第十二話(中)

唐突な美蘭の告白に一同が固まる。


「い、いきなりどうしたの?」


「私、数日ケンヤさんたちと過ごしてとても楽しかった。もうこれで会えないなんてやだ……」


「美蘭さん……」


美蘭は胸に手を当てて翳のある表情で想いを打ち明けた。


「それなら彼らにまた来てもらえばいいじゃないか」


「それじゃだめなの。私は、ケンヤさんたちと過ごしたあの世界がいいの」


「世界……?」


異世界の存在を知らない両親は首を傾げる。


「美蘭一回冷静に考えて」


マザンが口を開く。


「あの場所はね、ここよりずっと危険な場所なんだよ」


「確かに危険な世界かもしれません。でも危険なだけじゃなくて、優しいことも知ってます。それはみなさんが証明してくれました」


「………」


「見ず知らずの私を助けてくれました。私の不安をほぐそうと町を案内してくれました。私はあの世界が単に危険な場所とは思えません。優しくて温かい世界だと思っています」


「本当にこっちに来たら何度も行き来できないぞ。それでいいのか?」


「構いません」


「ちょっと待ってください!」


ケンヤが割って入る。


「ルスリドに来たらもう友達と会えなくなりますよ。大切な友達と別れてまで私たちと来たいのですか?」


「私は前にも言いました。今はケンヤさんたちといる方がとても楽しいです」


「両親とも会えなくなりますよ!あんなに心配して……あんなに会いたがってたじゃないですか!」


「それでも……それでも!私はケンヤさんたちと一緒がいいです!そのくらい……あの世界が楽しかったんです!」


「美蘭……さん……」


「相当意思が固いな」


「理解不能」


なんとか説得しようとするも、美蘭はまったく意志を曲げない。三人は頭を抱えてしまう。


「ケンヤ君たちはどう思っているんだい?」


父親が三人に問う。


「美蘭はこう言ってるけど、君たちは美蘭と一緒にいたいと思うのかい?正直な気持ちを聞かせてほしい」


三人に対して厳しい目つきで見つめる。


「それは……」


少しの無言の後一番最初にケンヤが口を開く。


「とても嬉しいですよ。前にも美蘭さんに言いましたが、私たちは男だけ住んでいるので美蘭さんがいるだけでぐっと賑やかになりました。この生活がずっと続けばと思ってしまったこともあります」


(ケンヤさん……)


「僕も同意見。料理すげー美味いし。ずっと食べたいって思ったな」


「俺もだな。イシギア楽しかったしあいつらもまた飲みたいって言ってたからな」


(マザンさん……キザミさん……)


彼らの温かい言葉に胸がいっぱいになる。


「そっか……」


「お母さん、お父さん」


両親に許可を求める。両親の顔を交互に見る。


「ものすごく無理言ってるのはわかってる。でもわかってほしい!私にとってケンヤさんたちは、大切な人なの!お願い!」


両親に向かって勢いよく頭を下げた。


「お父さん……」


母親は父親に委ねる。


「僕は、いいと思うけどな」


「「「「!?」」」」


全員の視線が父親に集中する。美蘭が頭を上げる。


「いいの……?」


「親としては娘の幸せが一番だからね。美蘭がそれで幸せと感じるなら僕はいいよ。ケンヤ君たちなら美蘭を任せられるしね」


「お父さん……お母さんはどう……?」


「私はね、正直美蘭にはこのまま進学して就職して、美蘭が作る料理を多くの人に食べてほしいと思ってるの」


「………」


「でもお父さんの言う通り、美蘭に社会貢献してほしいよりも、美蘭の幸せが第一ね。ケンヤ君たちと一緒が幸せなら、美蘭の背中を押すわ」


美蘭の目に涙が浮かぶ。


「美蘭さん……恵まれてますね……」


「なんでお前まで泣いてんだよ」


ケンヤがもらい泣きしてしまった。


「お父さん……お母さん……ありがとう!」


涙を流しながら美蘭は両親に感謝を伝えた。


「こうなった以上帰るのは延期だね。やらないといけないことがあるし」


「やらないといけないこと?」


「クラスメイトや友達に別れの挨拶ですよ。突然いなくなったら驚きますよ」


「そうですね。わかりました」


「後は美蘭のお別れ会と家族写真と」


「そこまでやるの?」


「もう美蘭と会えないんだよ!最後に思い出を残さないと!」


「もうお父さん…」


その賑やかさにみんなが笑った。

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