祝勝

 ■


 酒場。


「俺はさ、元々教会の出なんだよ。でもよ、ある日愛に目覚めちまった。愛ってなんだか分かるか? ルイゼだ。愛とはルイゼを意味する。法神の為に槍を振るうより、ルイゼの為に槍を振るいたいわけだ。俺は愛の戦士なんだよ。ああ、これは教会にはいわないでくれよ? 信仰を捨てたことがばれると殺されちまう……」


 あれから3人でギルドへ戻って、事の次第を報告をした。

 魔族案件という爆弾は速やかにギルドマスターであるルイゼへ持ち込まれ、クロウ達は後日事情聴取されるらしい。


 ランサックは命からがら生き残ったということで、半ば強引にクロウとザザを酒場へ連行した。

 そこからのくだらない惚気である。


 ザザは黙れとかうるさいとかそれはもう聞いたとか冷たい言葉をランサックへぶつけるも、ランサックはいささかも堪えない。

 クロウはといえば別に何を思う事もなかった。

 むしろこういう場……邪魔だとか役立たずだとか、そういう自身への負の感情が満ちたような場所ではない、何と言うか“受け入れられている”という場に居られる事を心地よく感じていた。


「クロウ、お前さんはどうなんだ? 好きな女の一人や二人いないのか?」


 クロウは首をかしげた。

 さすがのクロウも、コーリングをこの場で抜いて彼女がかわいいです、などとやるのはイカれてると言う事くらいは分かっている。

 だが、少なくともこの世界でそういう惚れた腫れたといった関係の女性はいない。


「別に嫌われているっていうわけじゃないとおもいます。友達? といっていいのかわかりませんけど、シルファには良くしてもらっていますし、シャル・アなんかとはたまにご飯を食べますよ」


 で、どっちを抱きたいんだ? などとランサックが言うと、流石にクロウも答えを窮した。ランサックの話では彼は教会の上位戦力だそうだが本当なのだろうか? 中央教会ってふしだらなんだな……などと思うクロウである。


 なお余談ではあるが、魔剣コーリングは別に主たるクロウが生身の人間と付き合おうが結婚しようがその辺はどうでも良いと思っている。

 ただし、他の武器を使おうものならば守護の権能を災厄のそれが少しばかり上回ってしまうかもしれないが……。


 なのでクロウが金等級でありながらも浮いた話がないのは、魔剣がどうこうとかそういう話ではなく、ひとえに彼のコミュニケーション能力が濡れて飢えた鼠以下であるからに過ぎない。


 ランサックやザザもかなりモテるのだ。

 まあランサックはルイゼに首ったけだし、ザザは風俗狂いなので市井の娘と惚れた腫れたなどといったことはないが。


「それにしてもランサック。ああいうのが相手ならもっと手勢を引き連れるべきだな。金等級は何も俺だけではないだろう。淫乱やホモジジイあたりならいつでも王都にいるではないか。淫乱は相性は悪そうだが、ジジイは歴戦の武僧だぞ。城壁崩しの業前は魔族にも通用するんじゃないのか」


 ザザがそう言うと、ランサックは目をきっと吊り上げぎゃあぎゃあわめいた。


「正気でいってんのかザザ! あんなやつらは魔族より有害だぞ! 三年前、王都で紅毒が蔓延したのは誰のせいだとおもっている! ……ルイゼがギルドマスターになってからなんだよなぁ、腕はよくてもその他が最悪な奴等が金等級に上がりだしたのは……。目が良いんだか悪いんだかわからねえよ……っていうかよ、お前もそうだけどなんで下半身がそんな緩いんだ? クロウくらいだろう、金等級で下半身が締まってるのは」


 下半身が締まってるとか嫌な表現だな、とおもいつつクロウは卵焼きを食べていた。



――――――――

2本連続投稿の1本目

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