転生恋愛カウントダウン

「……どういう事だ?」

 それは話が変わってくる。だって、これまでの全ては呪いの成就の為に行われてきた事だ。そして犯人は三嶺姉弟。血の繋がりと、双子である事を利用したトリックとも呼べないような手口。その全てはここ呪いの為に行われた行動だった筈だ。

 共犯だとして、その二人がそれぞれ独立した人間だったなら分かる。利害関係は一致していたが目的は違っていたのだ。だが水季君に一致しない目的なんかあるのか? 仮にあったとしても姉弟だ。彼女にはすぐに察しがついただろうから裏で何かをするのも難しい。

 神様と契約したから心が読めるとかそういう事は言わないけど、でも二人に食い違うような事がなかったからここまで円滑に進んだのではないか。

「逃げてもいいですけど、梯子なんてないんで飛び降りるしかないっすよ」

「飛び降りてもいいのかよ」

「まあ死ぬんでね。それとも新宮先輩は自分の身体が丈夫だと思ってます? じゃあ飛び降りるより刺された方がいいって思います」

「隼人君! この穴の深さは!?」

『俺に聞くなよ! ただなあ、一つだけ言うなら彼の言う事は正しいぞ! 落ちたらタダじゃ済まない! 漫画みたいに奇跡的に助かるとか思うなよ!』

 じゃあ選択肢は一つ。戦ってこの場を退ける。

 揺葉にもそれは伝わったらしいが、問題はどうするかだ。ここに来たのは水季君一人で姉の方はまだ外にいる。姉と思惑が違うなら追い込み漁よろしく入口を塞いでいるという事はないだろうが、外に出ればリスクがある。お面を被る事による呼吸、そして遭遇してしまった時の対処だ。

 位置がばれなくても目の前にいたら関係ない。追われたら何処へ逃げる。ここは山の中だ。外へ出れば見通しのいい道路。水都姫から逃げられても神様から逃げられるかは全くの未知数。あまりにも分の悪い賭け。

「水季君。お姉さんと思惑が違うなら取引とか」

「いやあ、死んでほしいって言ってる奴に持ちかけないでくださいよ。でも新宮先輩が死んでくれるならそこの人は別に殺さなくてもいいかな」

「は!? アンタって馬鹿なの? 好きな人殺されて黙ってろって? 死ねば? 私がそんな事する訳ないでしょ!」

「揺葉! そういう刺激するようなのは交渉じゃ」

「交渉の余地なんてないわよこんな奴! 好きな人に好きって伝える事が簡単だと思ってんの!? 好きな人を目の前で殺されるくらいならこの場で死んでもいい!」

「へー。じゃあこれでもですかね?」

 水季君が距離を詰めて匕首を揺葉の首元へ。先端恐怖症ではないが、刃物を怖がるのは人として当然の事だ。刃物で肌を切れば痛いし、死ぬかもしれない。子供から大人にかけて人はそれを何処かで学び、恐怖するようになる。

 それは高い所から下を見たら脚がすくむように、脳のシミュレートだ。想像が先に死んでくれるから、人は恐怖出来る。



「近づきすぎだよばーか!」



 しかし何事にも例外はある。彼が知る由はないが、揺葉は引っ越した後、オカルトに傾倒せざるを得ないような酷い事件に巻き込まれた。

 揺葉に刃物への恐怖はなかったのだ。

「うっ!」

「ざけんなヘタレ! 私は一回死にかけてんだよ!」

 金的を蹴り上げられ、身体を浮かしながら悶絶する水季君。揺葉はすかさず匕首を取り上げると俺に向かって投げ渡し、今にも崩れ落ちそうな彼の背中を蹴って穴の中に押し込んだ。




「うわああああああああああああああああああああああああああああ!」




「そんなに落としたいなら一人で落ちろや!」

「揺葉! 何もそこまで……」

「拘束道具がないからこれが正解!」

 なんの躊躇もなく、落とされた彼の断末魔は長く続いたが、それは不自然に途切れて、聞こえなくなった。

「ほら、これなら逃げなくてもいいでしょ?」

「お前……」

「あのね! 私達は隼人君殺した奴を殺すんでしょ! これくらい何!」




『ちょっと待て。お前達、そんな理由で殺そうとしてたのか?』


















 この呪いを終わらせて平和を取り戻す方法は後回し。どのみち水鏡と合流しなければ素人の自分達に勝ち目はないとのこと。

 水季君が落下した際に仮面が外れていた場合向こう側に座標のおかしな死体が認識されてその結果バレる可能性があるとの事で、動くに動けない。こちらから出て行った場合のリスクは話した通りだ。

 だからそれまで俺達親友の、精神的な問題を解決させた方がいい。そう言い出したのは殺された隼人であり、死人に勝る被害者はいない。俺達に逆らえる道理はなかった。

『死人に口なし。誰か死んでるならそいつが望んでるっていう体で好き放題するのは結構だ。だけど俺は話せる。そんな事はやめろ』

「……でも俺は、お前を殺した奴を……それは揺葉だったけど、そういう状況を作ったのは水都姫だ! アイツを殺さなきゃ、俺は……」

「今は圧倒的に正しいんだけど、そもそも私に頼み込んでまで殺させた奴の言葉じゃないわね。何様のつもり?」

 携帯の奥で隼人が押し黙る。

「これは二人で決めた事なの。アンタが口出すのはお門違い」

『……まあ、そう言うなよ。誰が悪いかって元を辿れば俺だ。さっさとフラれちまえば良かったのに変なプライドが邪魔した。硝次に忘れてもらおうなんてせこい手段に頼ってまで、お前を振り向かせたかった。呪いの効果は俺自身が実証してたからな、迷わなかったよ』

「そうだ。呪いを上書きっていうの。あれはどういう事なんだ?」

 状況が状況だったのでうまく呑み込む時間がなかった。聞かぬは一時の恥とも言うし、知ったかぶりはよくない事だ。特に命がかかっている状態では。

『何って、言葉のままだ。揺葉の呪いで俺を愛してた女子は俺に振り向いてもらおうと呪いを用意した。本来アイツらはそれを土台にする形で実行するつもりだったんだろう』

「だけど私の存在がそれをおかしくした。私が女子のを使ったから、あの二人には女子が用意した分は見つけられなかったってこと。当然よね、引っ越した後に戻ってきて名前が違うんだもの。隼人君にも接触しないようにしてたから、アンタらの周辺に意識が行ってたら私の事なんか目に入らない」

「……で、俺をモテモテにする呪いを土台に俺の事を好きな奴は死ねなんて呪いが始まったのか」

 成程、事情は分かった。確かにこれは隼人が悪い。庇いたくても実害が大きくなり過ぎた。仕方のない事情があるならまだしも、揺葉の事を異性としては忘れてもらいたかったなんてみみっちい事情は……

『俺は馬鹿だよ。親友に迷惑をかけることになっちまった。気づいた時にはもう手遅れだ。手は尽くしたが知識なんぞ毛が生えた程度。どうにもならなかった。もし俺が逆の立場なら同じように復讐したと思うが、じゃあお前ら、俺の立場になって考えてみろ」












『復讐は! 殺された本人がやる方が一番いいに決まってんだろ! 殺すなら俺にやらせろ!』


 

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