やがてみんないなくなる
「クソクソクソクソクソ! 何でこんな事になるんだよ! ふざけんなって!」
こんなに推理が外れていて欲しいと願った日はない。俺の気づきなどありもしないでたらめで、三嶺姉弟は単純に良い人だったという事であってくれ。ああでも、世の中はそう単純じゃない。呪いの影響を受けなかった時点であの二人が何かしたのは確実だ。まともに会話が出来たその時点で怪しむべきである事に変わりはない。
では錫花も先生も怪しむべきなのかという話だが、先生は過去に『ヤミウラナイ』で加害者として振舞った過去があり、錫花は水鏡という家の出身でこの手の話に詳しい専門家だと判明している
もう隠れるなんてせこい事は言わない。見つかっても良い。というかその方が都合が良い。水都姫が女子の統率を取っているなら、それを確認する方法は一つだ。あの家に大挙させて反応をみればいい。それでハッキリする。その後の退路とかどうでもいい。重要ではない。
「冬癒は関係ないだろ! 巻き込んだらお前、許さないからな! お前を! 絶対! 殺してやる!」
「センパイ!」
「うるさい! アイツは本当に関係ないのに巻き込む奴が悪いだろ! いつ妹が俺を助けようとした? いつ首を突っ込んだ? 友達の様子がおかしくなって怖がるような奴に何をしても許す訳ないだろ! っざけんな! 何がしたくてそんな事するんだよ!」
大きな声を出して女子をおびき寄せる作戦。もうこの際男子でもいい。生き残っているかは不明だが、誰か俺と一緒に突撃してくれ。
「何でこんな簡単な事に気づけなかったんだ俺は! アイツ等がおかしいのなんて最初からそうだっただろ! 何で分からなかった!?」
「その向坂って人から呪いの条件を聞かなきゃ分からなかったでしょ。昔の自分が知らかなかったからって遡って責めるのはどうかと思うよ」
「確かに俺は知らなかったけど! でも変ってのは分かっただろ! 理由もなく普通で居られるなら俺達はもっと早く知り合ってる筈だ! 錫花はお前が差し向けたとして、お前と出会ったのは偶然だったろ! トイレの中でさあ、アイツは腐っても同級生だ。別に水季君が変装しててもいいけど、何の事情もないならもっと早く俺の所にくるべきだろ! それを中途半端に隠れて―――変じゃないか!」
「…………」
事情があるから悪い、無いから善いという単純な話じゃない。事情があっても先生も錫花も夜枝でさえも、俺を助けてくれた。『神話』の中が顕著だと思うが、俺を嵌めようとするならあれは絶好のタイミングだった。実際はむしろ逆で、助けてくれなければ死んでいた所だ。
事情があっても味方だと分かっているから夜枝に対して何もしていない訳で。あの二人はどうだ。確かに水季君は俺を助けてくれたとも言うが、直接的に助けてくれたというよりも隼人の真意を―――
いや、そもそもあのUSBがなければ不自然に気づく事もなかった。彼は何をしたいんだ? 彼だけが独断専行で何かしているという事はあり得ない。姉の代わりに学校へ行っている分身状態だ、水都姫が善良ならこうはならない。
運良く―――この場合は運悪く誰にも見つからないまま、古民家まで戻って来た。
「冬癒! 大丈夫か!?」
声は空しく家中に響き渡り、返す言葉は木霊のみ。件の姉弟も居なければ大切な妹もおらず、ただそこには住む人を失い意味を完了した家だけが残っていた。
「……………………ぎぎぎッ」
歯を噛む。ありったけの力を込めて、現状を非難する。下らない推理が現実になった事がどうしようもなくなる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ……!」
これじゃあ仮に女子を引き連れていたとしても意味がなかったじゃないか。じゃあ俺は運が良かったのか? その運はたまたま偶然冬癒を預けなかったという方向で発揮してほしかった。
「センパイ、気づいた?」
「何をだよ! 見ての通りだろ! アイツ等だ統率してたのは! 俺の考え通りアイツ等は味方じゃなくて……!」
「そうじゃなくて。道中」
「はあ!?」
「誰にも出会わなかったって、おかしくない?」
血が上り切っていた頭が急速に冷え込んでいく。焦っていたからまるでその不自然には気付かなかった。あんなに大通りを走って、最短距離で、叫びながら移動していたのに誰にも見つからない?
車でこの地域に戻ってきた時は直ぐに見つかったのに?
「…………さ、探すぞ! 頭のおかしい奴一人くらいは見つかるはずだ!」
誰も居なくなったから何か事件がすぐ起きるという訳ではないが、教室で見たあのメモが正しいなら、男も女も神様の……『オタケビ姫』の餌になる。そして最初は居た筈の女子をこの短時間で見かけなくなったならまた誰かが統率を取ったという事だ。
もう分かっただろう。この呪いは神を介した呪いであり、誰かが神と契約する必要がある。
『オタケビ姫』に接触した犯人は、三嶺水都姫だ。
水季君の可能性もあるが、俺以外の男を冷遇する呪いの性質から彼が関わった可能性が低い。何よりあの向坂さんが『俺は行けない』というくらいだから、男である限り『オタケビ姫』とまともに会話出来るかは怪しい所。それに向坂さんの予想とあのメモを合わせると、全員が食べられた時、呪いは完全成就の時を迎える。生き残りを探すのは大切だ。
一人見つけて拘束するだけでも効果がある。
「駄目。見つからない」
「クソ…………俺はここだぞ! 早く貞操奪いに来いよ! その無差別な絨毯爆撃性器テロを俺に見せてみろよおおおお!」
「センパイ落ち着いて。マジで何言ってるか分からないから」
「やられた……クソ、あの時だ! お店で商品を選ばされてる時だよ! きっと水季君は俺達が裏を調べに行く事も込みで時間稼ぎをしてたんだ! 色んな物買ったから結構な時間かかっただろ! あの間に統率を取って移動させるのは十分可能だ!」
俺の家の取り囲んでいた女子もすっかり姿を消してしまって、自由に出入り可能となっている。家に入った所で冬癒も居なければ両親も居ない。いや、両親だったモノならリビングに転がっている。
「…………………………ッ」
特別仲が悪かった訳じゃない。呪いに影響を受けて理解し合えなかっただけだ。それがどうしてこうなる?
冬癒の部屋の私物には一切手をつけられていない。部屋主も居ないので随分前から空っぽだったように見える。問題は俺の部屋だ。
「くっさ…………何だよこの臭い…………!」
「―――たまに臭い人っていますよね! なんか、ケアとかしてないのかな! 自分の臭いだから自分じゃ気づかないっていうだけかもですけど!」
「いいよそんな急に後輩モード入らなくても! だからってこんな……うわ、ベッドにバケツぶちまけたみたいな……無理無理無理」
「血と一緒に絡まってると臭い倍増って感じで吐き気がするの、分かるよ。私も最初はそんな感じの反応だったな」
「もう駄目だこれ! 換気しても無理無理! 早く行こう、次だ次!」
自分の家を穢され、居場所としても認識出来なくなった。帰る場所は何処だろう。外に出ると、急速にある不安がよぎるようになった。
「錫花と先生は!?」
「あの二人は何処行ったんでしたっけ?」
「錫花についていくとしか先生も言ってないから分からん! こんな状況であの二人には何もないってのは考えにくいからどうにか合流しないと…………でも、手がかりがないか…………あ、そうだ夜枝! お前は自分の家族の安否を確認するべきだろ! どうせ誰も居ないなら離れても安全だぞッ」
「私の家ね。行っても無駄だと思うけど、センパイが一緒に来るなら行ってもいいよ」
「…………何だその、変な言い方。気になるな」
「え? だってほら、センパイを看病した時言ったじゃん?」
「ここには私とセンパイの二人きりで。両親も居ないって」
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