第二十話・キャンプの明暗

 キャンプ出発の日がやってきた。

 

 予報通りの晴天のなか、部室に集まってくる部員たち。

 

 先に到着していた榊原先生と高崎が荷物を積み込んでいた。

 

「おはようなのです!」

 

「佐々川くん、おはよー! ついでに麗奈さんおはよ」

 

「先生らしい反応で落ち着くのです」

 

 冷ややかな目で睨む麗奈。

 

「遅れてすまねえな。荷物積むの手伝うぜ」

 

 そう言いながら荷物を運び始めたところへ南藤と美春が到着。

 

「みんな早いな」

 

「遅くなっちゃったねぇ」

 

 いつも通り二人で登場。

 

「南藤夫妻のご到着だぜ」

 

「てっちゃん結婚したの~?」

 

「んな訳あるか!」

 

「まだぁ、付き合ってもいないもんねぇ」

 

「南藤くん。とっとと告白するのです」

 

「麗奈ちゃん。少し黙ってようか」

 

 一声かけて荷物を運び始める南藤。その顔は赤い。


「あとは七海と真由美か」

 

「もうそろそろ時間ね」

 

「あっ、来たのです」

 

 走ってくる真由美が見えた。

 

「遅くなっちゃった! みんなごめんねー!」

 

「大丈夫よ。みんなも今来たとこよ」

 

「まゆちゃん。その食材はこっちのクーラーボックスへいれるのです」

 

「そのクーラーボックスね」

 

 二人で食材を整理しながら詰めていく。

 

 真由美から少し遅れて西園寺が走ってきた。

 

「すまない! 遅くなってしまった!」

 

「まだ集合時間前だ。遅刻じゃねえから大丈夫だ」

 

「そ、そうか」

 

 龍仁の笑顔に照れる西園寺。

 

「これで全員揃ったわね。さあ、荷物の積み込みが終わったら出発するわよ!」

 

「龍仁、西園寺、健児の三人で通信のチェックしといてくれないか」

 

「おぅ、わかった」

 

「了解した」

 

 キャンプの準備は順調に進み、予定していた出発時間となった。

 

「では、二輪車倶楽部キャンプ合宿へ出発よ!」

 

 龍仁と西園寺が走りだし、榊原先生がその後に続いてキャンプ場へと向かった。


「ワクワクしてきたのです!」

 

「バイクで走ってる二人ってぇ、なんかぁお似合いだねぇ」

 

「イライラしてきたのです」

 

「麗奈さんも免許取ったらどうかしら?」

 

「先生、麗奈はあんな大きいの乗れないのです。足が届かないのです……」

 

「だったら、モンキーとかどうだ? 小型免許で乗れるやつあるよ」

 

「南藤くん。後で詳しく教えるのです」

 

 麗奈の目がキラリと光った。

 

「分かった。帰ってからな」

 

 その時、スピーカーから声が聞こえた。


「おーい。聞こえるか?」

 

「佐々川くんどうしたの?」

 

「暑いっ!」

 

「夏のバイクはストーブ抱えてるようなもんだからな。西園寺は大丈夫か?」

 

「走ってる分には大丈夫だ」

 

「お二人さん。休憩したくなったら何時でも言ってくれ」

 

「分かった」

 

「了解した」


 学園から約一時間。

 

 水分補給のため一度休憩しただけで、特にトラブルなく目的地に到着した。



 

 駐車場に車とバイクを停め、全員で荷物を運ぶ準備をする。


「七海、毎回髪まとめ直すの大変だろ」

 

 七海がヘルメットを脱ぎ、髪の先に結ばれていたリボンを外し、いつものポニーテールになるよう結び直していた。

 

「そう大変でもないぞ。慣れればそんなに手間はかからない」

 

「そう言うもんか」

 

「意外だな。そんな所見てくれてるのだな……」

 

 西園寺の顔が少し赤くなる。


 全員で手分けして何とか荷物を運び終わり、男性陣でテントを張っていく。

 

 男性陣は大きめのテントで三人、女性陣は三人と二人に別れることになった。

 

 真由美と麗奈、西園寺と藤田と榊原先生という組み分けになった。

 

 男性陣がテントを張っている間に、用意された鉄板で焼きそばを作り始める女性陣。


「ナナちゃん、本当に料理上達したのです」

 

「あれから家でも作るようになってな」

 

「なかなかやるじゃない。これも、先生の指導による影響が大きいわね!」

 

「先生が教えたのは肉じゃがだけなのです。上達したのはナナちゃんの努力なのです」

 

「確かに努力はしたが、あの時肉じゃがを作れた事で自信が持てた。先生のおかげでもあるんだ」

 

「さすが西園寺さん。分かってるじゃない」

 

「ナナちゃん謙虚なのです」

 

 八人分の大量な焼きそばを、三人で汗だくになりながら作っていく。

 

 その頃、美春と真由美はテーブルの準備を進めていた。


「真由美ちゃん、体調大丈夫なのぉ? 何かぁ、元気無いように見えるよぉ」

 

 美春は、朝から口数が少なく、時々思い詰めたような表情をする真由美を心配していた。

 

「う、うぅん。大丈夫よ。ちょっと暑くて疲れちゃったかな」

 

「ならいいんだけどぉ……」


 美春に心配された事で、真由美は努めて明るく振る舞うようにした。


「さあ! テーブルの準備出来たわよ!」

 

「ありがとう、彩木さん! こちらもそろそろ出来上がるわよ! 麗奈さん! お皿よろしく!」

 

「了解なのです!」

 

「美春! 飲み物運ぶのを手伝ってくれないか!」

 

「はぁーい! いま行きますねぇ」


 女性陣が手分けして食卓の準備をして行く。

 

 昼食の準備が終わる頃、テントを張り終わった男性陣が食卓についた。


「こりゃ美味そうだな、龍仁」

 

「外で食べる焼きそばは美味いぞ」

 

「お腹ペコペコだよ〜」

 

「皆お疲れ様でした! さっ、食べよう!」


 真由美が元気いっぱいに声をかける。

 

 それを合図に、皆が一斉に焼きそばを頬張る。


「この後の予定はぁ? 夕飯の準備の他にぃ、何かあるのかなぁ?」

 

「俺と南藤で、小さなキャンプファイヤーができるように準備する」

 

「キャンプファイヤー楽しみなのです〜」

 

 榊原先生が口元に笑みを浮かべながら立ち上がる。

 

「キャンプファイヤーの前に、イベントを一つ考えてあります。それは……肝試しです!」

 

「それはキャンプのお約束行事だね〜」

 

「き、肝試し! それはとても楽しみだな!」

 

 西園寺の瞳が煌めく。

 

「当然、これはペアで行う行事! ここで、ペアを決めてしまおうじゃありませんか!」

 

 ハイテンションの榊原先生。

 

「さっ、ここにクジ引きを作ってあるから、皆んな順番に引いて!」

 

 丸い穴が空いた赤い箱をテーブルに置く。

 

 その時、異議ありの手が上がる。

 

「そのクジ引き、先生が作ったのです?」

 

「そ、そうよ。それが何か?」

 

「では、そのクジ引きを使うのは却下するのです」

 

「な、何でよー!」

 

「先生。その慌てぶり。何か仕込んだのです?」

 

「し、し、仕込んでなんかいないわよー!」

 

「ならば中を確認させて」

 

 麗奈が喋り終える前に、クジ引きの箱を叩き潰し華麗な投球フォームでゴミ箱へ投げ入れる榊原先生。

 

「さっ! ジャンケンで決めましょう!」

 

「白状したのと同じなのです……」


 勝ち抜けた順番にペアを組む事になり、一抜けが南藤、二番が藤田となった。


「お、お嬢と一緒か。ラッキー!」

 

 小声でガッツポーズの南藤。


 三番が龍仁。麗奈、西園寺、榊原先生の闘志に火がつく。

 

 人生で、ここまで気合いの入ったジャンケンをすることはそう無いだろう。

 

 そう思わせる気迫が三人にあった。

 

 そして、運命のジャンケン……。


 勝者! 榊原先生!


「よっしゃー! 佐々川くん! よろしくねー!」


 麗奈と西園寺は、魂の抜けたジャンケンの結果、ペアを組む事となった。

 

 最後まで残った真由美と高崎がペアとなった。


 浮かれる榊原先生、南藤。

 

 恨めしそうに榊原先生を見つめる麗奈、西園寺。

 

 残った焼きそばを平らげる龍仁、高崎、藤田。

 それを愛おしそうに見つめる真由美。


 


 ずっと、ずっと一緒に居たかったな。

 

 みんな、今まで本当にありがとね。


 


 悲しみの感情はそこには無かった。

 

 ただ寂しい。もう、皆と一緒に居られないんだと言う寂しさだけが、真由美の心を包んでいた。

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