笑顔の仮面
夏のクソ暑い通学路。俺たちは二人で缶ジュースを片手に歩いていた。
最後の学生生活が始まってはや数ヶ月。隣の虎女に振り回され、飽きない毎日を送っていた。
そういえばここ最近振り回されて分かったことがある。この虎女、よく突拍子もない行動をとるが、クラスから嫌われている事もなく良くみんなと笑いあっている。
ただ、なぜか隣には誰もいない、、、。
みんなで笑いあうが虎女の隣には誰も並ぼうとしない。それなのにあいつはいつも笑っている。
いや、笑っていられる。
俺にはその笑顔に見覚えがあったのだ。
俺は並んで隣を歩く虎女を見た。
喉を鳴らしながら美味そうにジュースを飲んでいる。実に逞しい姿だ。
俺は最近抱いた疑問を虎女にぶつけた。
「なぁたいが、いつも皆んなと笑ってるお前を見てて疑問に思ったんだが、なんで誰もお前の隣に立ってないんだ?それなのになぜそんなに笑っていられる?」
たいがが驚いきながらこっちを見た。
そのまま少し考えながら俺の前を歩き出す。
俺の少し前を歩く虎女は答えた。
「私が大切に想ってる人が笑顔になってくれる、私はそれが幸せなの。私ってアホだから色んなことしちゃうけど、皆んな優しくて一緒に笑ってくれる。そんなみんなのことが私は大切なんだと思う。」
俺はその答えを聞いて、わずかな苛立ちを感じてつい意地悪な質問をした。
「その大切な人の隣に自分が立っていなくてもか?」
自分でも嫌な質問だと思う。
そんなことは気付きもしていない様子で、たいがは自然に答えた
「うん、その人の隣が私じゃなくても、その人が幸せで笑っていてくれたら私は幸せだよ」
振り向いてそう答えた時の笑顔は、とても綺麗だった。
俺は咄嗟に言葉が出なかった。
出会った時に感じたこと。
その普段の行動のせいで気付けなかったが、たいがは不器用で繊細で優しい子なんだ。
「変わってるな。」
俺はたいがの笑顔に魅入っていた事を誤魔化すように呟いてしまった。
「へへ、よく言われる。」
しかしその時には違う意味でタイガの笑顔から目が離せなかった。少し悲しそうに諦めたように笑ったその顔は俺もよく知っている笑顔だったからだ。
隣に誰もいない寂しさを俺は知っている。
そして寂しさを誤魔化す笑顔の仮面は心に重く被さる事を俺は知っている。
俺はこの笑顔の仮面が嫌いだった。
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