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 獏間のふざけた態度にあきれはしたものの、子どもの頃の話は別に隠すことでもない。そう思った祈は口を開く。


 ――町内会の行事。ハロウィンで一緒に仮装してお菓子をもらいに行こうと約束した友人がいた。その友人こそ、けーちゃんこと蛍だった。

 しかし、行事への参加はいつになく怖い顔をした叔母の反対でダメになった。

 いや、祈が諦めた。


 だから放課後、ふたりにとって〝いつもの場所〟だった神社に向かい、石段に座って待っていた蛍に不参加の旨を伝え謝ったのだ。  

 すると、いつもは楽しそうにニコニコしている蛍は、怒ったような、それでいて泣き出しそうな顔をして言ったのだ。


『なんで?』

『ごめん……でも、珠ちゃんが、ダメだって』

『だから、なんで! 先に約束したのはコッチなのに!』


 ――約束したのに! 楽しみだったのに!


 声と同じ文字が、蛍の顔に浮かんでいた。

 おでこにクッキリと浮かんだ文字が、自分を責めている気がして小学生の祈は思わず視線をそらした。


 もしかしたら、そんな態度をとったことで、蛍に拒絶したと誤解させたのかもしれない。だが、それは全て終わった後での想像に過ぎない。この時顔を背けたせいで、祈は蛍の本音を読む事ができなかったのだから。


『ノリマキ、変だよ。いつも、叔母さんの言うとおり。ノリマキの叔母さんだって、変。いちいち口出してきて! みんな言ってるよ、変だって……!』

『だって、珠ちゃんは俺の母親代わりだし……』

『だったら、なんであんなこと言うの! 余計に変だよ! ノリマキの馬鹿!』


 そう言って蛍は走り去ってしまい、以降学校で会っても蛍からは避けられるようになった。


 神社に「仲直りできますように」とお願いしてみようとも思ったが、珠緒から神社はそういうことをお願いするところではないバチが当たると叱られたので、踏んだり蹴ったりな思いを感じ、結局寄りつかなくなった。


 そのまま祈たちは卒業を迎え、中学に上がると間もなく大路家は引っ越していってしまい――。


「元々疎遠になってたし、引っ越しで完全に縁が切れて、それっきりっす」


 話を聞いた獏間は、くすっと笑みをこぼす。


「馬鹿だなぁスズ君――神社に行っていれば、絡まった糸が解けたのに」

「は?」

「きっと、その子もスズ君と仲直りしたくて、神社で待ってたんじゃないかって話」

「あー……それは、どうっすかね……」

「だって、いつもそこが待ち合わせ場所で、ふたりの遊び場だったんだろう? 学校ではどうしても避けちゃうけど、ふたりだけの遊び場だったそこでなら、本音が言えると思って待ってたかもしれないよ?」


 ――そうだろうか。


 祈は変だと言われて以降、蛍の顔をまともに見ることもなくなった。

 蛍も祈を避けていたが、祈自身も彼女をさけるようになっていた。

 最後に言われた言葉が、それだけ堪えていたから。


 今まで仲良くしていた友達が、突然自分や叔母を変だと言い出して、挙げ句に皆言っていると暴露されたのだ。

 今度はどんな本音が……自分が知らなかっただろう、自分を否定し嫌う言葉が浮かんでいるかと思ったら怖くなった。


 だから、今さらそんな〝もしも〟の可能性を論じたとしても――。


「もう終わった話っすから」

「あっさりしてるね~。君は執着が薄い……というか、わざとそういう風にしているんだろうね。その方が、楽だから」

「はい?」

「――お客さんだよ、スズ君」


 なにを言っているんだと祈が首を傾げるも、獏間は疑問に答えることなく、事務所のドアに視線を向けて微笑んだ。


 その数秒後。

 コンコンコン、とドアをノックする音が事務所に響いた。

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