閑話:ザザ⑤
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ザザはリリスの全身を余す所なく目に焼きつけているし、指も舌も触れていない場所などはない。
唯一あるとすれば、その心である。
だがそれでいいとザザは思う。
(心など、自身の心ですら掌握出来ないと言うのに他人のそれなど分かるわけはないのだ)
結局の所、人は他人の心に触れる事など出来やしないのだろう。
触れたと思っても所詮それはまやかしで、思い込みに毛の生えた様なモノだ。
ザザはそんなヒネた考えを頭に浮かべるが、同時に真逆の事も考えてしまう。
心に触れたい、近付きたいと思う事ことが尊いのであろう、という甘な考えだ。
要は行動である。
“私はあなたと親しくなりたい。だから理解できるように、また理解してもらえるように努力しますよ”という姿勢が大事なのだ。
そういった姿勢は、行動は目で見て分かるものだ。
他者には見えぬ心というわけのわからぬ何かを、行動する事で少しでも表に見せる、大切な相手に示す…それが所謂誠意というやつなのではないか…
………と、ザザはリリスの胸に埋まりながら考えていた。
実に益体もない考えである。
ばぶばぶという擬音すら聞こえてきそうな程にリリスの胸に甘え倒すザザの姿には、歴戦の金等級の威厳は欠片も無い。
ザザと言う男は基本的に信じられるのは自分のみ、いや、自分でさえも肝心な時には裏切るのだ、などと斜に構えているどうにも処置のしようが無いペシミストなのだが、それでも根がどこか甘ったれているため、1人はいいけど独りは嫌だ、などと心の何処かで考えてしまっている。
少なくとも支払った金の分だけは裏切られない…それが風俗通いに繋がっているのだ。
そう!
ザザは口では何をいってようが、要するに心の通い合う相手が欲しいとおもっているのである。本心では。
それが叶わないのはひとえに彼の心の脆さが原因だ。
剣の腕こそべらぼうなものだが、心はヨワヨワなのがザザである。
しかし、そんな彼を好む女というのは案外に多い。
見た目はかなりの男前だ。
女に乱暴を働くこともなく、社会的にも高い立ち位置である金等級という地位を築いている。
それでいてえばったりもしない。
だがザザとて自身に向けられる目の質と言うものくらいは分かるが、それでも信じきる事が出来ないのだ。
陳腐な言い草ではあるが、信じてもらうためにはまずは自分から信じなければ話にならない。
そして人と人の関係の良い形というものが違いに信じ合うモノだとするならば、ザザが自身の心の保身をする限りは彼が本当に欲しがるモノは得られないであろう。
ザザは本人は認めたがらないだろうが、実は怯えている。
今はいい。
たとえ孤独だろうがなんだろうが、自身の剣腕で如何なる障害も切り伏せられよう。力づくでどうにかなる事というのは世の中に沢山ある。
だが、この先はどうだ?
戦いで深手を負い、剣を握れなくなったら?
あるいは老いて体が戦場に耐え切れなくなったら?
今でこそ、そうなれば潔く死んでしまえばいい、と思っている。
だが、この心の強さというものは体が弱ったときも同じように維持できるものなのだろうか。
そもそも……
――そんな投げやりな気持ちが果たして“強さ”といえるのか?
ザザはリリスのち◎びを舌で転がしながら自分のなにやら薄暗い靄で覆われた未来を想い嘆いた。
■
「ザザ様。色々考えすぎです。体に悪いものがたまっているから良くないことを考えてしまうのではないですか…?」
リリスに後頭部をなでてもらいながらザザは“それもそうだな”と気を取り直し、盛大にばぶばぶしはじめた。
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