閑話:ザザ②

 ■


「……と言う事があったんだ。それなりに業物なのに刃も欠けてしまった。魔族というのはどいつもこいつもあんな奴ばかりなのか」


 ザザはリリスの胸にすがりつきながら愚痴愚痴と文句を言っていた。

 魔族とて斬って斬れない筈はないと思っていた彼にとって、先日まみえた魔族との一戦はザザの自信を少なからず傷つけるものであった。


「でもザザ様がいなければその魔族と言うのも退くことはなかったのでしょう?」


 リリスの言葉に、もちろんだ、と答える。

 ハッタリが上手く決まっただけだというのはザザも分かってはいるが、その辺は言わない。なぜならリリスに失望されたくなかったからだ。


 魔将相手に無傷で時間を稼いだというのはもはや偉業といっても過言ではなく、ハッタリをカマしてそれを通すというのは勇者の業といってもいいほどなのだが、ザザの美意識はそれを誇ることを許さない。


 まあ娼婦の胸の谷間に鼻先を突っ込み、“俺は犬だ俺は犬だ”などとほざきながら胸の感触や匂いを味わっている男の美意識なんぞ……という向きもあるが……。きゃっきゃと甘い悲鳴をあげるリリスを見ていると、ザザの腰の剣はオリハルコンもかくやと思わせる程の……


 ■


 翌日、ザザは小鬼と向かい合っていた。


 ザザの剣が数度に渡り鋭く、そして激しく宙を掻き斬る。

 眼前の小鬼に刃は届いていない。

 ぎゃ? という疑問符めいた声をあげた小鬼だが、ザザが剣を納めると同時に小鬼の全身にぱっくりとした傷が浮かび、血が吹き出した。


 これこそ秘剣・凍風、殺し空


 小規模の旋風を剣撃にて引き起こし、瞬間的な真空を作り出す。

 そしてその真空に触れた敵手の皮膚を気化熱で急激に冷やしたのだ。

 急激に冷やされた皮膚は変性し、裂ける。

 つまりはカマイタチ……もっとしょうもない言い方をすればあかぎれを引き起こしたわけだが……魔力に頼らずに剣一本でこれを為す辺り、呆れるほどに剣が上手い。


 だが……


「つまらぬ秘剣を生み出してしまった……」


 ザザはぽつんと呟く。

 目の前の小鬼は傷だらけだが普通に生きている。

 まあ全身にあかぎれが出来て痛そうではあるが、それだけだ。


 ザザも先日の一戦で思う所があったのか、新たなる秘剣を考案していたのだが余り上手くはいかない。

 秘剣・凍風、殺し空は二度と振るわれないだろう。

 ザザの秘剣シリーズにはこういった技がいくつもある。


 まあどれもこれもがしょうもない技という訳ではなく、使い所を考えれば、あるいは少し技を造りかえれば化けるものも沢山あるのだが……


――――――――

2本連続投稿の2本目

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