敵
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酒場でちょっと絡まれたくらいで、報復として酒場を爆破したとして、それは正当な行為だと言えるだろうか?
いや、言えない。
街で肩を故意にぶつけられた事の報復として殺してしまったとして、それは正当な行為だと言えるだろうか?
いや、言えない。
軽い気当たりをされたからといって、魔域化に至る程の殺気交じりの魔力を垂れ流すと言うのはこれは過剰である。
仮に王都の、しかも貴族の屋敷を魔域化を許してしまえば、アリクス王国はクロウを討伐対象として首に懸賞金をかけねばならない。
その場合は金等級が複数、あるいはルイゼが動くだろう。
前者ならまだ逃げ延びることが出来るかもしれないが、後者ならどうにもならない。コーリングが全力で加護を授けたとしても、クロウは死ぬしコーリングは圧し折られる。少なくとも現時点では。
本人としてもそんな死に方は不本意だろうし、王都の者からしてもたまったものではない。
■
クロウは一応事情をサウザールへ説明をした。
話が魔族のそれに至った時には驚いた様だったが、アリクス王国の貴族で魔族の跳梁跋扈を知らない者、もしくは軽視する者は余程の楽観者である。
「実は君の事を少し調べたのだ。昔は大分暴れていたそうだが、最近は落ち着いてきたそうじゃないか。だが今の君を見る限り、落ち着いている様には見えぬ。これは君の器が増大する力を収め切れていない事の証左ではないかね。貴族にも君の様な者がいるよ。貴族とは元より大きな魔力を宿しやすいのだが、たまに出るのだ。身の丈に合わぬ力を持て余して狂を発した者がね」
そういう人はどうなるのか、とクロウが尋ねる事はなかった。そんなもの、殺されるに決まっているからだ。
「いいかね、クロウ殿。因果は釣り合っていなければならない。キュウレのやった事は愚かではあるが、それに対してアリクス王国全体から敵視される様な真似をするというのは馬鹿のする事だ。キュウレ、来なさい」
サウザールがキュウレの名を呼ぶと、キュウレはなにやら覚悟を決めたような表情でサウザールの前へ立った。
「私が招いた客への無礼…その実力を試そうとした傲慢さ」
サウザールがそう言うと同時に、パン、とキュウレの頬を叩いた。それは決して強い打擲ではないが、客や召使い達の前での打擲は、気位が高い者は恥だと感じるだろう。
「この様なものだ。何事もつりあっている必要がある。これは全てに通じる事だ。戦いにも、政治にも、だ」
クロウは神妙な顔をして頷いた。
そして同時に、この真っ当すぎる様に見える貴族が何故あの様な真似を…?と疑問に思った。
脳裏を過ぎるのは盗賊団黒屍の一件だ。
クロウは基本的に相手の力に、特に権力にビビると言う事は無いためストレートに訊ねた。
「コイフ伯爵は立派な貴族に思えるのですが、なぜ盗賊団を使い多くの人々を殺めていたのですか?」
それを聞いたバルバリ達使用人はぎょっとした表情を浮かべ、キュウレはバッとサウザールを見た。
当のサウザールは無表情だ。
「黒屍とか名乗っていた盗賊団の事かね?コイフ伯爵家は彼等とは関係ない。が、世間ではその不逞の者らがコイフ伯爵家の手の者だと思われている。勿論否定はしているがね。誰も信じない。良いか?仲が悪い事と敵対している事は別だ。確かにコイフ伯爵家はロナリア伯爵家とは不仲だ。ロナリア伯爵家の小賢しさは好かぬ。いや、嫌いだ。だが敵対しているわけではない。まあ我々が敵対していると思ってくれていた方が都合が良い面もあるがね……」
なるほど、とクロウは納得した。
要するにその敵対する家の手の者か、と。
クロウがそんな事を思っていると、サウザールは忌々しげに続けた。
「追っている者がいる。外法の術者だ。ロナリア家の御用商人カザカス……の皮を被っていた男。ここ最近、アリクス王国の貴族間の諍いが増えている。少しずつ少しずつ増えているのだ。深刻な諍いとなり、片方の貴族家が取り潰された事もある。これはその術者が糸を引いているのではないか、と私は考えている。問題はなぜそんな事をするかだ。今アリクスは周辺諸国との関係は良好だ。裏ではどうか分かったものではないが、少なくとも表向きは。仮に諸外国の手の者でないとすれば何処の手の者か……」
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