ルイゼ
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ギルドへ魔族との戦いを報告したクロウは、祝勝会の翌日、昼過ぎにギルドマスターであるルイゼの前へ連れてこられた。ランサックとザザはすでに事情聴取済みらしい。
ルイゼ・シャルトル・フル・エボンは連盟と呼ばれる魔術師団体と、協会と呼ばれる魔術団体の両方に所属し、しかもアリクス王国で爵位を戴きながら冒険者としての最高位、黒金級冒険者として名を馳せている、さらに! アリクス王国王都冒険者ギルドのギルドマスター……という訳の分からない存在だ。
そして、クロウの体へ入り込んだシロウに冒険者として生きる術を与えた存在でもある。
■
{挿絵①}
ほっそりした肢体、腰まで伸びる濡れ鴉色の髪に真っ白い肌は確かに彼女の魅力的な部分と言えるのだが、何より神秘的なのはその瞳だった。
瞳の奥に見えるのは何がしかの魔法陣だ。
ルイゼはクロウの顎を掴んで持ち上げ、接吻するかの如く顔を近づけ目を細めた。
「面白いと思って拾った子犬ですが、益々面白く育って大変結構ですね。大きい犬や女狂いの犬を向かわせましたが、3人掛かりとはいえ下魔将オルセンを退けるとはお見事。アレはそれなりのタマです。生きて帰れたのは僥倖でしょう」
クロウが犬? と訊ねると、ルイゼは“ランサックとザザの事です”とすまし顔で答えた。
「でもねえ、アレが出てくるほど結界が解れているとはね。中央教会は何をしているのだか。結界の管理は彼らの仕事でしょうに。第三次人魔大戦で結界の礎となった先代勇者の想いを今の教会は踏みにじっていますよ。いいえ、それだけではありません。王国も帝国も連盟も協会も、多くの者が魔族達を食い止めんと世界の礎となったというのに」
クロウはぎょっとした。
ルイゼの瞳の奥の魔法陣が回転をしている。
それだけなら変わった眼ですね、で済むのだが、バチバチと放電までし始めては流石に止めなければならないとクロウも思う。
(でもどうやって?)
まさか斬りかかるというわけにはいくまい。
「斬れるものならやってみなさい」
クロウはまたまたぎょっとした。
ルイゼはニヤニヤと笑っている。
「まあ貴方を視て大体の事は知れました。よくやりましたね。ご褒美をあげましょう。何が欲しいですか? ちなみにランサックは私を抱く事、ザザはお金を求めました。さてクロウ、私の子犬。貴方は何が欲しい?」
クロウは考える。
欲しいもの。
それは決まっていた。
──力だ
──勇者として俺はもっと強くならなければならない
「力です。マスター・ルイゼ。俺は力が欲しい。借り物の力じゃありません、俺自身の力が欲しいのです。試練を与えて下さい。鍛錬を与えて下さい」
ルイゼは面白そうにクロウを見て、そして笑った。
「力ですか。私の弟子……家族も初めて逢った時同じ事をいいましたよ。毎日半殺しにしてあげました。そして彼は強くなった。でも……困りましたね、貴方は剣士でしょう? 私とは畑が違いますからね。ただ貴方の力になる者達を紹介してあげましょう。そして、貴方がもう死にたいと願う程に厳しい試練も与えてあげましょう」
そして“今後は私が貴方に依頼の斡旋をします”と言われ、クロウは部屋を追い出された。
クロウは今もなお死にたいと思っている。
だがその自殺願望……希死念慮はやや前向きなものとなった。
魔王を倒してから死にたい。
これだ、とクロウは感得する。
なぜ最初からこれに気付かなかったのだろうか、とクロウは自身の愚かさを悔やむばかりだ。
無理もない、以前のクロウは魔族の事など知らなかったのだから。
だがクロウは知った。
己の逝く先を。
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