第16話 情けは人のためならず2
「白神優斗さん、ですね?」
改札を抜けた俺たちを待っていたのは、黒スーツにサングラスという
「……えーと」
「申し遅れました。自分は
はい、気配だけなく確定でソッチの人でした。
「午前中、こちらで転びそうになっておりやした組長の義母さんを助けていただいたそうで。お礼に招待するよう申し付かりまして、ここでお待ちしておりやした」
「エッ!? それは人違いじゃ――」
「あっ、助けましたね! ええ、それは私たちですよ! いやぁもう人助けなんて当たり前のことですし全然気にしなくて良いんですよ! ええ、もう欠片も! お金も生クリームも目当てにはしてないんで! ねぇ優斗さん!」
余計なこと言うんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!
どう考えてもこの人に連れられて向かうのはヤバい人たちがいっぱいいるところだろ!?
できれば人違いってことにして
「いやぁ、自分の
たらり、と背中に汗を
――背に腹はかえられないか。
奥歯を食いしばってレリエルの肩にタッチする。
股間に熱が生まれ、一気に膨張する。
そして俺は、能動的に股間を爆発させた。
……。
…………。
………………。
「いやぁ、自分の善行を隠そうとするなんて、見上げたお方だ。是非とも組員以下全員でお礼を言わせていただきたい」
はい駄目でしたー!!!
そうだよね、別に蒲生さんに話しかけられたのは股間のピンチでも何でもないもんね!
せっかく股間を爆発させたというのに、俺が戻ってきたのはレリエルが余計なことを言った直後である。
「今日がご都合が悪いって仰るなら、日を改めて家までお迎えに上がりやすが?」
「……イエ、大丈夫デス」
「では、車を待たせておりやすので、こちらへ」
気分はドナドナされる子牛である。
良いことしたわけだし、別に取って食われるわけじゃないだろうけどさぁ。
はぁ、と内心で溜息を吐きながら、黒塗りのセダンへと案内された。フロントガラスまでフルスモークなのが如何にもって感じである。
これ、車検通るんですか? 夜道とか運転するの危なくない?
「さ、乗ってくだせぇ。もちろんお友達もご一緒でかまいません」
後部座席のドアを開けてもらって案内されたそこに、何の疑いもなくレリエルが乗り込む。続いて俺が乗り、最後にサキさんも続く。
どんなに広くても一般車両の後部座席なんてたかが知れている。
結果から言うと、俺の股間が黒塗りのセダンを内部から吹き飛ばした。
「無理過ぎるだろっ!? もうちょっと
「えー、レリエルちゃん、車とかでは足を伸ばしたいタイプのフレンズなんですよー。今日一日、優斗さんに付き合って歩き通しだったので疲れてますしー」
「やかましい! パフェ食ってただけだろ!?」
ベンツに乗り込んだは良いものの、触れずに座るのが非常に難しかった。
レリエルの手に触って1ミス。
なんとか乗り込んだところで、今度はサキさんと接触して2ミス。
最後の1ミスは、ドアを閉めた衝撃でレリエルのさらさらの髪がふわっと舞って、俺に触ったことによる爆発である。
「……優斗さん、もしかして前世がプラスチック爆弾か何かですの?」
「やめて! サキさんまで疑わしそうな目で俺を見ないで!」
「ははは、サキエルさんナイスジョーク。優斗さんの前世はアスモデウスですよ。もういやらしさの権化というか、優斗と書いてえっちと読むくらいの色欲魔人ですからね」
「やかましいっ!」
する気はさらさらないけども、こんだけ爆発してたらいやらしいもクソもないだろうがっ!
とはいえ、レリエルのせいで今更誤魔化しが効くとも思えないし、日を改めたいとも言いにくい。
「ここはワタクシとレリエル様が辞退し、優斗さんお一人で向かわれるのがよろしいかと」
「待って! 見捨てないで!」
「駄目ですよ! 流石に優斗さんを一人にするのは可哀想です!」
れ、レリエルがまともなことを――
「お礼――げふんげふん、ここは守護天使として一緒に行動するのが正解です! 独り占め――げふん、どんな危険が待ち受けてるかも分かりませんし! 生クリームだってあるかもしれないんですよ!?」
うん、レリエルはいつも通りだね。
っていうか生クリームの辺りで誤魔化すのすら面倒になってきてるじゃん。
サキさんも、「さすが上級天使さま……これが慈愛の心なのですね」じゃないんですよ。騙されやすいってレベルじゃねーぞ。
「とりあえず私は窓際に限界まで張り付きます。サキエルさんは逆側で、できるだけ優斗さんに接触しないように」
「かしこまりましたわ」
方針確認が出来たところで、いつも通り俺は爆発させられました。
……ぐすん。
……。
…………。
………………。
「……ええと、お三方は何か、ケンカとかをなすってるんで?」
「いえ、宗教上の理由ですの」
「自分、シャイなんで」
「えーと……優斗さんちょっと
おいコラ。
言い訳なのは分かってるし、俺もサキさんもスゲー適当なこと言ってると思うけど、臭うは普通に傷つくぞ!?
何なら俺的には女子から言われて傷つく言葉トップ3に入ってるワードだぞ!?
ちなみに残り二つは、『生理的に無理』と『気持ち悪い』である。
後者は『キモい』とか略した軽い感じじゃないのがポイント。多分だけどこれ言われたら翌日から不登校になる男子が沢山いるはずだ。
「えっと、……そうですか」
蒲生さんが限界まで気を遣って突っ込むのを我慢したけれども、レリエルとサキさんはそれぞれ窓ガラスにへばりつく様に俺を避け、俺も叱られてしょんぼりしてるかのごとく肩をすぼめているのだから仕方ない。
いやだって爆発したくないし!
本当は助手席を使わせてもらえれば良かったんだろうけども、蒲生さんとレリエル・サキさんが相席して俺が前ってのは流石におかしいし提案できなかった。
運転席には悪役プロレスラーみたいな見た目の人で、助手席に蒲生さん。後部座席には俺とぽんこつとサキさん。
途中、猫が飛び出してきて急ブレーキを踏まれたり、石か何かを踏んでガタンと揺れたりして6回ほど爆発したものの、無事に目的地にたどり着くことができました。
……無事って一体なんなんだろうか。
案内されたのは中庭に池があるような純和風の邸宅。池には
当然といえば当然なのだけれど、池ですらそうなのだから全体の敷地はとんでもない広さである。
そんな和風邸宅の座敷に通された俺たち。座布団に座るのを見届けた蒲生さんは、
「いま呼んでまいりますので、少々お待ちを」
と言い残して退出した。
……呼んでくるのっておばあさんだよね?
処刑人とかそういうのじゃないよね?
ドキドキしながら待っていると、予想だにしない人が現れた。
「おばあちゃん、転ばないようにね。――失礼します」
「孫にこんなに優しくしてもらえるなら年寄り扱いも悪くないねぇ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます