第4話 伝説の薬

 太郎を拾ってから半月ほどが経った。


 そして現在、俺は改装によって増築された薬草が保管された倉庫で調合実験をしている。


 春になると、冬に勉強した知識を試したくなる季節だ。


 この世界でも錬金術のように、夢の化学を目指した学問が幾つか存在し、その中でも薬学は異世界の不思議パワーもあって様々な研究が存在する。


 俺が持っている転生チートの一つ、〈空想図書館〉では前世で販売されていた漫画やラノベといった娯楽本から、様々な学問の参考書や技術書など多数の本が存在する。


 そして〈空想図書館〉の能力はこの世界にも適応され、この世界で執筆された本や研究レポートが異空間に入っている。


 中には非人道的な研究をしたレポートなども存在するが、そこら辺は読むだけで気分が悪くなるので現在封印中である。


「おーい太郎、遠くまで行くなよーー!」


 現在行っているのは、この世界の研究者達が羨む様な超希少素材を使った調合実験だ。


 先日入手した蘇生薬の主原料であるププ草を始め、秘薬や霊薬といった薬の原材料となる薬草はあらかたこの森で入手することが出来る。


 周囲に生息するモンスターは全員強力でおっかないが、その分珍しい物が沢山あるので人によっては天国かもしれない。


 ごりごりと森で採取した薬草をすりつぶし調合していく。


 鼻に突く様な刺激臭が周囲に広がり、何をやっているかと隣で見学していた太郎はいつの間にか俺の隣から居なくなっていた。


 俺でもキツイ臭いなのに、嗅覚に優れる太郎だと余計にキツイよね。


〈蘇生薬〉の原料であるププ草と、〈再生薬〉の原料であるカルッサ草の球根部分をすり潰して混ぜ合わせる。


 この世界で最も貴重な薬はププ草を使った〈蘇生薬〉なのだが、どうにもゲームのように使い勝手は良くないらしく、そのまま〈蘇生薬〉を使っても対象が大怪我をしていたり、原因が病死だったりするとそのまま死に戻りしてしまうようだ。


 その為、カルッサ草の球根を使った〈再生薬〉を併用したり、手術で病気を取り除いてから〈蘇生薬〉を使うのが一連の手順らしい。


 そこで俺は考えた。


(蘇生薬と再生薬を合わせたら最強じゃね?)


 蘇生薬も再生薬も目が飛び出でるような金額がする。貴族はおろか、時の王族であってもおいそれと使えるような代物では無く、万が一蘇生薬と再生薬を調合して使い物にならなくなったらどうするのか?


 同じことを考えた人は過去にも存在したようだが、調合失敗のリスクを考えるとどうしても出来なかったそうだ。


 単純に再生薬の効能だけ使いたかったら蘇生薬の部分が無駄になるしね。


 という訳で、俺がこの世界の研究者の夢を叶えようと、〈蘇生薬〉と〈再生薬〉の調合をやっている訳だ。


 しかし、〈空想図書館〉に存在する調合書の文献によれば、原料であるププ草は絶滅したので、〈蘇生薬〉は作れなくなったと書いてあった。


 一応ウチの近所に沢山生えているんだけど・・・・・・


 見た目はパッと見雑草だから分かりにくいのかな?


 俺も太郎に教えてもらうまで分からなかったし・・・・・・


 そう思いつつ、ゴリゴリとすり潰していれば段々と粘り気が出てきて臭いもより一層の強烈なものになってくる。


 ……大丈夫?


 なんか煙出てるけど。


 良薬口に苦しと言うけど、今混ぜ合わせる物からは刺激臭しか漂ってこない。


 まだ在庫は沢山あるけど、凄く勿体ないことをしている気分。


 ただ後戻りは出来ないので一定のスピードで薬草をすり潰す。


 段々と煙の勢いが強くなっているような気がするが気にしてはいけない。


 念の為に換気だけしておこう、窓を開けて室内に充満していた煙を吐き出す。


 遠くで太郎が吠えている気がするが、俺は心の中で謝りつつも作業を続ける。


 すると、混ぜ合わさった材料は完全なペースト状になって煙も収まった。


 うん、煙は収まったな、なんか火が出ているけど・・・・・・


 火!?


 なんかすり鉢から緑色の火柱が立っているんですけど!?


 いや、きれーい。


 ではなくて!!


「水!」


 小屋の裏手にある巨大な貯水槽から水を持ってこようと走る。


「ない!」


 そう言えば昨日水浴びをした時に全部使ってしまったなと、その時思い出した。


 本当にタイミングの悪い!


 取り敢えず出火したすり鉢を放置することも出来ないので、小屋へ戻ってみれば緑色の火柱の勢いはまだまだ大きくなっており、今にも天井に到達しそうだ。


 まるで高級レストランのグルメパフォーマンスに出てきそうなフランベの如く、薄くも綺麗に火が立ち昇っている。


「うぉおおおお!」


 このままでは小屋が燃えて他の薬草たちにも燃え広がる恐れがある。発生源であるすり鉢を手に小屋を飛び出した。


「・・・・・・大丈夫だよな?」


 夏場の為に用意していた冷凍庫に調合した薬が入ったすり鉢を押し込んだ。


 隆起した地形の壁をくり抜き、雪を固めて冷凍庫として使う予定だったのだが、緊急事態だったので思わず入れてしまった。


 森に燃え広がっても困るし・・・・・・





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