学技術が発展していないと思った。
よくある中世ヨーロッパの世界観に近いんだと思う。
だったら前世の現代社会よりもずっと不便で危険な世界だろうし、モンスターといった危険生物も蔓延っている。
正直この世界の世情に疎いので、今自分がどれだけ良い生活をしているのかが分からない。
ただ人によっては隠遁生活と言われるかもしれないけど。
ただこの様なスローライフも悪くないと思い始めていた。
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