第3話 もふもふの白い子犬③

「むがっ」


 あまりにも拾ってきた子犬が気持ちよさそうに暖炉の前で眠っているので、自分も睡魔がやってきていつの間にか眠ってしまった。


 そしてまどろみの中、顔に何か温かいものが乗っかっていると思い起きてみれば、暖炉の前で眠っていたはずの犬が、俺の顔の上に乗っかって寝ていた。


「何故俺の顔の上で寝てるんだ?」


 当の本人は気持ちよさそうに鼻提灯を浮かべて眠っている。


 流石にこのもふもふの毛では暖炉の熱は暑かったのだろうか?だからといって俺の顔に寝るとは中々の大物と思いつつ、どれほど時間が経っていたのだろうと外を見てみると辺りはすっかり暗くなっていた。


「よし、お前の名前は太郎だ!」

「わぅ?」


 真夜中の森は特に危険なモンスターが出没する時間帯だ。流石にこの時間帯になると動物たちも巣穴から出てこないレベルなので、俺は拾った子犬と小屋の中で遊ぶことにした。


 俺の手先をやたらぺろぺろと舐めるぐらいには懐き、元気を取り戻した子犬を毛づくろいしてあげると、どこかで見たような覚え後あると思えば、前世で言うところのハスキー犬に似た狼に近い姿をしていた。


 ピンと立った耳の先端がぺたんと折り曲がり、金色の瞳が美しい。


 ◯ん◯んも付いていたので多分雄、だから名前は太郎と命名した。


 なにそれ?と言った様子で首をかしげる太郎に、俺はお手製のボールを部屋の隅に投げて取ってこいと指示を出す。


 異世界であっても、犬は犬のようで俺の言葉が分からなくとも本能でボールを追いかけて戯れ付いていた。


「よしよし」


 まだ身体が小さいので咥えたボールに重心を持っていかれそうになりながらも俺の元まで運んできた太郎の頭を撫でる。


「いいなぁ犬は、前世でも飼っておけば良かった」


 実家で猫は飼っていたんだけど、両親が大の猫好きだったので犬を飼うことが出来なかった。


 ただこうやって実際に犬と戯れてみると、とても癒やされる。アニマルセラピーという言葉があるようにこの荒んだ異世界生活に癒やしが出来た気がする。


 長い冬が終われば、異世界の逞しい植物たちは一週間もしないうちに群生しはじめる。


 一ヶ月も経てば色鮮やかな花々が咲き誇り、危険地帯でありながら異世界らしく幻想的な光景が広がっていた。


「ワン!」


 太郎を拾ってから2日、今日は天気も良かったので拾ってから初めて小屋の外から出した。


 拠点の周囲を回るように、太郎を散歩させる。


 太郎は久しぶりに外に出たことで楽しそうに走っている。


 ただ思っていた以上に結構遠くまで走っていったので、そのまま帰ってこないんじゃないか?と一瞬不安になったものの、太郎はそのまま止まって俺に向かって吠えた。


「俺に来いってことか?」


 太郎が立っている場所には特別何かがある様子はない、ただ太郎が意味もなく呼ぶとは思えないので取り敢えず向かって見ることにした。


「これは・・・・・・」


 冬の季節、暇な間に読んでいた植物関連の本で見たことがあるイラストだ。


「ププ草かこれ?」


 ププ草は別名〈黄金の草〉とも呼ばれ、その見た目はただの雑草のようだが、富の象徴である黄金に等しい希少な植物として載っていたはずだ。


 なぜそんなにププ草に価値があるかというと、このププ草は〈蘇生薬〉の主原料となるからだ。


 国によっては国宝とされる大変貴重な蘇生薬はその名の通り、死亡した対象を生き返らせる効果を持つ


 そこには様々な制約があるそうだが、人を生き返らせる奇跡は魔法にも無い効果で、話しでは若返りの薬としても使われるとか。


 ププ草は人里離れた自然の奥地にしか生えない大変貴重な薬草、それを太郎が小屋の付近で見つけるとは思いもしなかった。


「えらいぞぉ、太郎!」


 そのもふもふな毛をもみくちゃにするように撫でて褒める。一方太郎は尻尾が千切れんばかりに振り回し、周囲に群生するププ草の在り処を教えてくれた。


 ・・・・・・っていうかププ草多くね?


 ププ草の群生地を巡って戦争が起きたり、かつて英雄と呼ばれた人物が亡き妻の為にププ草の採取に向かって行方不明になったという伝記も存在するはずのププ草が小屋の裏手側にいっぱい生えていた。


 ・・・・・・もしかして、この森ってヤバい場所なんじゃないか?

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