神話級生物が住む森

青葉

第一章

第1話 もふもふの白い子犬

 異世界転生すればチートで無双して、可愛い女の子からキャッキャウフフと持て囃されると思っていた。


 生まれた場所は辺境の寒村、一歩村の外へ出れば強大な力を持ったモンスター達が蔓延っており、大きな寒波がやってこれば何人かの人が寒さで死んでしまう、そんな世界だ。


 ダークファンタジーの世界か、物心がつく頃には前世の記憶も全て戻り、転生時にその場を担当してくれた天使との交渉によって幾つかの特典と万が一の場合を考えて、農業や工業に関する技術書を幾つかインプットさせて貰い万全な状態で転生させて貰った。


「悪魔の子だ!」


 いざ村のために活躍しようとすると、村で最も発言力のある薬師の爺さんが前世知識を披露した俺に対して悪魔の子、と呼びそれまで育ててくれた両親や姉、弟からも気味悪がられ、結果として村に入ることを禁じられた。


 そして俺は昔、村の狩人が使っていた小屋を見つけそこで慎ましく暮らしている。


「うぅ、さびぃ・・・・・・」


 氷河期かよ、そう愚痴りたくなるほど生まれ故郷の土地は寒く厳しい。


 そんな中で10にも満たない子供が生き残ってこれたのも、転生チートのお陰だろう、無ければ村を出された時点でその日に死んで居ても可笑しくはなかった。


 クリスマスツリーのような巨大な針葉樹の森が周囲に広がり、冬の一番厳しい時期には拠点となった小屋がまるまる埋まってしまうほどの雪が降る。


 最初の年は、暖炉に使う為の薪を用意していなかったのでチートボディを持っていたとしても流石に寒さで死ぬかと思った。


 幸いにもこの世界のモンスターはゴブリンやオーガと言った人型のモンスターも存在するようだが、俺が住む周辺には狼やイノシシが変化したようなモンスターが多く、食べ物には困らなかった。


 他にも野生化した野菜の種を持ち帰り、小屋の中で栽培している。なぜ外でやらないかって?モンスターに食べられるからだよ(怒)


 森を知る狩人が建てただけあって、小屋の立地は良い。


 川も近いので水にも困らない、春になれば冬の時期に積もった雪が溶け、冷たくも綺麗な美味しい水が飲める。


 その水によって育った野菜は水々しく新鮮で甘みもあって美味しい。


 ただそんな水を求めてやってくるのは俺だけじゃなく、鹿といった一般的な動物から、六本腕の熊や羽の生えたムカデといったモンスターもやってくる。


 また周辺も水分を含み泥濘んでいるので足を取られる可能性もあり危険だ。


 この森で生活するようになってから、最初の頃は気配も感じられない素人だったのでモンスターと遭遇するアクシデントもよくあった。


 死にはしないが、毒持ちの蛇とかに噛まれると一週間ぐらい全身が激痛で動けなくなるので注意が必要だ。


 他にも、川の近くには様々な薬草も群生しており、水汲みついでに集めたりもする。


 どうも俺が居る森は危険がいっぱいだが、植生に関しては適した環境で、街では一株で建物が立つような希少な薬草でも一週間もすればそこら辺に生えてたりするのだ。


 なんでそんな事知っているかって?


 チートの恩恵で、この世界の薬学書を読めるからだ。


 なので小屋には多分城が立つぐらいの価値を持つ希少な薬草が多数保管されており、万が一、モンスターや毒キノコにあたった場合は緊急用に飲む用だ。


 本来は調合をして薬にするようだが、俺にはそんな技量は無いので今は乾燥させて粉末状にしている。


 





 背の高い針葉樹が生えているので、周囲には日光が中々入らず昼間でも薄暗いのだが、川が流れている一帯は木も生えていないので日光が光の帯になって分かりやすい。


 いつも水を汲みに来る沢に降りてみれば、透き通った透明な水にはイワナのような川魚が泳いでいる。


「今日の夕飯は焼き魚にするか?」


 そんな事を思いながら、不格好ながら水漏れの心配のない手作りの木桶を手に持ち水を汲む。


 辺りにモンスターの気配はないが、いつも周辺で水を飲んでいる俺より危機感が優れた鹿などの動物たちが居ないので、万が一のことがあるので素早く作業を終わらせる。


「ん?」


 水を汲んでいたら沢の辺りに白い物体が流れ着いていた。


 この川は近くの山から流れてきているので、生存競争で負けた動物達が川を流れて漂着することがある。


 大体は腐敗して酷い臭いを周囲に撒き散らすのだが、流れ着いた白い物体からはその様な臭いは無い。


「犬?」


 万が一を考え、恐る恐るその謎の物体に近づいてるてみれば物体の先にはポツンと黒い豆の様な小さな可愛らしい鼻が・・・・・・


 尻尾の部分は川の水分を含みベッタリとしているが、沢に打ち上がっている部分は乾いてもこもことした毛並みをした子犬だった。

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