第十一話

「こんなもんだな」


「ああ」


少し広めの空間に複数の男がいた。各々が立ったり座ったりして待機している。


「まったく予想外だ。秘境界の中にわーるどの連中がいるとは」


「問題ないでしょ。たった二人だしそこまで強いわけじゃない。ここも簡単に見つかることはない。仮に侵入されても頭首に敵うはずがない」


彼らがいる部屋の奥には無数の袋がある。中には秘境界の人々が入れられている。中でもがいているのか動いているものもある。


「あれだけあれば十分だろう」


「足りなくなったらまた補充すればいいだけだしな。秘境界の人間は襲いやすいから楽だ」


「もう時期迎えが来る。それまでゆっくりしよう」


「ああ」


その時、


「そこまでです!」


正義のヒーローよろしく声とともに部屋の入り口にケンヤとマザン、キザミが現れた。


「あいつら……!」


「邪魔してきたやつらか?」


「女と男はそうです。しかしもう一人は……」


「まだ仲間がいたのか」


予期せぬ侵入者に誘拐犯たちは騒然とする。


「連れ去った秘境界の人たちを解放してもらいます!」


ケンヤは強気な表情で言い放つ。


「お前たちがどうやって秘境界にきたのかは知らないが、お前らごときになにができる」


誘拐犯たちはケンヤたちをただの一般人と思っている。 マザンが一息吐いてから口を開く。


「次元管理者だ」


「!?」


その言葉を聞いた誘拐犯たちが驚く。


「管轄外世界への侵略、略奪、拉致行為を固く禁ずる。極刑もありえる重大な犯罪だ。わかっててやったんだろ」


「次元管理者……」


誘拐犯たちの表情が険しくなる。そのくらい誘拐犯たちにとってマザンの存在はイレギュラーなのだろう。


「にしてもこいつらどうやって秘境界にきたんだ?」


「おそらくはうちの裏切り者だろうね」


「裏切り者?」


「よくあるらしいよ。闇に身を売る輩が」


「安全を守る団体なのにか?」


「ガバガバなのは前かららしい」


マザンが誘拐犯たちを見渡す。


「自然にゲートは開かないから次元管理者の協力が必要だった。でしょ?」


図星なのかなにも言えない。


「で、お前たちはどこの世界の人間だ?」


「そんなもの言うと思うか?」


「アラウタージだそうです」


「!?」


見破られたことに驚く。


「アラウタージ?」


「かなり問題のある世界。前々から危険視してたところだな。それで?裏切り者の次元管理者はいつ迎えにくる」


「教えるかよ」


「六十分後ですね」


「!?」


再び見破られて同様を隠せない。


「一時間後か」


「なんだあの女……どこから情報が漏れた……?」


「情報提供ありがとう。にしても素直だね。投降する?まあ許されないけど」


「投降なんてする必要ない」


誘拐犯全員が前に出る。


「お前らはここで死ぬ。八人に勝てると思ってるのか?」


八人全員が謎の光に包まれた。一見外見はまったく変わっていない。それを見たケンヤたち三人も同じ謎の光に包まれる。やはり外見は変わってない。

誘拐犯全員は腰に携えた鞘から剣を引き抜いた。相手はやる気の表情だ。


「………」


ケンヤは戦闘に不安があるのか体が震えている。キザミは厳しい目つきで腹を決める。一方のマザンは涼しい表情をしている。


「三対八……私たちの方が圧倒的に不利ですよ……」


「大丈夫大丈夫。どうせ大したことないやつらだから」


「相変わらずだな」


相手に聞こえるほどの大きな声で煽る。


「すぐにお前たちを倒して、まとめて連れ去ってやる」


八人全員が一斉にケンヤたちに襲いかかる。


「いくぞ」


「ああ」「はい!」


ケンヤたちも戦闘態勢に入った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

強い風の中、美蘭は誘拐犯のアジトがあると思われる公園にやってきた。


(深夜の公園……初めてだな……)


真面目な美蘭は夜遊びをしたことがない。深夜外出するのも初めてだ。


(確か……遊具の裏だったよね……)


最近まで訪れることのなかった公園。幼い頃の記憶を頼りに公園内を捜索する。


「!」


すると、人目につかない遊具の裏に人が掘ったような穴を発見した。


(ここだ……)


スマートフォンのライトを使って穴を照らす。人一人が入れそうな大きさに梯子がかけられていた。この先に誘拐犯がいるのだろう。下りようと思ったが美蘭が足を止める。


(戦ってたりするのかな……)


もちろん美蘭は戦う武器など持ってない。最悪殺される可能性もある。


(みんなを……明乃を助けなきゃ……!)


覚悟を決めて美蘭は梯子を下りた。ゆっくり慎重に下りて、誘拐犯の拠点に侵入する。


「………」


すぐに物音が聞こえる。金属同士がぶつかり合う音や銃声音が。


(やっぱり戦ってる……)


美蘭の正面と左側に通路がある。物音は左側から聞こえる。まずは左側の通路を進む。奥まで進むと大きな部屋があった。美蘭は部屋の向こうにいる人たちにバレないようにそっと覗く。


「!!」


美蘭の想像通り、部屋の中で四人の誘拐犯と思われる人たちとケンヤたちが戦っていた。誘拐犯たちは全員剣を所持していて、ケンヤは前に見た時と同じように拳銃を、キザミも刃の短い剣を、マザンも剣のようなものを持っていた。


「………」


まるで映画かゲームの中の光景のように戦っていた。現実離れした光景に声が出ない。怖くなった美蘭は後ずさる。


(誘拐犯たちはケンヤさんたちと戦っている……今なら大丈夫……)


深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


(誘拐されたみんなはどこだろう……)


入口まで戻ってもう一方の通路に向う。少し進むと小部屋にたどり着く。誰もいないと思い込んだ美蘭は迷わず進んでいく。部屋に入った瞬間、


「キャッ!?」


何者かに体を蹴られて部屋の隅まで飛ばされてしまい、勢いよく壁にぶつかる。部屋の死角にいて存在に気づかなかった。


「うぅ……」


「侵入者か。丸腰でくるとはいい度胸をしている」


正体は男だった。誘拐犯の一人だろう。


(気づかなかった……)


体が痛んで立ち上がることができない。その間にも男は腰に携えた鞘から剣を引き抜く。


「!」


目の前で本物の剣を見て体がすくんでしまう。


「戦わないのか?お前は秘境界の人間か?」


「………」


恐怖で声を出すこともできない。男に接近されて追い込まれる。もう逃げ場はない。


「大人しくしろよ」


(助けて……!)


ぎゅっと固く目を閉じる。その時、


「んごっ!?」


男が誰かの攻撃を受け倒れる。


「んがっ!!」


さらに部屋の反対の隅まで飛ばされる。美蘭がゆっくりと目を開ける。


「マザンさん……」


助けにきたのはマザンだった。


「なんでいるんだ美蘭。来るなって言ったよな」


強く言われてたじたじとなるが、


「私の友達も捕まったんです。ただ無事を祈るだけじゃなくて、私もなにかしたいです!」


美蘭も強く返した。マザンはため息をつき、美蘭の足元になにかを落とす。


「持ってけ」


美蘭が拾い上げたのは短刀だった。


「切れ味いいから肌切るなよ」


「は……はい!」


「多分その奥の部屋だ。行ってこい」


「マザンさん、一人で大丈夫ですか……?」


「お前がいたところでなんかできるのか?」


「………」


美蘭は言葉が出なかった。


「大丈夫、安心しろ。地元じゃ負け知らずだから」


「はい。わかりました」


マザンを信じて美蘭は先を急いだ。


「くそ……」


吹き飛ばされた男が立ち上がる。


「さて、お前が頭領だろ。次元管理者が相手してやるよ。お仲間じゃ相手にならないんだよ」


「厄介者がいたか。すぐに捻り潰してやる……」


マザンはにやりと笑ってから右手に剣と思わしきものを出現させた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

美蘭はさらに奥へと進む。すると別の部屋にたどり着いた。他の部屋と比べ少し広いその部屋には、大量の袋があった。


(みんな……この中に……)


拐われた人々は全員袋詰めにされたようだ。その中でも勝手に動いてる袋を見つける。脱出しようと内側から動いていた。 美蘭はすぐさま近づいて袋の結び目を解く。中にいたのは一人の青年だった。


「相庭君……?」


美蘭のクラスメイトの青年だ。口を布で覆われて話すことができない。すぐにその布も取り除く。


「東……なんでここに……」


「待っててね。すぐに助けるから」


美蘭はマザンから借りた短刀で手足を縛っている縄を切る。


「大丈夫?」


「ありがとう、東」


「他にもたくさんいる。お願い協力して」


「ああ、もちろん」


美蘭と相庭は残りの袋に入れられた人々を救出していく。


「東、誘拐犯は?」


「今はいない。今のうちだよ」


・・・・・。


すでに戦いは終わっていた。誘拐犯全員が倒されて動かずにいた。戦った後のはずなのに、誘拐犯たちの体には戦った傷跡が一切なく血も流れていなかった。


「終わったな」


「なんとか勝てましたね」


一方のケンヤとキザミは無事だった。ケンヤに目立った傷は見えないが、キザミの体には数カ所切り傷が存在した。ケンヤとキザミは謎の光に包まれる。

あまり外見は変わってないが、キザミの体にあったはずの傷がなくなっていた。


「お疲れ様です」


「お疲れ。久々の戦闘だったけどどうだった?」


「やっぱり怖いですね……キザミがいてくれて助かりましたよ」


「ケンヤも拳銃の腕上がったと思うよ」


「ありがとうございます。さて、マザンは大丈夫でしょうか……」


その時、突如黒い穴が出現する。中から誘拐犯のリーダーが出てきた。しかし気絶しているのかまったく動かない。さらに中からマザンが出てきた。


「お、終わってる」


「無駄な心配だったな」


「さすがですね」


黒い穴から出てきたマザンが倒された誘拐犯を眺める。


「僕がいなくても問題なかったじゃん」


「そんなことないですよ……途中でマザンが抜けるなんて言って不安でしたよ……」


「どいつもこいつもパッとしないやつらだったから、どっかに仕切ってる頭領がいると思ったけど当たりだったね」


「人数的には不利だったけど、ケンヤの援護のおかげで戦いやすかったよ」


「ありがとうございます」


ケンヤが嬉しそうに微笑んだ。マザンも薄く笑みを浮かべた。


「マザンはどうだった?」


「つまんねーよあんなの」


「そう言えるのがすごいですね……」


なにやら物足りない感じのようだった。


「全員倒しましたし、後は秘境界の人たちを助けるだけですね」


「それなら今美蘭がやってるよ」


ケンヤとキザミが目を見開いて驚く。


「どうして美蘭さんが!?」


「後で当人に聞いてくれ。まあそっちの方が僕たちの存在バレないし都合がいいかもな」


「美蘭一人で大丈夫か?」


「大丈夫だよ。とりあえず僕たちは待機だ」


「わかりました」


救出を美蘭に任せてケンヤたちは体を休めることにした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

美蘭は救出した人たちと地下から脱出しようとしていた。美蘭のクラスメイトの相庭がみんなを仕切る。


「今なら大丈夫だ。静かにな」


みんなが彼について行く。美蘭が先程襲われかけた部屋に来る。


「みんな慎重にな」


列を作ってゆっくりと移動する。美蘭が来た通路を道なりに進む。入口まで戻ってきて外へ出るための梯子を発見した。


「出口だ…」


「よし。俺が先に行く。もしかしたら待ち構えてる可能性もあるからな」


相庭が慎重に梯子を上る。ここで見つかったら全てが水の泡だ。皆が見つからないことを祈る。


「大丈夫だ。みんな急いで」


年齢の低い小学校低学年の子供から梯子を上っていく。


「明乃」


美蘭は捕まっていた明乃に話しかける。彼女もまた美蘭に助けられた。


「先に逃げて」


「え!?美蘭は?」


「私はまだやらないといけないことがあるから」


「でも……ここにいたらまた誘拐犯に……」


「大丈夫。その前に私も逃げるから」


「でも……」


「大丈夫」


明乃の手を取り強い眼差しを向ける。


「無事に、戻ってきてね……」


「うん。学校で会おうね」


明乃は梯子を上って逃げた。全員が逃げたことを確認して、美蘭は隣りの通路を進んで部屋に入った。


「みなさん」


その部屋にはケンヤたちが残っていた。


「美蘭さん!」


ケンヤがすぐに駆け寄る。


「どうしてここにきたんですか!?じっとしてと言ったはずですよ!」


「私の友達も連れ去られて、いてもたってもいられなくなって」


「だからって無茶しちゃだめじゃないですか」


「ごめんなさい」


「でも、無事で良かったです」


ケンヤはホッと胸を撫で下ろした。


「どんな理由であれ、危険な目に関わるのは良くないぞ。マザンがいなかったら危なかったんだろ」


「すみません……」


キザミに咎められ美蘭が気落ちする。


「マザンさん」


美蘭がマザンに近づく。


「これ、ありがとうございました」


マザンに短刀を返した。


「切ってない?」


「大丈夫です」


「この剣呪われてるから」


「ひゃっ!」


驚いて美蘭が一歩後ろへ下がる。


「先に言ってくださいよ!」


「言ったら使わないでしょ」


「そんな危険なものを渡さないでくださいよ!」


穢れたものを払うように美蘭が自分の手を撫でる。


「マザンそんなもの渡したのかよ……」


「これしかなかったし、美蘭なら大丈夫と思ったから」


笑いながらマザンは短刀を消滅させた。

美蘭は倒れた誘拐犯たちを見る。血が出ているわけではないが、さっきからまったく動かない。


(もしかして……死んじゃったのかな……)


「大丈夫です。死んでいませんよ。気を失っているだけです」


美蘭の心情を察したのかケンヤが先に答えた。それを聞いた美蘭は安心する。


「この人たちはどうするんですか?」


「仲間呼んで連れ戻す。後は僕がやるから先戻っていいよ。みんなお疲れ様」


「わかりました」


「マザンさん。ありがとうございました」


美蘭がマザンにお辞儀してから三人は地下拠点から出た。まだ空は暗かった。


「急いで帰りましょう」


「お母さんに心配かけてないといいけど……」


「親に黙ってきたのか?」


「言ったら引き止められますよ」


「そりゃそうか」


三人は帰路に着く。


「ケンヤさん、キザミさん。本当にありがとうございました。ケンヤさんたちがいなかったら……私含めてどうなっていたか……」


「まあついて行こうって言ったのはマザンだし、引き止めたのは美蘭だからな」


「それに、友達が困っていたら助けるのは当然ですよ」


「本当に……助けてくれたのがケンヤさんで良かったです……」


美蘭の目に涙が浮かぶ。


「私たちは当然のことをしただけですよ」


「お~ケンヤかっこいい~見た目もかっこよかったら良かったのに」


「どうゆう意味ですか……」


疲れてるはずだが、三人は楽しそうに話しながら家に向かった。

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