Ⅱ.第4話 年下の彼

<CAST>

水城蓮華みずき れんか

桜木 優:

瑛太:

ハルキ(蓮華の後輩):

ナレーション:


<台本>


   *飲み会の帰り、街中で


ハルキ:

「蓮華先輩、……好きです!」


ナレーション:

 そう思い切って打ち明けたのは、ドラム専攻のハルキだった。


 朴訥ぼくとつとした様子に似合わず、ドラムの腕は飛び抜け、入学早々に目立っていた。ジャズらしいドラムもすでに叩けていて、日々上達している。


 卒業間近の生徒たちと在校生との飲み会では、蓮華の隣になり、これまでのライブの話や好きな音楽の話が弾んでいた。その帰り道でのことだった。


ハルキ:

「先輩が卒業しても、一緒にライブやっていきたいです。卒業演奏も練習の時から、俺、ずっと見てましたが、すっげーカッコ良かったです!」


蓮華:(意表をつかれて、少し驚いている)

「あ、ありがとう」


ハルキ:(遠慮がちに)

「一緒にやってたドラムとベースの先輩たちとは、付き合ってないんですか?」


蓮華:(普通に)

「同じクラスなだけで、付き合ってないよ」


ハルキ:

「そうでしたか! ……ああ、でも、先輩は、『Something』のあのバーテンダーの人とも仲良いですよね。

あの人、ピアノめっちゃ上手いし、橘先生と一緒に卒業演奏も見に来て、先輩とも話してましたよね?

先輩、もしかして、……あの人と付き合ってる……とか……?」


蓮華:

「優ちゃんのこと?」

(くすくす笑う)


「あの天然バーテンダーくんは、ただの友達だよ」


ハルキ:

「そうなんですか!? 良かったぁ……!(安心して大きく息を吐き出す)俺、ずっと気になってたんです!」


蓮華(心の声):(ちょっとキュンとくる)

「なんか……可愛い」


蓮華:

「じゃあ、付き合う?」


ハルキ:

「えっ! マジ!? ホントに? 俺なんかでいいんですか!?」


蓮華:

「うん。あたし、今誰も付き合ってる人いないし」


ハルキ:

「……やった!」


蓮華:(にっこり笑う)


   *横浜みなとみらい


ナレーション:

 休みの日。

 待ち合わせ場所で、先に来ていたハルキは、いつもよりもきちんとして見えるチェックのシャツとジーンズ姿で手を振った。


 蓮華は滅多めったに着ない花柄のスカートと、黒いニットを着ていくと、ハルキが喜んだ。


ハルキ:

「綺麗です! 大人の女性って感じで、いいです!」


蓮華:

「ホント?」


ハルキ:

「はい! 俺んとこの高校は田舎だったから、みんな全然イケてなかったんで。やっぱり都会の人は洗練されてて綺麗ですね!」


蓮華:

「そうかな。あたしなんかよりももっと洗練されてる人はいっぱいいるけど。地方の人の方がスレてなくていいと思うけど、とりあえず、ありがと!」


ナレーション:

 昼間は横浜みなとみらいの遊園地で遊び、カフェに行くと、ハルキは正面に座る蓮華に見蕩みとれながら、話していた。


ハルキ:(少々舞い上がってる)

「俺、先輩と一緒に演奏したいから、頑張って練習してました。

これまでドラム一筋で、女子と付き合うのも初めてなんですけど……」


蓮華:

「よく見ると、腕、ちょっと筋肉質なんだね。カッコいいかも」


ハルキ:

「マジですか!? さわっていいですよ」


(腕まくりをしていた腕を差し出す)


蓮華:

「男の人が腕まくりしてるのって、カッコいいよね。わ~、固~い!」


(きゃっきゃ言いながら、腕をつつく)


ハルキ:(照れたように笑う)


   *夕方


蓮華(心の声):

「これって、山下公園に向かってる?」


ナレーション:

 辺りは薄暗くなっていた。

 以前、蓮華がサックスを吹く男と別れ話をしたのもこの近くで、出来れば寄り付きたくない場所であったが、ハルキには何も言わずにいた。


ハルキ:(キョロキョロ)

うわさに聞いていた山下公園ですが、……やっぱ、リア充、多いですね」


ナレーション:

 キョロキョロと見回すハルキは、周りの雰囲気にいているようだった。

 やっと見つけた空いているベンチに、急いで蓮華を引っ張っていき、座るとホッとしていた。


 とりとめのない話が続く。

 ハルキは、蓮華よりも周りが気になるようで落ち着かない。


 蓮華には、次の展開は読めていた。


ハルキ:

「先輩……」

(意を決して、蓮華の肩を抱き寄せ、唇を重ねる)

(*リップ音。不器用な感じで)


蓮華(心の声):

「ありきたりだけど、あたしを喜ばせようと思って頑張ってくれてる……」(ちょっと感動)


蓮華(心の声):

「それにしても、優ちゃんとは、例え同じ場所に来たとしても、こんな展開はありえないわね。

あの人がタラシだなんてからかわれてるのが不思議なくらいだわ。


 背が高くて、年齢の割には大人っぽくて。

 時々やさしくて、あの声と表情に、思わずドキッとさせられることもあるけど、そんな時は、だいたいからかってくる前触まえぶれで。


 髪を巻いた日も——


『似合ってるよ。かわいいね、寝ぐせみたいで』……とか!

まったく、がっかりだわ!」


ハルキ:

「先輩、どうかしました?」


蓮華:(我に返る)

「えっ?」


ハルキ:

「あの……嫌でした?」


蓮華:

「そ、そんなことないよ!」


ハルキ:(緊張して)

「あの、時間あるようでしたら、この後、……どこかに……」


蓮華:(緊張する後輩を見上げ、微笑む)

「あんまりムリしなくていいよ。ゆっくりでいいんだよ」


ハルキ:

「先輩!」

(ハグする)


蓮華(心の声):

「……かわいい……!」


蓮華:(やさしく言い聞かせる)

「きみのことが好きだから。もう少しゆっくり付き合おうね」


(ハルキの背に手を回し、でる)


   *数日後。優のアパートで、瑛太と蓮華の三人で飲む。


蓮華:(缶チューハイを飲みながら、ウキウキと)

「年下って、素直でカワイイんだね~。あたしの言うことに、いちいち目を輝かせて、素直に聞いてるの。

映画やドラマみたいなセリフなんか言わないし、純粋でストレートなの。


今までの年上の彼氏たちみたいに、上からじゃないからカチンと来なくて、あたしには付き合いやすいかも」


ナレーション:

 照れながらそう話す蓮華には、瑛太も優も驚きをかくせない。


瑛太:

「はー、蓮華ちゃんて年上としか合わないと思ったけどなぁ。

年下のストレートな言葉が、意外とだったのかよ?」


(不思議でたまらないというように、蓮華を見る)


優:(未だに信じられないような顔で)

「意外だよね。蓮ちゃんには精神的にも大人な人じゃないとって思ってたから。

でも、意外と年下が合ってたのかもね。スレてなさそうな年下なら、いいかも知れないね」


蓮華:(浮かれて)

「そ~お〜?」


優:(少し真面目な顔になる)

「一つだけ聞いていい?」


瑛太(心の声):

「おっ? 優、嫉妬しっとしてんのか? 『なんで僕じゃだめなの?』って?」


優:

「蓮ちゃんて、ブラコンなの?」


蓮華:(一気に気分ががれる)

「はあ!?」


瑛太:

「ああ、そうだよ! 確か、かわいい弟がいたんだよな?

普通、弟がいたら年下なんか嫌じゃねぇの?

年下彼氏って、実はブラコンから来てんのかよ!」


(笑い出す)


優:(微笑ましそうに笑う)


蓮華:(憮然ぶぜんと)

「違うもん!

あきれる)

ホント、どうしようもないよね、あなたたちって」


     *


ナレーション:

 ある時、『Something』では、ハルキの隣には見たことのない女子が座っていた。


 蓮華は、瑛太とカウンターにいる。


 ハルキの隣の女子は、大きく胸元の開いた、淡い色のミニ丈ワンピースを着ていて、肩の長さほどの髪の毛先は巻かれていた。


 優から見ると、若さの割りに化粧が厚い気がした。

 さらに、女であるアピールを欠かさない振る舞いは、大人の男たちから見れば背伸びをした若い子だが、同年代の学生達からすれば、大人女子に映るようだった。


 アキちゃんと呼ばれたその彼女は、その一角いっかくで飲んでいた仲間内の学生たちの中でも目立っていた。


優:(小声で)

「蓮ちゃん、ハルキくんとどうかしたの?」


瑛太:(小声で)

「そうだよ。あいつ、なんで違う子と一緒にいるんだよ?」


蓮華:(あっさりと)

「ああ、別れたから」


優:(目を見開く)

随分ずいぶん早いね」


蓮華:

「あの子に取られたの」

(表情を変えずに、蓮華がガブッとジントニックをあおる)


瑛太:(小声で)

「ええ〜〜……! マジかよ!」


ナレーション:

 これは、なんともおさまりがつかない予感がして、優も瑛太も、この後に続く蓮華の話を聞く前に、身構えた。

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