閑話:アリクス王国冒険者ザザの場合

なろうのほうで気晴らしに書いてるやつです。

アリクス王国の他の冒険者はどんなやつらなのかなくらいのかんじで。

ただ、やまもなければおちもないし、意味もないです。

カクヨムは複数の作品を1つのシリーズとしてまとめられないのかな?っておもったから本編に書くことにしました。

ただ、なろうみたいに何話も書き連ねるのはアレなので、全部まとめます。 

この回の一部登場人物は近況ノートに挿絵のせました


▼【ザザ】▼

 ■


 アリクス王国王都冒険者ギルド所属の金等級冒険者であるザザは冒険者として、は分からないが、少なくともその戦闘能力という点では金等級に相応しい実力がある。


 村落1つを食いつぶすオーガでさえ、1対1であるならば容易く屠れるほどの剣の冴え。


 独自に編み出した秘剣の数々は多くの魔物を切り伏せてきた。


 ちなみにザザが冒険者のようなヤクザな仕事をやっている理由は、それが日銭を稼げるということ、仕事をある程度選べるということ、そして責任を負わないで済むという事、これらの理由で冒険者業をやっている。


 ■


 適当に薬草なりを採取して日銭を得る

 適当に魔物を殺し日銭を得る

 適当に賊を殺し日銭を得る

 その日銭で旨いものを食いつつ書物を買い集めたり、女を買ったりする。

 ザザはこれでいて書を良く読む。


 稼いだ金はすぐに使い切る。

 ザザは行き当たりばったりで生きている。

 ザザは正しくその日暮らしの冒険者なのだ。




 ▼【犬狩り】▼


 その日もザザは日銭を稼ぐために依頼をこなしていた。

 依頼内容は街道沿いのグレイウルフの討伐である。

 グレイウルフは野生の狼が魔素を吸収して変貌した狼の魔物だとされる。


 通常の野生の狼よりは2回りは大きい。

 獰猛だが馬鹿ではなく、群れで狩りを行う。

 グレイウルフを野生の狼程度と踏んで甘く見て、ギルドタグのみを残してギルドへ帰還する羽目になった冒険者は数多いる。


 そんな紛れもない怪物の群れがザザを取り囲んでいた。

 だがザザには取り乱すような様子はみられない。

 きらりと銀色の閃光が走る。

 ザザが投げたナイフは正確に一頭のグレイウルフの右目を貫く。


 それが戦いの火蓋を切った。


 グレイウルフたちが一斉に飛びかかってくる。

 ザザは冷静に飛びかかるグレイウルフたちを斬り捨てていく。

 同時に複数体のグレイウルフを相手どってもザザの動きは鈍らない。

 いや、むしろ普段よりも鋭さを増しているようにすらみえる。


 次々と襲いかかってくるグレイウルフを斬っていく。

 ザザの剣技は美しい。

 無駄がなく洗練されている。

 まるで舞踊のように舞い踊る。


 回避と同時に斬り付ける、これをザザは秘剣・舞踏剣と名付けている。

 そんな秘剣の名を知るものはザザ以外には居ないが。


 最後の一匹最後の一匹を斬り捨てると、ザザは一息ついた。


 ━━野良犬7匹

 ━━2、3日の間旨い飯、そこそこの酒、そして女も抱ける


 ザザは享楽主義者である。

 その日暮らしをよしとし、先の事は考えていない。

 だから少し稼いでその金で怠惰に過ごし、金がつきたらまた稼ぐ。そんな生活を続けている。



 ▼【エスタ】▼


 ギルドに足を踏み入れると、騒がしくしていた連中の視線が一瞬ザザに集まる。

 視線はすぐに逸れるが、1人の女冒険者がザザに歩み寄ってくる。

 

 名前はエスタ。

 ハーフエルフの冒険者だ。

 エルフの血はやや濃い。

 冒険者としての格はザザより1つ下の銀等級。

 弓と魔法を得手とするが、いざとなれば刃物だって扱う。


「四つ足かしら?」エスタが問う。

 四つ足とはグレイウルフの別称だ。


「ああ」ザザが短く答えた。


「依頼は一人で受けたの?」エスタが問う。


「ああ」と、ザザ。


 ふうん、といった風な女は軽く頷き、背を見せて仲間と思しき集団のもとへ歩き去っていった。

 ザザと女は顔見知りだ。

 以前、とある事情で知己を得た。

 女はザザに恩がある。


 女の横にいる男へふと目をやると、ザザを険しい顔で睨み付けてきていた。

 男の名前はグエンという。

 彼はエスタのパーティメンバーである。

 ザザとも顔見知りだ。


 だが、ザザは彼に対して友情を感じてはいない。

 グエンもザザに対し友情など感じてはいまい


 グエンがザザをにらみつけるのは、彼がエスタへ懸想しているからであろう。

 ザザはエスタに異性としての情は抱いていないが、そんなことはグエンには関係ないのであろう。

 グエンはエスタが他の男と話す事そのものが気に食わないのだ。


 ━━くだらない


 心中で吐き捨て、ザザはカウンターへと向かった。

 カウンターにはいつものように受付嬢がいる。


「依頼の報告に来た」そういって討伐の証となるグレイウルフの牙を渡す。


「はい、確認しますね」受付嬢は笑顔で受けとり、慣れた手つきでチェックしていく。

 この世界のギルドは、基本的にどこの国にも属さない独立機関だ。

 ギルドに登録している者は、自分の所属する国以外のギルドでも依頼を受けることが可能となる。

 ただし、国のギルド支部でのみ受けることのできる特殊な依頼も存在する。


「はい、大丈夫です。報酬をお受け取りください」

 ザザはカウンターに載せられた報酬の入った袋を手に取る。


「ありがとうございます。ところで、お尋ねしたいのですが、何か変わったことはありませんでしたか?」

 ギルド職員の女性は微笑んだまま、ザザを真っ直ぐに見つめてきた。


「いや、特にないと思うが……」

 ザザが答える。


 女性の目が細められる。


「……なにもないならいいんです。最近、この辺りの森の奥地に棲むモンスターが活発になってきているようです。パーティも組まずに独りで森に入るのはあまり感心できませんよ? ザザさんは無理をなさらない方だとわかっておりますけど、念のため忠告しておきました」


 ザザは無言で小さくうなずいた。

 要するに、グレイウルフの群れに一人きりで挑むような真似はするなということだろう。

 グレイウルフ自体に格別異常はなかった気もするが、よくよく考えてみれば最近は魔物の出没が増えているような気がする。

 森で何かが起こっているのだろうか? 


「わかった。気をつけることにしよう」


 女職員に礼を告げ、ザザは踵を返した。

 背後から、クスリと笑う声が聞こえた気がしたが、ザザは振り返らなかった。


 ▼【リリス】▼

 宿屋に戻ると、ザザはすぐにベッドへ横になった。

 そして干し肉を齧りながら書物を読む。書物はとある冒険者の紀行物だ。


 作者は冒険王として知られているル・ブラン。

 ル・ブランの経歴が本当であれば、彼は冒険者の中の冒険者と言えるだろう。


 作中の空中都市やら海底神殿は、本当に存在するなら怠惰なザザとて一度は行って見たい場所だった。


 ちなみに干し肉は上等な干し肉で、香辛料をふんだんにつかった贅沢なものだ。


 ザザはこういった時間がとても好きだった。

 旨いものを食いながら面白い書物を読み耽る。


 食も酒も女も書も、いずれも金がかかる。

 ザザはそれらを十分に堪能するために日々冒険者業に励んでいるといってもいい。


 ■


 夜になり、ザザは娼館へと赴いた。

 娼館の扉を開けると、カウンターにいた娼館の主人が顔を上げる。


「いらっしゃいませ。ザザ様。お待ちしておりました」


「いつもの部屋は空いているか?」


 主人は微笑みを浮かべたまま、頭を下げた。

「はい。もちろんでございます。どうぞこちらへ」


 案内された部屋はいつもと同じ個室だ。

「それでは、ごゆっくり」主人はそう言い残して退室した。


 部屋には天蓋付きの大きなベッドが置かれている。

 この世界の一般的な娼婦は、客にサービスを行う前に風呂に入る。

 そのため、ザザも入浴は済ませた。

 あとは娼婦が来るのを待つだけだ。


 ■

 

 しばらくするとノック音が響いた。

「失礼します」ドアを開けて入ってきたのは、白い肌をした若い女だ。


 ゆるりとしたナイトドレスを着ているが、その下には豊満な肉体が隠されている事をザザは知っている。


「ようこそおいでくださいました。今晩もよろしくお願い致しますね」

 妖艶な笑みをうかべて、彼女はザザの隣に腰を下ろした。

 そして、ザザの手を握る。


「本日はどのようなことをしましょうか? 何でも仰って下さい。貴方のお望み通りに……」

 ザザは彼女の手を強く握り返した。


「いつでも美しいなリリス。まずはその服を脱いでくれ」

 リリスと呼ばれた女は一瞬キョトンとした表情を見せた後、口元に手を当ててクスリと笑う。


 ■


 娼館で一晩を過ごしたザザは太陽の光に顔を顰めながら宿屋へ戻っていく。

 

「おはようございます。ザザさん」ザザは宿の受付の女性と目が合う。

 女性の名前は確かレーニャと言ったはずだ。


「ああ、おはよう。今日も良い天気だな。そうだ、朝食を頼むよ」

「はい。ただいまお持ちしますので少々お待ちくださいませ」

 ザザの言葉にレーニャは微笑みを浮かべる。


「どうぞ、こちらが本日のメニューです。それと、こちらはサービスになりますのでよろしければご賞味下さい」


 そう言って差し出された皿の上には、こんがり焼かれたベーコンとスクランブルエッグが乗せられていた。


「ありがとう。頂くとするよ。代金はこの前と同じでいいか?」

「はい! それでは、またのお越しをお待ちしております!」


 ザザは部屋に戻り、ベッドに腰掛けて食事を摂る。


 食事を終えたザザは荷物をまとめ、部屋を後にする。

 冒険者ギルドに到着したザザはそのまま依頼掲示板に向かい、自分に出来そうな仕事を探していく。


 ザザは掲示板の前で考え込む。


 そして一枚の依頼書を手に取り、カウンターへと向かった。


「依頼を頼みたいんだが、受けさせてもらえるかな?」

 ザザは受付嬢に声をかける。


「はい。こちらの依頼は……いつも通り討伐ですね。またお独りで向かうのですか?」


 受付嬢はザザの持つ依頼書を覗き込みながら答える。


「ああ」ザザは答えた。


 王都のギルドにおいて、討伐依頼とは複数人で組んで挑むものだ。

 単独で行動するのは自殺行為であるとされている。

 王都周辺の魔物どもは、手ごわい。


 それはザザも理解していた。


 だが、彼は敢えて単独で活動する道を選んだ。

 別に大層な理由があるわけではない。

 あえて理由をあげるとすれば、それは“面倒だから”に尽きる。


 ザザは思う。凡そこの世界の殆どのトラブルは人間関係が起因なのだ、と。

 男女混在のパーティなんて最悪だ。

 惚れた腫れたといった問題が必ず出てくる。

 これは男が男である以上、女が女である以上仕方のない事なのであろう。


 それでもザザは過去のトラブルの経験から、パーティを組んで活動する気にはなれなかった。


 もちろんソロ活動である以上危険は大きいだろう。

 だがそれはそれでいいではないか、とおもっている。

 ザザには別にまもるべきものなどはない。


 思わぬトラブルで自分が命を落とすのなら、所詮自分などはそれまでの存在だったのだろうと諦めるまでである。


 もちろん、いざ死のアギトが目の前に迫ってきたならば、斜に構えているザザとて泣き喚き、惨めに命乞いをするのかもしれないが……。


 結局の所、ザザは集団行動に伴う責任の発生を厭っているだけなのだ



 ▼【オーク】▼


 さて、今回の獲物はオークと呼ばれる豚頭の魔物だ。

 ゴブリンと同じく繁殖力が旺盛で、放っておくと際限なく増える。

 オークは通常は森の奥深くに巣を作る。

 王都から南へ徒歩3日程の距離にある、通称魔の森が今回の依頼の場所だ。


 ザザにとってはさほど困難でもない依頼である上、報酬もそれなりだ。


 そして何より、ザザにとってこの手の作業は慣れたものなので、特に苦にはならない。

 準備を整えたザザは魔の森へと向かう。


 森の中は薄暗く、不気味な雰囲気を醸し出していたが、ザザは特に気にすることなく足を進めていく。

 しばらく歩くと、開けた場所に出た。そこには既に数匹のオークの姿があった。


 オーク達はザザの姿を捉えると、雄叫びをあげて襲いかかってきた。

 しかし、ザザは慌てることもなく、落ち着いて対処する。


 迫り来るオークの棍棒を最小限の動きで回避すると、すれ違いざまにその首を切り落とす。


 更に襲い掛かってくる2匹目のオークの攻撃は、屈み転げることで避け、立ち上がる勢いで空中に跳ね上がり、頭部を切り飛ばした。

 これを秘剣・飛竜という。

 まあザザが勝手に名付けているだけだが。


 3匹目は仲間の死体を踏み越えて、ザザに掴みかかろうとしてきたが、ザザはその手を難無く避けると、逆に相手の腕を掴み、背負い投げの要領で地面に叩きつける。


 そして、相手が怯んだ隙を逃さず、喉元に剣を突き刺した。

 これぞ邪剣・穿ち鳥。

 これもまたザザだけが知ってる秘剣だ。

 必殺剣なりなんなりの命名はザザの密かな趣味である。


 こうして、ザザはあっという間に4体のオークを仕留めてしまった。戦いが終わると、辺りは静寂に包まれる。

 ザザは死体の処理に取り掛かる。


 まずは討伐証明となる牙をへし折り、腰の袋へと入れる。

 そして匂い消しの粉をふりかけ、余計な魔物がよってきづらいようにする。


 作業を終えたザザは、空をみあげた。

 日はまだ高いが、森ではすぐ暗くなる。


「戻るか」

 ザザは帰路についた。



 ▼【オーガ】▼



 新しい金等級が誕生したらしい。

 金等級に上がったのはザザも顔だけは知っている男だ。

 アリクス王都冒険者ギルドでは良くも悪くも有名な男。


 ザザとしてはその男に何かを思う事はない。

 何と言っても交流がないのだから。

 王都ギルドには多くの冒険者が所属しているが、件の男と交流を持っている者といえば限られてくる。

 ザザはその限られた一人ではなかった。


 ■


 リリスを抱きに行く金がない。

 いや、正確にいえば、リリスを抱きに行けば宿代はおろか飯代すらも無くなる。

 オーク数匹ではその程度だ。

 リリスは高いのだ。


 ザザはため息をついた。

 仕事の気分じゃないが先立つものが無いなら仕方ないとザザはギルドへ向かう。


 依頼掲示板を見る。

 手頃な依頼があった。

 オーガだ。

 四つ足ともオークとも比較にもならない怪物。


 だが、ザザにとっては難しい相手ではない。

 依頼票を剥がし、受付へ持っていく。


「ザザ様、お一人ですか?」

 受付嬢が言う。

 あくまで確認……といった口調。

 ザザの実力を受付嬢は疑っては居ない。

 何と言ってもザザは金等級なのだ。


「ああ」


 ザザは短く答え、手続きを終えるとギルドを出て行った。


 ■


 ザザは荒地へ向かう。

 オーガと言えばそこだ。

 連中は乾燥地帯を好む。


 以前は荒地は極めて危険な場所だった。

 赤角と呼ばれる怪物が居たからだ。

 しかしザザなら殺せた。

 依頼を受けなかったのは、楽勝とは行かないだろうと思ったからだ。


 戦わざるを得ない強敵は戦って殺す。

 しかし、戦わなくていい強敵とは戦わない。

 ザザの数少ないポリシーだ。


 赤角は強敵だ。ザザから見ても。

 だが只のオーガなら強敵ではない。


 ……と、ザザは思っているが実際に戦えばザザの圧勝だろう。赤角はザザに触らせても貰えないはずだ。


 単に相性の問題である。

 ザザに力任せの攻撃は当たりづらい。



 ■


 ザザは首尾よくオーガを見つけた。

 オーガは鼻が利く。

 近寄ってくるザザをすぐに見つけてしまった。


 オーガとザザが向かい合う。


(コソコソとした奇襲はしない)

(正面から奇襲をする)


 ザザがゆらりと体を揺らす。

 体の揺れは大きくなり、やがてはどういった理屈かザザの体自体が分かれていった。


 ザザは2人に増え、3人に増えた。

 身体強化の細かなオンオフ。それにより生まれる緩急を利用した足運び。

 細かな身体制御と魔力制御が合一した時、その身はあたかも分身したかのように仮初のザザを敵手の目へ映し出す。


 オーガの視点はあちらへ行ったりこちらへ行ったり定まらない。

 当たり前だ、目の前の敵がいきなり増えたら誰だって混乱する。


 そして混乱したオーガの首をザザが切り裂いた。

 これこそが《i》幻惑の秘剣・幻踏殺景/i


 勿論この秘剣の名を知るものはザザ1人だ。

 彼は自分で勝手に技名を付けて満足しているだけなのだから。


 ザザはオーガをあっさり殺した。

 報酬もそれなりにもらえるだろう。


 その金は女を抱き、酒を飲む事に使ってしまうだろうが。


 ▼【賞金首】▼


 ある日、ザザは賞金首2人と向かい合っていた。

 男と女、強盗殺人冒険者だ。


 ザザは左手と右手、両手に剣を握り構えた。

 2刀流だ。

 アリクス王国周辺では二刀流を修めるものは少ない。


 警戒する眼前の剣士は、次の瞬間度肝を抜かれる。

 なんとザザが片方の剣を分投げたのだ。

 剣士の怯みを見逃さず、ザザは低く走りこみ素早くスネ付近を切りつける。

 そして痛みでかがみ込んだ剣士の背へ深々と剣を突き刺した。


 これぞ外道剣・影斬。

 およそ金等級冒険者、【百剣】の2つ名を戴いているものが振るう剣ではない。

 せこすぎる。

 だがザザは負ければ死ぬような戦いではどんな剣だって振るう。


 ザザはゆっくりと背後を振り向いた。

 そこには2人組みの賞金首の片割れ、女強盗殺人冒険者がいた。


 女はザザの絶対零度の視線を受けるなり、おもむろに上着を脱ぎだした。

 要するに体で許せということだ。

 ザザは深く頷く。

 女は安堵し、更に下に手をつけたところで血を吐く。

 ザザの放った剣が女の心の臓を貫いたのだ。


 ただ剣を放り投げただけではない。

 剣はドリルの如く回転し、女の胸に大きな穴をあけていた。

 剣に細い魔力の糸を巻きつけ、ベーゴマの如く回転させる妙技……

 これを秘剣・螺旋独楽という。


 別に必要以上に痛めつけようとしたわけではなく、たださしただけでは心臓を外して余計に苦しませる恐れがあったからだ。

 ザザはサディストではない。


 ちなみにザザに色仕掛けは通じない。

 娼婦のリリスにドはまりしている為だ。


 ■


 ギルドへ戻り、依頼結果を報告し終えると知り合いが絡んできた。ランサックだ。


「ようザザ! ん? 賞金首か? 時化た連中を狙ってるなぁ、もっと大物を狙ったらどうだ? いくつか心当たりが「ランサック。俺は忙しい」……左様け」


 ランサックはしょんぼりとしてさっていった。

 ランサックは幾人かのお気に入りの冒険者というものがいて、彼らにやたら絡んでいる。

 ザザもその1人だ。

 。

 だがザザはランサックが別に嫌いではないが、好きでもなかった。

 それに忙しいというのも本当だ。

 ザザはこれから賞金首のアレを換金し、娼館へいかねばならないのだ。


 ▼【金欠】▼


 その夜。

 リリスがザザの胸をなでている。

 ザザとリリスはお楽しみ後は2人でこうして余韻を楽しむことがほとんどだ。


「ザザ様は本当にお体に傷のあとがありませんね」


 リリスがそんな事をいった。

 ザザはリリスの手を撫でながら頷く。


「俺には見えるのさ、敵の次の瞬間の動きが……」


 ザザがそんな事を言う。

 嘘だ。

 ザザには未来視などは出来ない。

 ただ、めちゃくちゃに剣が上手いだけだ。

 ザザはもう30代後半だが、若い頃は聖剣エルクス・キャリバーンの担い手、剣聖カスパールの再来とまで言われたほどの剣達者である。


 しかし、好きな女に剣で斬り殺す事が上手なんです、などと自慢する馬鹿が何処にいるのだろうか。

 だからザザは見栄を張った。


 リリスは目をぱちくりさせて、“じゃあこれから私が何をするかわかりますか? ”などと言った。

 ザザは鼻の下を伸ばしながらリリスへ手を伸ばした。


 ■


 そんなこんなでザザは金がまた無い。

 ザザは金をかせぐとすぐ遣ってしまうので常に金欠だ。

 だが、悪さみたいなことは決してしない。


 なぜならリリスにそれを知られたら嫌われると思っているからだ。

 金にだらしないが、曲者揃いの金等級の中にあって、ザザはそこそこ善良だし、無愛想だが扱いやすい者であるので、ギルドも実入りがいい依頼をまわしたりはしている。

 しかしそれではいった金は片っ端から使うのであまり意味はない。


 ▼【指導依頼】▼


 ある日、ザザはとある依頼の為にギルドへ赴いていた。

 そんなザザに話しかけてくるのはランサックだった。


「ようザザ! なあ、魔族って知ってるか? 最近ちらほら見かけるらしいぜ。お前もきをつけろよ~、まあお前さんの事だから心配はいらねえとおもうけどな! ところであの子にまだご執心なのか? 高いだろ! ははーん、最近お前が金がないのは「ランサック、俺は忙しい。これから依頼だ」……左様け……」


 ランサックはいつもの様にザザへ絡み、そしてすげなくされてスゴスゴ去っていった。


(だがランサックは気になる事をいっていた)

(魔族か)

(俺は水を斬った事も火を斬った事も空気を斬った事もある)

(魔族とやらは斬れるのかな)

(それとも俺が斬られるのかな)


 どうあれザザとしては他人事だ。

 仮に、仮に自分が相対する様になれば逃げようと思っている。

 逃げられそうになければ戦うまでだ。


 どうせ家族もいないければ友人、恋人もいない。

 ああ、でもリリスに逢えなくなるのは嫌だな、リリスの乳は最高だなどと思いつつ、依頼をこなしに向かう。


 今回受けた依頼は血なまぐさいものではない。

 剣術指導である。


 時として、冒険者が同じ冒険者へ模擬戦という形で指導訓練を希望する場合がある。

 これが剣術家だとかそういう類なら剣筋を見せたくないだのそんな理由で断わるのかもしれないし、現に剣を主に扱う上級の冒険者の中にもそういった者は居る。


 しかしザザはこういった依頼を断わった事が無い。

 ザザは剣術家ではないし、なんだったら剣術とはなんぞや、というレベルの門外漢である。


 ただ、気付いた時には剣が上手かった、ただそれだけの男なのだ。


 ■


 この日ザザへ指導依頼を頼んだのはセイ・クーという若い男だった。

 というか、このセイ・クーは結構頻繁にザザへ指導訓練を依頼してくる。


「今日も宜しくお願いします、ザザさん」


 セイ・クーが頭を下げてくる。

 ザザは、ああ、と答え剣を構えた。

 構えは適当だ。

 最初はセイ・クーもザザの適当さに業前を疑ったものだが……


 ■


 先手はセイ・クーが取った。

 まあ毎回セイ・クーが先手を取るのだが。

 ザザは指導では自分から仕掛けることはない。

 当たり前だ、殺し合いではなく指導なのだから。


 セイ・クーが突剣を突き出す。

 1、2、3……神速の三段突きだ。


 だがザザには1度も当たらなかった。

 というよりも、セイ・クーがザザの体とは離れている場所を突いているのだ。

 それでは当たり様がない。


 とはいえ、これはセイ・クーが剣下手という訳ではなく、当然種がある。


 以前セイ・クーが聞いた所によれば、“剣が届く前に体が既に攻撃態勢に入っている。俺はお前が剣を突く前に既にかわしているのだ”などと訳のわからない事を言っていた。


 セイ・クーの突きをかわしたザザはひゅるりと剣を横へ薙いだ。その速度は神速……などではなく鈍速だ。

 だが絶対に受け太刀などはしてはならないとセイ・クーは身を持ってしっている。


 この横薙ぎは重剣・石衝というらしい。

 これを受け太刀してしまうと、下手をすれば剣が吹き飛ばされてしまう。

 それどころか剣を握る手が痺れしばらく握ることすらままならならなくなる。


 術の類ではなく、体重移動と脱力からの力み……で為せる技らしい。ゆるりと振られた剣には、ザザの体重の何倍もの重みが乗っているのだ。


 セイ・クーは横に振られる剣をかなり余裕を持って、大袈裟なまでに距離を取りかわした。

 だが、大きく動くという事は大きく隙を作ると言う事でもある。


 ゆるゆると動いていたザザは急に切れ味鋭い踏み込みを見せ、あっという間にセイ・クーの懐に飛び込むと、彼の細首へ剣を当てた。


 ■


「参りました。ザザさん」


 セイ・クーが降参を告げると、ザザは頷いて剣を納めた。

 それからセイ・クーの動きのあれが悪いこれはよかった、振り方のここが気になる、これはこのままでいい、などと細かい指導が入る。


 普段からここまで細やかな指導をしていればザザの指導訓練はもっと依頼者が沢山いたのだろうが、ザザはセイ・クーくらいにしかこのような指導はしない。


 他の者がいても大抵は最初にやった様に、実力差を見せ付けて終わりだ。


 なぜセイ・クーを贔屓するのかといえば、彼がリリスとザザを引き合わせてくれた張本人だからである。

 セイ・クーも結構女遊びをするので……要するに風俗友達という奴だった。


「今日も行くんですか?」

 セイ・クーが悪そうな顔でザザへ聞くと、ザザはニヤリと笑った。

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