ドキっと孕✘✘! 着妊アポカリプス
青く発露し姦しく発情せし子種
「………………さん。や、さん」
「…………君」
「…………」
「…………ん。んん。うーん……」
「錫ちゃんの胸でも吸わせてあげたら目覚めるんじゃないんですか?」
「!」
微睡んだ意識も、デリカシーのない発言の前では一瞬で覚醒する。と言っても、霧に迷い込んだような意識が、段々開けていく程度の速度だが。
三人の女子が俺を覗き込んでいるらしかった。
「………………あれ? おれ」
「馬鹿」
「え」
誰に罵られたか、理解が追い付かない。まさか錫花がそんな語彙を知っていたなんて思わなかったというか。彼女はもっと丁寧な物腰だから。だが事実として、その言葉は彼女から出ていた。
「あんな無謀な真似をするなんて、馬鹿です。一手違えば引きずり込まれてたんですよ。私を生贄にすればそんな心配もなかったのに、どうしてあんな事したんですか?」
「…………」
「―――どうしてって、言われても」
これ、口にしないといけないのだろうか。今から言いたい言葉には普段こそ反対派だが、この瞬間だけは行動を見て察してくれと。
「……お前に、死んでほしくなかったから」
言ってみると、何だか恥ずかしい。何もかも終わったのは状況を見れば分かる。一件落着と済んだからこそ、自分の感情が優先されるようになった。
「あー、なんか変な雰囲気になりそうだから割り込む様だけど、私も助かった事だし、あんまり追及しないであげてよ。丸く収まったならいいじゃないか」
「―――先生。ちょっとだけ若返りました?」
「ん? そんな気はしないけど……まあ、嬉しい事もあったから。もしかするとそれかもね…………はぁ」
心なしか、顔が赤いような。眠っている内に何かあったのだろうが、誰も助け舟を出してくれないのを見るに、女子だけで済ませるべき話題なのか。その一方で夜枝は凄く大人しい。借りてきた猫というより、もうただの置物だ。
「そうだ、『カシマさま』を倒したって事で……いいんだよな、これ。なんか手に、簪握ってるし」
左手に置かれているのは、俺が神話の中で拾った簪だ。何故か壊れているが、ちゃんと俺の手には収まっている。先生かもしくは『カシマさま』に渡した筈だが……返されている理由は?
捨てようという気にはならない。現実的にはゴミかもしれないけれど、これは何だか、『約束』のような気がしたから。
「そうだと思います。これ以上の成果は望めないですね」
「じゃあ周りは元通りか?」
「…………いえ、それならもっと大々的に取り上げられていると思います。ここは本来、鳥居を通った先にある空き地ですね。だから当然ネットも使えるので、情勢を確認したければ直ぐに出来ます。今まで通りなので、新宮さんにかけられた呪いの方は全然ですね」
「…………妹の方は?」
「そちらは問題なく解除されていると思いますけど……その。新宮さんにアプローチを掛けていた人は死んでしまったので」
これを一件落着と呼ぶのは無理があると錫花の視線。でも、彼女達の犠牲をどう防げたかと言われたら疑問が残る。俺達には無理だっただろう。
――――――?
「何だ夜枝。いつになく静かで怖いんだけど。どうした?」
「血の跡を追ってやってきた筈ですよね。死体を引きずって来たとは思うんですけど。その引きずった跡は神話の中にもありました。なら犯人も居ないとおかしいと思うんです」
「あ、そうか。放っておいたらカシマさまを殺されるかもしれないなら邪魔しに来ないと不自然だけど……確かに、居る筈だな」
「あの無法が許されるのは女子だけです。それで……こちらにも血の跡が続いているので、そもそもこの道を舗装したのは私達が追っている犯人に命令させられた女子だと思います。遠隔で新宮さんの妹の友人を操っていたように、顎で使っていたのでしょう。その子が神話の中で『カシマさま』の餌食になれば証拠も残りません。事実、あんなに死体がある中では見分けられないでしょう」
そしてそれは、ある一つの事実を、改めて浮かび上がらせる。
神話を知っているし、利用出来る程度には知識もある。
現状、錫花より詳しい人は居ない。だが当人は犠牲を覚悟で神殺しをなそうとするようなお人好しだ。犯人でないのなら、もう候補が居ない。単純に絞り込む情報がまだないだけだが、俺の周りで起きている事なのにまだその尻尾すら掴めないのはどういう事だ。
「……せっかく、こんなハチャメチャな事してくれた人を見られると思ったのに、残念です」
「用心深い奴だな。実時間も大して経っていないみたいだし、本当に詳しいというか何というか。まあこれ以上ここで話すのもなんだし、一度家に帰るかい?」
時刻は昼。学校はまだ終わっていないが、殆ど崩壊しているに等しい。女子は大勢死んでいるし、男子は死体を凌辱する様な狂人になっているし。これ以上行く意味はあるようなないような、でも通い続けないと、俺は自分が学生である事も忘れそうだ。
そもそもこの呪いが始まったのは俺のクラスからだ。学校に留まる事には意味がある筈。今回だって、遠隔操作でも何でも、始まりは学校。
「…………帰りましょうか。ああ、俺の家じゃなくて、ね。こんな事言うのもあれですけど、全部取るのは無理だし。冬癒の友達が死んでくれたから、冬癒にもう危害は加えられないだろうし。呪いが解除されたならまあ……」
分かっている。これは正当化だ。
呪いが解除されたから普通になっていたかもしれない。だから仮に助ける手段があったならそれが最適解だった。すると見捨てた俺が悪い事になる。なんて、自分勝手な奴。
「自分の家に帰らなくてもいいんですか? 妹さんが心配では?」
「それだけどさ……俺が関わるとそれだけ命の危険に晒されそうだし、近づかない方がいいよ」
立ち上がって、神話の跡地に背中を向ける。花嫁共の夢の跡はただ終わりを告げるように眠り、幻の中に沈んでいく。
ありがとう
声につられて、振り返る。
「 」
「センパイ?」
「何でもない」
さよならは言わない。
俺は。
錫花の家に戻ってから、珍しく団欒のような形で寛いでいる。夜枝も神話の世界に入った以上はそう無関係ではいられないという事で、珍しくついてきた。神殺しも済んで一段落、時間は経っていなくても疲れた。
内二人にはリビングで情報共有などしてもらって、俺は部屋で休んでいる。『カシマさま』を殺した影響か、はたまた神話の世界で契りを交わしたせいか、身体が妙に怠い。
目を閉じればすぐにでも眠れそうだが、錫花が用意してくれたお茶と菓子のセットを摘む事でなんとか起きている。
「……本当に後悔するかもしれませんよ」
「ん?」
「私は、『カシマさま』を通して犯人を呪うつもりでした。私が死ねば一緒に死ぬように計画していたんです。それを貴方は」
「…………そんな事したら、本当に元通りにならないだろ」
「え」
「お前が居ないじゃないか。だから…………後悔はしない。犯人は自力で見つける。誰の犠牲もなくな。あ、これは一人でどうにかするって意味じゃなくて、協力してもらいながらって意味だぞ。俺だけじゃやっぱ、無理だし」
「…………」
錫花が死んだら、立ち直れないと思う。
彼女はこんなにも献身的で、本来関係ない人間だ。それを殺したとなれば先生ではないが、引きずって二度と立ち直れない事は想像に難くない。仮に残念だった事があるとすればせっかく仮面を外していたのに霧のせいで良く見えなかった事だ。
わざわざ見ようという気はないが、見られるなら見てみたいといういじらしい心理。俺以外には誰も分からなくていい。
「新宮さん」
「ん? ―――うおっ」
不意に正座を崩すと、居合のような俊敏さで錫花が俺を押し倒して、身体の上に跨った。白無垢は先生と夜枝が色々見ながらどうにかして外してくれたから重くはないが、代わりにラフなTシャツがその豊満な胸を惜しげもなく突っ張らせて主張している。
「ど、どうした」
「ごめんなさい。嫌だったら突き飛ばしてください。先に言っておきます」
「は? 何を―――」
仮面を少し上にずらして、錫花は俺に唇を重ねた。
「
男性としての興奮は避けられない。こんなに密着して気づかない錫花でもないだろう。太腿で挟まれて、いよいよ身動きが取れなくなる。
「呪いでしょうか。頭が……おかしくなりそうです」
嫌なら突き飛ばせ。
そう言われていたにも拘らずそれが出来ない。息を荒くして頬を染める彼女があんまりにも蠱惑的で、見惚れていた。唇の感触に、心を奪われていた。
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