閑話:シルファ②

「…で、まあ結局最後はギルドマスターが〆たわけだ。イシュマル人もぎりぎりで死んではいなかったからな」


フーッと目の前の冒険者…オグマが息をついた。


「それからも色々あったけどな、基本的にあいつは人畜無害だよ。依頼は誠実に確実にこなすしな。頼まれれば大抵の事は嫌な顔1つせずにやってくれる」


「酔っ払いに殴られたって何も文句いわねえんだ。むしろ、介護してやってたこともあった」


根菜のサラダをちまちまとつまみ、オグマは続けた。


「でも、冗談でもアイツの前で殺すとか言うなよ。お嬢ちゃんがそんな事言うわけはないとおもっているけどな。その言葉だけには【反応】しちまう」


「よそから来た連中で、酔っ払ってアイツにぶっ殺すっていったやつらがいた」

うんざりした様子でオグマがいった。


「…その人は、どうなったんですか?」

私はおそるおそる尋ねた。


「生きてはいるよ。でも冒険者としてはもう使い物にならなくなった。今は地元で養鶏の仕事をしているそうだ。ギルドマスターがまたもみ消してたなァ、あの人も大変だよ」


私はほっとした。

しかしそれほど事件をおこして、クロウ様は大丈夫なのだろうか?


「お嬢ちゃんの疑問はなんとなくわかるぜ。ただ、まあ事情があるんだと。それに、どのトラブルもあいつは常に被害者だったからな。ただ、その…そうだな、やりすぎちまっただけで…」

オグマはさすがに少し無理があるかもという苦笑を浮かべながら話した。


「ただ、結局の所、あいつがどこからきてどんな素性があるのか、みたいなのはわからねえ。ギルドマスターが恐らくそのへん詳しいんだろうな。なにか事情があって、それは俺達が知る必要のないものか、知ってはいけないものなんだろう」

オグマがそういうと、目にやや警戒の色を浮かべ、私に忠告する。


「お嬢ちゃんも余り詮索しないことだ。ギルドマスターはあれで貴族だ。貴族っていうのはおっかねえんだ。それによ、言っちゃいけないことさえ言わなければあいつはいいやつだ。腕だってズバ抜けている」


私は首肯した。

貴族の怖さ、陰湿さ、闇はよくしっている。

オグマは私もまた貴族だとしればどんな顔をするのだろうか?


「ありがとうございます、色々と。クロウ様の事が少しだけ分かったような気がします」

私がそういうと、オグマはやるせなさそうに答えた。


「かわいそうな奴だよ、あいつは。どういう人生を歩めばあんな風になっちまうんだろうな。今は大分マシになってきてるけどよ、初めてみたときは、死体のほうがまだ生きているとおもえるような姿だったんだぜ。毎日拷問でもされてたのかね…やれやれ」



今は大分マシ。

あれで?

イシュマルの男の一件が脳裏に蘇る。

自分が何者かと問われるだけで泣き出してしまったあの人が、大分マシ?



オグマにはクロウ様の事が少しわかったと言った。

しかし、知ればしるほど分からなくなってしまった、というのが本音だった。


しかし、彼とは知り合ったばかりだ。

付き合いも短い。

今後、彼と親しくなっていければ、いつかは分かるときがくるのだろうか?

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