第2話 もふもふの白い子犬②

 川に漂着していた時点で分かっては居たが、白い子犬は酷く衰弱していた。


 本当であれば放置するか、解体して食料にするのが良いのだろうが、その愛くるしい見た目に、この森一帯では見かけない白い犬だったので保護することにした。


 もし懐いてくれたら寂しい異世界生活も明るくなるだろうし、生き残ればいいなぁぐらいで小屋に連れて帰った。


 小屋は村の狩人が緊急用に建てた掘っ立て小屋なのでとても狭く日常的に暮らすのには向いていない。


 なので素人大工ではあるものの、コツコツと増設して今では小さな家と呼べるぐらいには大きくなった。


 他にも外には乾燥させた薬草を保管する倉庫と雨が降った際に貯める水桶がある。


 建物を増設はしたが元の小屋には暖炉が存在し、壊すことは憚られた。


 また気密性も全然違うので寒い季節は元小屋だった場所に籠もる。その間は転生チートで得た本を読んだり道具を作ったりしている。


「・・・・・・大丈夫か?」


 現在は雪が溶け、春の息吹が感じられる季節にはなっているものの、朝方や曇りの日はまだまだ寒い。


 かと言って暖炉を態々使うほどでもないので、片付けていたので暖炉を準備するのに時間はかかったが吸水性の良い乾燥させた瓜のスポンジで濡れた子犬の身体を拭き、暖炉の前に寝かせる。


 息はしているが、ピクリとも動かない、そりゃ春とは言え未だ冷たい雪解けの水を浴びていたら低体温症になるのは当然で乳離れはしているぐらいには成長しているものの、未だ子犬と言っていいほど小さな体だ。


「えーと、子犬用のご飯は・・・・・・」


 前世なら病院に連れて行って、子犬用のドッグフードとかでいいのだろうが生憎ここは病院やドックフードの無い異世界だ。


 ただ俺には数々の知識人達が執筆した本がスキルによって異空間に保管されているので、その中で子犬用の手作りごはんの作り方を調べる。


「干し肉しかねぇぞ・・・・・・」


 眼の前で眠っている子犬は異世界の犬なので頑丈ではあるだろうが、衰弱した犬に硬い干し肉をあげるのは少々酷なことだろう。


 水にふやかして柔らかくすれば食べれるか?一応この世界の本にはモンスターや動物をテイムするための調教本があるのでそれも参考に食事を作っていく。




「おー、おいしいか」


 俺の心配は杞憂だったようで、この異世界犬は逞しく気がつけば目の前に置いてある作った食事をガツガツと食べていた。


 暖炉にあたって思わず寝てしまっていたら、子犬の前に用意していた食事と水の入った皿を猛烈な勢いで食べていた。


 余程お腹が空いていたのであろう、俺が起きたのを確認しても食べ続けるほどだ。余りの食べっぷりに皿の周辺には用意した食べ物が散乱していた。


 ただ作った本人としてはその食べっぷりは嬉しい、ちょうど自分に背中を向けて食事をしているので、しっぽがぴこぴこと動きながら食べているのがなんか可愛い。


 ただ食べ終わった後にはすぐに眠気がやって来たのであろうか、俺の目の前でぐっすりと眠り始めた。


 この世界の生物、とりわけモンスターでもない動物はその過酷な生存競争からか危機感が優れている。


 俺の様な小さな存在であっても、その目線は一切外さないし一歩でも動こうとすれば逃げるほどだ。より強大な存在のモンスターともなれば視界に捉えてなくても逃げ出すほどだ。


 それぐらいしなければ、弱い動物たちが生き残れないというのもあるだろう、しかし危機感に優れる動物達であっても人間が知恵を絞って研究してきた罠には効かない様だが・・・・・・


 だが目の前に居る子犬はどうだろうか?


 俺が全く敵意を発していないのもあるだろうが、幾らお腹が空いていたとは言え、知らない生き物が見ている中で背を向けて飯を食べられるだろうか?


 あろうことか満腹になってその場で眠り始めるなどありえないことだ。


 ただ見た目は小さな子犬なのでそこら辺の危機感がまだ備わっていない可能性もある。ただそのまま野生に帰すのは不安なのは間違いなかった。






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