第14話:壊れたエルフを殺してあげたい②
ギルドへついたクロウは受付嬢のアシュリーに目礼をして依頼が張り出してある掲示板へと向かった。
危険なにおいのする依頼、死闘の気配がする依頼はないかと目を滑らせるが…今日は不思議とそこからなにかを選ぼうという気にはならない。
ポリシーというか、気持ちに変化があったわけではないとおもうが、とクロウはいぶかしむ。
そういえば剣が少し熱を持っているような気がする。気のせいだろうか?
■
「ようクロウ、調子はどうだ?」
クロウに話しかけたのは槍使いのランサックだ。
自慢話が好きな男で、こうして昼間から依頼も選ばずにクダをまいている。
話をきいてくれるものがれば、延々としゃべくるために鼻つまみもの扱いされているが、クロウは彼が話しかけてきたら出来るかぎりは話をきくようにしている。
そのせいか、ギルドで避けられがちなクロウの数少ない知人のような存在であった。
「そういえば連中帰りが遅いなぁ。ん?ああ、ほら、ドラゴンロアの連中さ。この前王国から指名依頼を受けていたんだ。ただの調査依頼らしいけどな、報酬はきっと凄いんだろうぜ。なんたって王国からの指名依頼だからなあ。リーダーの育ちがいいからよ、あそこは。美味しい依頼を沢山まわされるんだぜ?貴族とかからな、羨ましいよなァ」
息継ぎもせずに一気にしゃべりきると満足したのか、手をひらひらと振りながら去っていってしまった。
なんだかんだで彼はクロウにとっては良い情報源だ。
なにより、コミュニケーションをとらないでも勝手に最近あったことを話してくれるのがいい。
━━ドラゴンロアか
クロウも名前だけはきいたことがあった。
なんといってもリーダーのアーノルドは竜殺しを成し遂げた傑物で、当時は王都中で彼の名前をきいたものだった。
━━竜と戦ったらさすがに死にそうだな
いつかは挑んでみたいものだ、とクロウ。とはいえ、竜自体滅多にいるものではないし、いたとしても人に仇なす悪竜の類というのはもっと少ない。
基本彼らは山奥だとか秘境だとか、人の少ない場所にいるものだからだ。
■
爆音。
震える空気。
それらを背に感じたガデスは、足に魔力を可能な限り回してひた走っていた。ハルカがはぐれないように手をひきつつ、さりげなく様子を伺う。
分かってはいたが、彼女の瞳の奥には諦念、絶望、悲嘆…そんな感情しか見えなかった。
ガデスはそんなハルカに無性に腹が立つ。
(糞!絶望したいのは俺だって同じだぜ…糞ッ…アーノルド、エメルダ…)
それ以上に腹が立つのは無力な自分。
ガデス、お前はパーティの盾としての何をしたのだ?そんな自問自答が気分が悪くなる。
だがなにより許せないのは…
(━━殺すッ…!あの糞エルフ野郎…よくも、よくも)
ガデスとて絶望したく、泣き叫びたく、悲嘆に暮れたい。
だがそれ以上に胸を焦がす憎悪と怒りが彼の足を動かしていた。
■
その日、クロウは結局依頼は選ばずに常宿へ戻った。
いくつかこれはとおもうものはあったのだが、選ぼうとすると頭痛がするのだ。
クロウは縁起を担ぐわけほうではないが、風向きがよくないなとおもったときはすんなり引き下がるようにしている。
この世界、運が悪いとあっさり死んでしまうゆえに。
坂の上から転がる大岩から身を挺して旅人を護り死ぬのはよいが、呑気に歩いているところを押しつぶされ死ぬのはごめんだとクロウは考えている。
クロウの目的というか願いはあくまで多くの人間から惜しまれ悼まれる死であって、路上に惨めに屍を晒す野良犬になりたいわけではないのだから。
肯定感は異様に低く、承認欲求は異常に高い。
それがこの男の浅ましき性なのであった。
仕方ないとばかりに踵を返し、宿に戻ろうとすると途端に頭痛は収まる。
愛剣がほのかに熱をもち、クロウはまるで【それでいいのだ】と囁かれている気分になった。
■
クロウが宿へ戻ったその日の夜、ギルドに困憊した2人の冒険者が駆け込んできた。
ドラゴンロアのメンバー、ガデスとハルカである。
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