出会って5秒でう○ちを見せてきた女が、今は隣でニヤけてる

てぃてぃ

隣の虎女

 桜の花びらが風に運ばれて目の前を通り過ぎた。

 春先の風は1人で歩く俺にはまだ少し肌寒い。

 クラスの席に着き周りを見てみると、すでに仲のいい友人同士で同じクラスになったことを喜び合い、楽しそうに雑談に花を咲かせている。


「ねぇねぇ」

 俺は不意に声をかけられ隣に視線を向けた。

「私のう○ち見ない?」

 その発言を最後まで聞き取ったかどうかのタイミングで既に体は無意識に危機を察知していた。

 俺は決して運動が得意な方ではないが、今この瞬間の反応速度だけはオリンピック選手に引けを取らないと思う。

 過去最高速度で俺は声の主から携帯をもぎ取った。

「え、急にびっくりするじゃん。こわ。」

 それはこっちのセリフだ。

 この女は出会って5秒もしないうちに初対面の人間にう○ちを見せつけてきたのだ。

「お前は急に何を見せようとしている!?そもそも誰なんだ。」

「隣の席のクラスメイトぐらい覚えようよ。まぁ私も君の名前知らないんだけどね。」

 そうやってこの女は笑った。見事に憎たらしい笑顔である。

「名前を聞きたきゃそっちから名乗れよクソ女。」

 クソを見せつけてきたクソ女。

 ピッタリな名前だと思う。

「うわーひどその呼び名。私の名前はたいが!虎だよ虎、かっこいいでしょ!」

 クソ女ではなく虎女であった。

「1年間席替えもないからずっと隣なんだよ?仲良くなるきっかけに笑ってもらおうと思ったの...。」

 そうだった。最後の1年は席替えがない。

 つまりこのぶっ飛んだ女とずっと隣り合わせなのだ。

 俺は頭を抱えた。

「どしたの?頭痛が痛いの?」

「どこぞの虎女のせいだ。あと頭が痛い事そのものを頭痛と言うのだバカ。」

「バカってひどいなー。せめてアホにして!」

 この虎女は落ち込む事を知らんのか?

「わかったわかった、朝から疲れるからそっとしといてくれ。」

 俺はつい本音が漏れてしまい、嫌な予感がして虎女の顔を見た。

 そこにはもう先ほどの笑顔は無く、悲しげで申し訳なさそうな顔をしていた。

「ごめんね、私よく良かれと思って変なことしちゃって困らせちゃうからさ。これからは大人しくしとくね。」

 そうだ、この子に悪気はなくただただ不器用なだけなのだ。

 バカなのは俺の方だった。

「まぁやった事はどうあれ仲良くしようとしてくれた事は感謝する。ありがとう。1年間よろしくな。」

 俺はややぶっきらぼうな言い方になりながら素直に気持ちを伝えた。

 慣れない事をしたせいか頬が少し熱い。

「いいの?また困らせちゃうかもよ?」

「ずっと隣で落ち込んでられるよりマシだ。それに悪気がないのはもうわかった、問題ない」

「にひひ!ありがとね!!」

 窓際で見せたその笑顔は、春の青空と相まってとても清々しくみえた。


 こうして俺と出会って5秒でう○ちを見せてきた女との隣同士がはじまった。

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