パイオッハザードC・V
「隼人君が生きてるのはどう考えても私達の中に裏切者が居るよね! 誰、殺したの!」
「私が殺ってれば失敗しなかったのにねー」
「本当に誰って感じ? 隼人君は死んでて良いじゃん」
体育館での宣誓とか関係なしに、かつての教室は面影もなく女子で埋め尽くされている。机同士の距離も近い。それもその筈俺が机に座らされた瞬間、周囲の女子が一斉に近づいてきて囲んだのでそもそも脱出が出来なくなった。HRの鐘は鳴ったが担任の先生は来ず、クラス委員に就任した丹春が事実上教鞭を取った形になる。
高校に進学する理由は更なる進学の為や就職の為と様々だが、こういう状況になると将来に影響が出るのではと思わなくもない。だが現実は非情であり、女子全員の進路が『新宮硝次のお嫁さん』なので問題ないと。
大ありだわ。
因みに死亡しなかった男子達は特別棟の教室に押し込まれ、そこで普通に授業を受けているらしい。俺もそこへ行かせてくれないだろうか。いっそ男女で棟を分けてもらってもいいから―――叶わぬ願いだと知った上で。
女性恐怖症でも集合体恐怖症でもないが、座ってるだけなのに身体中をべたべた触られるのは流石に気持ち悪い。しかも全員ブラウスを身体の半分くらいまで開放しているので下着や谷間が見えるの何の。BカップだったりAカップだったり、女体ワクチンが無かったら危なかった。
大きくても小さくてもエロスはエロスだから、実感として味わった錫花の身体が無ければたとえ無意識でも反応していただろう。かといって下を見ると今度はスカートをたくし上げてくるのでシンプルに目のやりどころに困る。最悪だ。
これが夢の中で見る光景とかなら、まだ茶化す事もできるし素直にラッキーと受け取って楽しんでも良かったのに、現実だと悲しい。こんな辛い状況があるか。
「結局誰が殺したんだよ隼人! 教えろ! そいつとは交際出来ない! 何があってもぜえええったいに付き合わないからな!」
「んー。私等も教えたいんだけどねー。それが分からないんだよねー」
「はあ!?」
意味が分からない。撮影したのは彼女達以外に居ないと思うが。
「隼人君を殺す直前にさあ、誰かが言ったんだよね。私等撮影してる男子が居るって。それはさ、盗撮じゃん。変態は懲らしめないといけないから慌ててそいつが居るって方向に全員で向かったんだけどお。隼人君動け無さそうだったしね」
「だから誰が言ったんだよ!」
「硝次君。ごめんね。私達も分からないの。あ、硝次君が好きなのははっきりしてるけどね♡ 全員に聞いて回ったんだけど、知らないらしいし」
「つまり誰かが嘘をついてるって事ねー。ほんと、最悪。硝次君の為に隼人殺してたのに」
「は!?」
今までも不満しかなかったが、早瀬の言い分は起爆剤その物で、爆発させるには過剰な発言だ。胸倉を掴む勢いで体を近づけようとしたら胸の方を掴まされそうになったので慌てて身を引いて、睨む。
「俺がいつそんな事言ったんだよ! 誰がアイツを、親友を殺してほしいなんて頼んだ! しかもお前達なんかに!」
「頼んではないけど、恋人ってやっぱり以心伝心だからさー。あんまり気にしないでいいよ! みーんな分かってるし、特に私は一番分かってるから!」
「言ってないそんな事! 一言も! 一文字も! 人生の中で一秒たりとも願った事なんてない!」
「アンタ、適当な事言うもんじゃないわよ。硝次君は実はずっと隼人に虐められてて……」
「そんな事されてないってばあ!」
知らない知らないそんな記憶は存在しない。会話は成立するのに話が通じないとは不思議な事だ。彼女達よりも俺の方がずっとアイツを理解しているのに、何故だこの『お前は知らないだろうけど』と疎外する雰囲気は。
「あ、もしかして隼人君とずっと一緒に居たのってそういう事!? ごめん、そこまでは気付かなかったな……」
「勝手に話を進めるな。俺は楽しいから一緒に居ただけであって……」
「考えれば考えるほど一致していく……辻褄が合う不思議!」
「こりゃ……もうちょっと早く気づいておくべきだったわ」
何故こいつらの中では隼人が悪者として仕立て上げられているのだろう。アイツは聖人と言っても差し支えない奴だ。友達の為なら命さえも懸けられる。実際懸けた。懸けてしまった。あんなに気の良い奴はもう世界中探したって見つからないだろう。それくらい少なくとも俺は、央瀬隼人を評価している。考えると不思議過ぎたモテ具合だってあのイケメンを見たら何とも思わなかった。
陰謀論みたいな概念はこういう理屈で成り立っているのだろうと思えてならない。辻褄が合うのではなく合わせている。地球が生まれて何億年か知らないが、この世界に一度起きて以降二度と起きなかった現象は存在しない。あったとしてもそれは地球外の話であって、生命の循環は繰り返すが故に同じ現象を引き起こす。だからどんな現象であっても、その気になれば辻褄を合わせられる。
例えば、天倉鳳鳳という作家がいる。彼は人気作家で、しかも若いらしい。それを才能以外の理由で説明づけるとすると、鳳の字は鳳凰……鳳凰の卵は不老不死の霊薬とも言われている。また、鳳凰の鳳を二回連続で繰り返しているのも不自然と言えば不自然だ。そこに理由をつけるなら、『ほうおう』の読みの中で『ほう』を繰り返している……つまり彼は、作家として成功するまで人生を繰り返し成功させているのだ。鳳とはそれを示した言葉であり、自分が不老不死に至った事を誰かに気づいてもらいたくて彼は今も活動をしている……
と。そんな訳はないのだが。
ほら、多少強引でもこじつけられる。これで信じる人間が一人でも居たら成立する。女子共が言ってるのはそういうこじつけすらない、ただの妄想なのだが、これもやはり信じている奴が大量にいる為成立している。
「そう言えばおかしかったよね。丹春が警察に連れていかれた時。あれって確か、隼人君が包丁を突き立てて硝次君を脅してて―――」
「あ、そう言えば私も脅されたわ! 硝次君に近づくなって女子トイレの中で!」
「私もやられた! 怖くて声が出なかった……」
多くの人間による共有された記憶の錯誤。これは何だ? デタラメなのは火を見るよりも明らかだ。もしそうなら丹春が警察に連れていかれた理由はどうなる。国家機関はこっちの味方だと? ならどうして隼人は死んだ?
俺を馬鹿にしてるのかとも言い切れない。女子達は中身こそスカスカだが間違いなく俺の事が好きだ。じゃないとここまでやらないし、力ずくという手段が取れるなら嘘を吐く意味もない。ならばこの嘘は? 本当? 間違ってるのは俺の記憶?
あんなに先走っていた感情が更に燻りを見せている。女子には一体何が見えているのだろう。先生なら理解出来るのだろうか。
「―――ってそんな事はどうでもいいんだ! 結局誰が隼人を殺したんだよ! もうお前等にとってアイツが悪者なのは十分わかったから! じゃあ教えろよ! そんな悪人を殺した女子は一体誰なんだ! 分からないなら分からないままで終わりなのかよ!」
「それは違う! でも犯人が私たちの中に居るのは間違いないから……うーんどうしよ! 恋敵だけど、適当に殺すのは違うじゃん。男子だったら体育館みたいに放火すればいいんだろうけど♡」
「全員で聞き込みしよーよ。硝次君、知りたがってるみたいだし」
「授業どうする?」
「どうでもいいでしょ! そんな事より調べないと! だってそいつが居たらまた何度でも隼人君を取り逃がすかもしれないもんね!」
だから隼人を何だと思っているんだ。
―――というか家に来ればハッキリしたのに誰が生きてるって言いだしたんだよ。
ていうか信じるなよ
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