第十二話(前)

翌朝


「行ってきます」


いつも通り美蘭は両親に挨拶してから外に出る。


「「美蘭!」」


外には瑞香と明乃が待っていた。


「ありがとう助けてくれて。まさか美蘭がきてくれるとは思わなかったよ」


「あの後助けに行ったんだね。明乃だけじゃなくてみんなも助けるなんてすごいね」


「無事で良かったよ。明乃」


友達の無事と元気な様子を見て美蘭は嬉しく思う。


「でも、どうやって助けられたの?」


「え?」


「どうして場所がわかったの?誘拐犯とかどうしたの?」


「え……えっと……」


気になった明乃に言い寄られる。ケンヤたちのことを言えるはずがなく、うまく言葉が出てこない。


「秘密……かな」


「え~!?なにそれ!?教えてくれないの!?」


回答が出てこないため美蘭ははぐらかすことにした。もちろん簡単には納得してくれない。


「これは言うことができないの。ごめんね」


「なにそれ~」


明乃は不満げに口を膨らませる。


「美蘭には私たちの知らない秘密があるのかな」


「うん。そうゆうことだよ」


「瑞香は気にならないの?」


「誰にだって言えない秘密はあるよ。無理やり聞くのは良くないでしょ」


「ありがとう瑞香」


「ん~わかった。私も聞かないよ」


「明乃もありがとう」


深く尋ねてこなかった友達に美蘭は感謝を述べた。


「立ち話はここまでにしてそろそろ行こう」


「そうだね」「うん」


集まった三人は高校に向かって歩き始めた。


・・・・・。


「東!」「東さん」


教室に入った美蘭を出迎えたのは、美蘭が助けた数人のクラスメイトだった。


「助けてくれてありがとう」「もうだめかと思ったよ」「すげーな東!」「本当にありがとう」


「え……えっと……」


クラスメイトに色々と言われて美蘭は困惑する。


「一気に人気者ね、美蘭」


「あはは……」


「東」


声をかけられて一人が近づく。美蘭が最初に助けた相庭だった。


「相庭君」


「ありがとう」


「こっちこそ協力してくれてありがとう」


「なんだなんだ?もしかしてそう言う関係だったのか?」


「なに言ってんだよ……」


クラスメイトによって笑いに包まれた。


(みんな……無事で良かった……)


その時、教室の扉を開けて教師が入ってきた。


「ホームルーム始めるぞ。席に着け」


生徒全員が席に着き通常のホームルームが始まった。


・・・・・。


放課後


「東先輩!」「美蘭!」


部活で調理室にきた美蘭を部員が囲む。


「私の友達を助けてくれてありがとうございます!」

「本当にありがとう。助けに来てくれて」


後輩や同級生からお礼を言われる。


「美蘭先輩!」


一人の一年生が前に出る。一番美蘭を慕っている後輩の直緒だった。


「先輩はすごいですね!料理だけではなくみんなを助ける行動力と勇気があるなんて!やっぱり尊敬しますよ!」


直緒がまるで姉妹のように美蘭に抱きついてくる。微笑ましい光景に部員がくすくすと笑った。


「それで先輩。どうやって誘拐された人たちを助けられたんですか?」


(あ……)


再び同じような質問に美蘭が固まる。


「ああ!それ聞きたいです!」


「ちょっと……それは……」


「え~いいじゃん~!美蘭の武勇伝~!」


真実を話すことはできずしどろもどろになる。


「はいみんな静かに。部活始めるよ」


その時顧問の先生が入ってきた。


「先生、美蘭が教えてくれないんです」


「なんのことかわからないけど、ここは東を問い詰める場所ではありません。美蘭も困ってるんじゃないの。はい始めるよ」


{はーい}


顧問の先生のおかげで乗り切ることができた。


「東。任せたよ」


「はい。それでは部活を始めます」


{お願いします}


部長の美蘭が号令をかけた。


・・・・・。


下校中


「あ!お姉さんだ!」


美蘭に小学生くらいの子供が寄る。美蘭に姉妹はいないので知らない子だ。


「お姉さん。助けてくれてありがとう!」


連れ去られていた子供のようだ。


「どういたしまして。怪我とか大丈夫?」


「うん!」


元気な笑顔を見せた。その笑顔に美蘭は安心した。


「あっママ~!このお姉さんが助けてくれたんだよ!」


子供の母親が近づく。


「うちの子を助けていただいてありがとうございました。なんとお礼をしたら」


「いえお礼なんて、私も友達を助けたいって思ったら体が勝手に」


「本当にありがとうございました」


「ありがとうお姉さん」


頭を下げて親子は去っていった。お礼を言われて少し嬉しくなった美蘭は軽やかな足取りで帰った。


・・・・・。


「はあ……」


自宅に帰った美蘭はテーブルの上に突っ伏す。


「お疲れ様でした」


疲れている様子の美蘭にケンヤが飲み物を用意してくれた。


「ありがとうございます」


「どうしました?」


「色んな人からにお礼を言われて。友達とかクラスメイトとか他のクラスの人たちからも、部活の人からも」


「美蘭英雄だな」


「お礼を言われるのは別にそんな嫌なことじゃないだろ?」


「誘拐犯を捕まえたのはケンヤさんたちじゃないですか」


美蘭が起き上がり飲み物を口にする。


「『どうしてわかったの?』『誘拐犯倒したの?』ってみんなに言われて……返答に困りましたよ……」


一日中色々な人から質問攻めに遭った美蘭。返答に困って気が滅入ってしまった。


「私たちのことは言えませんか?」


「秘境界の人間に他世界から来たなんて信じられないと思うけどな」


「僕たちの存在がバレるのはだめ」


「じゃあしんせきの人が協力してくれた。なんか俺たちのこと、そう友達に伝えたんだろ?」


「それなら誤魔化せるかもしれない。明日から聞かれたらそう答えな」


「わかりました」


美蘭はスマートフォンで現在時刻を確認する。


「そろそろ夕食の準備始めますね」


「今日はマザンにも手伝ってもらいますよ」


「は~?なんで僕も……」


「いつも美蘭さんは私たちにとても美味しい料理を作ってくれるのですよ。料理だって簡単に作れるものではないんです。お礼として少しでも力になろうとは思わないんですか?」


少しの沈黙の後マザンがため息をついた。


「わったよ」


渋々と立ち上がった。その言葉にケンヤは満足そうに微笑んだ。


「ありがとうございます。マザンさん」


「四人も密集して鬱陶しいとか思わないの?」


「全然思いませんよ。部活でもみんなと作ってますから、むしろ楽しいですよ」


「あっそう」


美蘭は三人に手伝ってもらいながら夕食の準備を進めていった。


・・・・・。


夕食には美蘭の家族とケンヤたちの六人分の料理が食卓に並んだ。とても華やかな見映えから美蘭の料理の腕の高さが窺える。


「「「「「「いただきます」」」」」」


手を合わせてから美蘭の料理に手をつける。


「うん。今日も美味しいよ」


「ありがとうお父さん」


一度口に運ぶと次から次へと箸が動く。


「どうですか?自分が手伝った料理を食べるのは」


ケンヤがマザンに聞く。


「なんも変わんない」


マザンの冷たい反応にケンヤは嘆息をもらした。


「また上手くなったわね」


「いつも部活でやってるから」


美蘭の料理の腕前は両親の自慢でもあった。


「そういえば、誘拐事件解決したんだってね」


美蘭の父親が話題を作る。


「拐われた人たちが戻ってきて本当に良かったわ」


「事件の間、美蘭を守ってくれてありがとう」


「少しでもお力になれて良かったですよ」


代表してケンヤが言葉を返した。


「本当にいい人たちだね。いっその事僕の息子にならないかい?」


「お父さん、冗談はやめて」


父親の冗談にみんなが賑やかに笑った。


(こんなに楽しいの、いつ以来だろう……)


家族と上手くいっていないわけではない、学校がつまらないわけでもない、それでもこの数日はとても楽しかった。

全て彼らがいたおかげだ。


「では、私たちはそろそろ帰りますか」


(えっ……!?)


「誘拐事件は解決したし、もう残る理由はないな。さすがにこれ以上迷惑はかけられないし」


「そうだな」


「………」


「いつ帰るの?」


「もう明日の朝にでも」


「そんなに早く?」


「もう少しゆっくりしてもいいんだよ」


「居候の分際で長居できませんよ」


「そっか」


「短い間でしたけど、お世話になりました」


ケンヤ、キザミ、マザンが同時に頭を下げた。


「こちらこそありがとう」


「気が向いたらいつでも遊びに来ていいからね」


「ありがとうございます」


「待ってください!!」


ケンヤたちと両親の会話に黙っていた美蘭が大きな声で割って入る。


「美蘭さん?」


「お母さん……お父さん……」


決断した美蘭は言い放った。


「私…ケンヤさんたちと行きたい!!」


「「「「「・・・え?」」」」」

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