第十話(後編)

夕方

ケンヤとキザミ、マザンが帰宅して四人が集まった。両親が帰ってくる前に報告と会議を始める。


「やつらの拠点が見つかったよ」


「どこですか?」


「どっかの公園」


「雑!」


「仕方ないだろ。秘境界の文字で名前が読めなかったんだから」


「どこら辺かこの地図でわかりませんか?」


ケンヤが地図を見せる。美蘭が書いた手書きの地図をずっと使っていた。


「ここだったかな。なんかデカい建物の近く」


「〇○○南公園ですか?」


「知ってるのか?」


「私の高校のすぐ近くですからね」


学校が終わった子どもたちが多く訪れる広めの公園。幼い頃よく行っていた美蘭も高校生になった今はまったく行かなくなった。


「その公園のどこ?」


「人目につかない遊具の裏。そこに人が入れるくらいの穴があった。その穴の中、地下にある」


「地下か」


「ずっとどっかの建物内かと思ってたよ。見つからないわけだ」


「どうやって見つけたんですか?囮作戦を使ったんですか?」


「さあね」


マザンはとぼけて教えてくれなかった。ケンヤが両目でマザンを見つめる。それに気づいたマザンもケンヤをじっと見る。


「………」


しばらく見つめ合った後、二人は同時に顔を逸らした。


「ケンヤとキザミはどうだったんだ?見回りしてたんだろ」


「そうですけど、成果はありませんでした」


「町が広いからな。知らない間に襲われた可能性がある」


「そうか。今日で相当数が襲われたと見ていいな」


「これからどうしますか?」


しばらくマザンが考える素振りをする。沈黙が続いた後口を開く。


「今夜行こう。誘拐犯がいつ逃げるかわからないから逃げられる前に手を打たないと。相手も僕たちに見つかって長居はできないと思う」


「なるほど」


「幸い地下だから目立たないだろ。夕飯食べて少ししたら行こう」


「わかりました」「わかった」


「あの……!」


三人の会話を聞いていた美蘭が入ってくる。


「私も行っていいですか?」


「やめとけ」


美蘭の申し出をあっさりと断る。


「僕たちがこれからやることはめちゃくちゃ危険だ。秘境界の人間を連れてくことはできない」


「でも……」


「役立たずがきても迷惑なんだよ」


強く言われて美蘭が怯む。


「………」


「マザンそんな言い方……」


「わかってる。でもガチで危険だろ」


「美蘭さん。私たちに任せてください。必ずみなさんを助けますから。美蘭さんはじっとしててください」


「はい……」


美蘭は素直に引き下がった。


「じゃあ夕飯できるまで僕は外で運動してるよ」


そう言うとマザンは外へ出ていった。


「今日も手伝わないつもりですか……」


ケンヤは呆れてため息をついた。


「それじゃあケンヤさんたち頑張れるよう美味しいものを作りますね」


「私も手伝いますよ」


「俺も手伝わないとな」


「ありがとうございます」


ケンヤとキザミの手を借りつつ美蘭は夕食の支度を始めた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「気をつけてくださいね」


誘拐事件解決に行く三人を美蘭は見送る。


「安心しろ。今日で終わらせるから」


「どうか……ご無事で……」


「大丈夫だよ。ありがとう」


「じゃあ行ってくるから」


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


三人は玄関を開けて誘拐犯の拠点へ向かった。


「………」


三人が行った後も美蘭はしばらく立ち尽くしていた。


「美蘭なにしてるの?」


リビングから美蘭の母親が顔を覗かせる。


「ケンヤ君たちは?」


「夜の散歩に行ったよ」


「散歩?大丈夫?誘拐事件が多いのに」


「ケンヤさんたちなら大丈夫だよ」


「ならいいんだけど」


そう言って母親はリビングに戻った。美蘭も自分の部屋に戻る。寝間着に着替えて寝る準備を終える。しかしケンヤたちのことが心配で安心して眠ることはできない。


「………」


(やっぱり……戦ったりするのかな……)


ケンヤも、おそらくキザミとマザンも、戦うための武器を持っている。誘拐犯との戦闘になるかもしれない。 自分も行くとは言ったが、戦う力を持ってない美蘭はマザンの言う通り足手まといになる。


(無事に……帰ってきてください……)


手を組んで祈った。


「?」


その時美蘭の携帯電話が鳴った。すぐに携帯電話を手に取る。


「瑞香?」


秘境界の無料通話アプリで友達から電話がかかってきた。


「どうしたの?」


「美蘭!良かった……」


電話の向こうで瑞香が安堵する。


「なにかあったの?」


「明乃が……家に帰ってないって……」


「えっ!?それってもしかして……」


「多分……いや絶対……誘拐された……」


「………」


他人事とは思っていなかったが、まさか友達が被害に遭うとは思わなかった。


「まだ警察も手がかりが見つかってないし……警察も襲われてるし……どうしよう……このまま……もう……会えなかったら……]


瑞香はもう泣きそうな声だった。


「大丈夫!すぐ見つかるよ!」


「え……?」


美蘭が友達を励ます。


「根拠は、なにもないけど……大丈夫。明日には帰ってくるよ」


根拠はある。きっとケンヤたちが救出してくれる。しかし言っても信じてもらえないのでケンヤたちの存在を伏せる。


「大丈夫。明乃は無事だよ」


「うん……」


なんの根拠もない発言だが、美蘭と話すことで気が楽になったようだ。


「とりあえず寝よ」


[そうだね……ありがとう美蘭。おやすみ]


「うん。おやすみ」


そう言ってから通話を切った。


「………」


(やっぱり……私も行こう!)


友達が拐われた。もう他人事ではない。足手まといになる覚悟で行くことを決断する。 美蘭は寝間着からルスリドでもらった服に着替えて、両親にバレないように家を飛び出した。

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