14

 珠緒も無事見つかり、祈はまたいつも通りの日々を取り戻した。


 祖父母は、珠緒が無事に見つかったことよりも、祈が勝手に探偵なんぞに依頼したことを不快に思ったらしい。

 念のために入院となった珠緒の病室からすぐに追い出されてしまった。


 獏間は変わらず読めない笑みを浮かべていたが、様子を見に来た笹ヶ峰刑事からはいたく同情されたのが三日前――。


 それから、獏間からは音沙汰がない。


(金額とか、どうなってんだろ?)


 料金は後払いで必ず払うと言い切った手前、このまま有耶無耶にするのも気が引けた祈は獏間探偵事務所に向かっていた。


(でも、スピード解決だったからな……この場合、敏腕探偵ってことになるのか? 値段、跳ね上がるのかも……)


 まだ、新しいバイトはまだ見つからないため、いささか懐は心許ないが……。


(あ、ここだ)


 考えごとをしている間に、到着した。

 祈は二階へ続く階段を上り――それから、探偵事務所と看板が掲げられた扉をノックした。


(あれ?)


 返事がない。


(留守……。あ~、そうだよな)


 約束をしていたわけではないのだから、獏間がどこかへ出かけていてもおかしくない。


(なんか、いる気がしたんだけど)


 祈は自分の思い込みを恥じて、出直そうと踵を返した。


「やあ、スズ君。今来たばかりなのに、帰るの? あがっていきなよ」

「おいおい、本当にいやがった……」


 そこへ、ちょうど現れたのは事務所の主である獏間と、驚いた顔をしている笹ヶ峰刑事だった。


「この悪趣味探偵が、詳しい話なら坊主も来る頃だから事務所で聞かせろってしつこくて来てみれば……なんだ、約束してたのか」

「あ、いえ、特にそういうわけじゃ……。ただ、いるかなと思っただけで」


 祈が何気なく呟けば、笹ヶ峰は微かに目を見張り、それから獏間をチラリと見た。だが、それ以上は触れず、さっさとドアを開けろとばかりに顎をしゃくる。


 事務所の主である獏間が鍵を開け、まず最初に中に入る。


「まぁ、立ち話も何だから中へどうぞ」


 招かれて、笹ヶ峰が動く。祈も踏み出そうとした。

 その一瞬。


「あんまりアイツに気を許すなよ。――戻れなくなるぞ」


 並んだ笹ヶ峰が、そんなことを言った。

 聞き間違いかと思うような、短い時間。

 視線も一切ブレずに落とされた一言に、祈の足が止まる。


 だが、それだけ。

 笹ヶ峰はなにもなかったように平然と中に入り、ソファに腰掛けている。


「坊主、さっさと来い。お前も一応当事者だからな、あの店長の事、気になるだろ」

「遠慮せずに入りなよ、スズ君。笹ヶ峰刑事はガラは悪いが公僕だから、いきなり暴れたりはしない」


 ――気のせいだったのか。


 釈然としないながらも、これ以上待たせるわけにもいかない。

 祈は「お邪魔します」と一言断り、事務所の中へ踏み入った。

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