第17話 お見合い
「おばあちゃん、転ばないようにね。――失礼します」
「孫にこんなに優しくしてもらえるなら年寄り扱いも悪くないねぇ……」
女子高生は俺が通っている高校の制服を身にまとっていた。タイムリーなことに、本日何度も見たし、何なら名前も知ることができている。あと緊急避難的に何度か抱き着かせてもらったりもした子である。
つまるところ、
名前は確か、
「初めまして、
「ありがとうねぇ……旅行ついでに孫に会いに来たつもりだったんだけど、あやうく病院に旅行にいくところだったよ」
「もう、お祖母ちゃん! 笑えないから!」
俺に着替えを覗かれたことで錯乱していたとは思えない、理知的な態度である。
一応、舞台袖で着替えを後に死に戻りしているので大丈夫だと思うが、どうにも挙動不審になってしまう。
本来ならば微笑ましい孫と祖母のやりとりなんだろうけども、内心ではドキドキである。
軽い挨拶や自己紹介を済ませたところで、
「組長も挨拶に
同じ高校なんですね、みたいな話で盛り上がっていたのに、一瞬にして全員が黙る。
……いや、あの。
フリル付きのエプロンが壊滅的に似合ってないです。
っていうかウケ狙いなのが素なのか分からなくて反応に困ります。
顔が怖すぎて笑っただけで小指をもっていかれそうなんだもん……。
世界的に有名なスイーツ店で買ったらしいケーキに舌つづみを打つレリエルを尻目に、比較的まともな方の天使に小声で質問する。
「サキさん。俺のスキルの効果って全部抜けてるんだよね?」
「えっ? 鹿間さんと三峰先生以外にも効果を受けている方がいたんですの……?」
あ、駄目だ。
これ絶対にスキルの効果が残っている奴だ。
嫌な予感がヒシヒシとする中で、おばあさんが爆弾発言を落とした。
「なんだい友香子。そんなにマジマジと白神さんを見て。……いや、
「そ、そんなんじゃないよおばあちゃん!」
慌てて否定する獄門さんだけども、自分の手をグーパーしながら見つめている。
「別にそんなんじゃないけど、なんだろう……白神先輩を見るだけでちょっとドキドキが止まらないの」
それ、舞台袖で俺に着替えを覗かれた感情が残ってるんじゃないですか……?
「友香子、それが恋じゃよ」
「ホントに? じゃあ、指先が痺れて震えるのは?」
「わしの一族はみんなそうなんじゃよ。いわゆる一目ぼれって奴じゃ。わしも祖父さんと出会った時は雷に打たれたような気持ちじゃったぞ」
いやいやいやいやトラウマだよ!?
物凄く認めたくないし何ならただの誤解だけど俺が原因のトラウマだよ!
嫌な汗が背中を流れ始めたけれど、獄門さんは「そっか……これが……」とか呟きながら手をグーパーしていた。
嫌な予感がするので無理矢理話を変える。
「ご、獄門さんってバレー部だよね? 顧問の三峰先生――」
「父がこんな稼業ですし、苗字がすごく厳つくて苦手なんで名前で呼んでもらえませんか?」
「エッ!?」
「それに白神先輩の方が年上ですし、呼び付けにしてもらっても良いですよ?」
「いや、流石に初対面でそんな失礼なことは、」
「じゃあ私からのお願いです。ぜひ呼び捨てにしてください」
ぐいぐい来るじゃん……!
しかもド直球のストレートである。
「いやでも、」
何とか呼び捨てを回避しようとしたところで、湯呑に新しいお茶が注がれる。
こぽぽ、と急須を傾けるのはエプロン姿の蒲生さんである。
「お嬢のお願い、叶えてやっちゃくれませんかね……?」
「……ぜひ呼び捨てにさせていただきます」
「わっ、やったぁ!」
震えながら喜びの声をあげるの、本当にヤバいと思うんだけど。いや本当に無理しないで?
えーと……友香子、今自分で自分の心の傷をえぐってるからね……?
「ときに白神さん。
「え、いや違います。そもそも誰とも付き合ってないですよ」
「ふむ。じゃあ友香子なんてどうですかな?」
「……はい?」
「ちょっとおばあちゃん! やめてよ!」
ド直球ストレートでデッドボールな質問に思わず呆けていると、友香子が眉尻を吊り上げておばあさんに食って掛かった。
そりゃそうだ。
自分のトラウマメーカーとくっ付けられそうになるとかどこの地獄だよ。
「おや、友香子は不満かい?」
「ふ、不満とかじゃなくて! 白神さんに悪いでしょ!」
「なんでじゃ? 白神さんも今は相手は居らんそうじゃぞ?」
「それはそうだけどさ」
ちょっと待って友香子。
俺をチラチラ見ながら口ごもるのやめて貰っていいですか。
それ、恋じゃなくてトラウマだからね?
ドキドキはストレス由来ですよ?
「とりあえず、若い二人で少し話でもしてくれば自分の気持ちも見えてくるじゃろ。友香子、庭を案内してあげなさい」
「えっ……うん」
「いや、あの」
「白神さん……ここだけの話じゃが」
何とか断る口実を探そうとする俺に、おばあさんがことばを付け加えた。
声を潜めるような話し方に、何か重大な秘密でも打ち明けられるのかと身構える。
「友香子の母は巨乳じゃ。友香子自身も中学三年間でまな板からDカップまで育って――」
「もおおおおおお! 黙って! 白神さん、行きましょ!」
異性には知られたくないタイプの個人情報を暴露された友香子はおばあさんをキッと睨みながらも、逃げるように立ち上がった。
俺と連れ立って退出しようと手を伸ばしたせいで、俺の股間が飛び散って和風建築の一室を
……。
…………。
………………。
「白神さん……ここだけの話じゃが」
おばあさんが声を潜めたところに死に戻りした。今日一日だけだが、何度も死に戻りしてきた俺には分かる。
この場所がターニングポイントということは、おばあさんが友香子のおっぱいのサイズを暴露したら終わりということだ。
「あ、ごめんなさい! ちょっとトイレ行っても良いですか!?」
「うわ、人が話してるのを
「言い方ァ! 生理現象だろうがッ!」
「ええそうですとも。全て本能が原因ですし、人間の根源的な欲求ですもんね。はいはいリビドーリビドー」
レリエルの機嫌が妙に悪い。
とげとげしい言葉で……ってそれは普段からか。ディスりまくりだし、まともな発言の方が少ないもんな。
気を取り直そうと友香子の方をみれば、彼女もまた不機嫌そうに唇を尖らせていた。
「……お庭、ご案内しても良いですか?」
「ええと、はい」
微妙に圧を感じる視線だけども、おばあさんの暴露なしにこの場を切り抜けられるのならば大歓迎だ。
レリエルが不満気なのはちょっと気がかりだけども、死に戻りを打破するためにも中座するのであった。
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