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「で、連絡先を交換してきたというわけだね。いやぁ~、いいね! 甘酸っぱい気配がする! 青春だね!」
獏間探偵事務所の所長である獏間 綴喜は、ハロウィンケーキという名のカボチャスイーツを食べながら、何度もうんうんと頷いた。
「甘酸っぱいって……別に青春でもなんでもないっすよ」
「照れるな、照れるな。僕は、甘い物が大好きだ。だから、このハロウィンケーキ並にあま~い話にも興味ある。是非とも詳しく!」
なぜ、幼馴染みと偶然会っただけのことに、ここまで鼻息荒く食いつくのかと祈は引いた。
「いや、本当になんもないっすよ。連絡先交換できないかなって顔に書いてたから、交換して終わりっす」
「……は……え、終わり? いやいや、なにか一言くらいは送っただろう? そうだろう?」
「なんでっすか?」
別に用事も無いのに、逆に気持ち悪がられるだろうと祈が否定すると、獏間は目を見開き、大げさに仰け反った。
「はぁ~? ウソだろう、スズ君。本当の本当に、連絡してないのかい?」
「っす。さっき会ったばっかりで、別に用事はないし」
言って、祈は自分用に買ってきたブラックコーヒーのペットボトルを口に運ぶ。
だが、獏間は信じられないと言いたげな眼差しを向けてきた。
「きみ、厄介事は積極的に背負い込むくせに、どうして若人らしい旗はバキバキにへし折ろうとするんだい? あれか? 草食……いや、絶食系男子というやつかい?」
「なんすか、それ。飯食わないと腹減るじゃないっすか」
「そうだね。だけど今のは、そういう意味じゃないんだよ。――あ、そうか、そうだった……中身はまだ、子供だった」
「? 今、なんか言いました?」
「ん~ん~?」
祈の言葉を聞いて、疲れたように脱力した獏間は、ばくりとケーキを一口頬張り……それから、またなにかボソリと呟いたようだったが、祈にはよく聞こえない。
聞き返しても、コンビニで付けてもらったフォークをくわえて笑うばかりだ。
「なんなんすか?」
「いや、ごめんごめん。なんでその子が自分と連絡先交換したいって思ったんだろうとか、気にならないのかな~と思ってね」
「久しぶりだから、ノリで」
「……冷めてるねぇ、スズ君」
「獏間さんこそ、妙に食いつきよくないすか?」
「いや~甘酸っぱい話の気配の他に、僕の大好物……ゴホン、なんか訳ありの気配があるからさ!」
「…………」
「やだな、スズ君。そんな冷たい目で見ないで。ケーキ、ちょっとあげるから」
食べかけのケーキを差し出され、祈は首を横に振る。
「いらねーっす。甘いもん苦手なんで」
「だよね~、だから僕が食べちゃう~」
幸せそうな笑顔で、獏間は残りのケーキもパクパクと腹の中におさめてしまう。
「で?」
「は? ……あ、茶でもいれましょうか?」
客も来ないし、掃除するでもない。
だったら暇を持て余したバイトが出来る事は何かと考えて、とっさに思いついたのはそれぐらいだった祈が動こうとするも、獏間に「いや」と押しとどめられる。
「そうじゃなくて。その友達……えぇと、けーちゃん? だったっけ? 昔、なにかあったのかい?」
「……大したことじゃないっす」
「でも、きみは浮かない顔をしているよ。所長として、所員の心身ケアも大事だと思うんだ。だから、ドンと胸を借りるつもりで話してごらん?」
「……アンタ、なんか教祖とかなれそう」
「ははははは。僕はそれより上だよ」
「?」
「まぁまぁ、僕よりスズ君の話だよ。ほらほら~」
急かされて、ふと祈は気付いた。
自分が暇だと言うことは、つまり目の前の男も暇を持て余しているということで……。
「ただ単に暇なだけっすよね?」
「…………」
獏間はにんまりと笑い――。
「所長命令だ。話したまえ、スズ君」
畏まった口調で、そんなことを言い出したのだった。
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