第17話

 中盤に差し掛かったようで舞姫たちも客人たちの中にも退座するもいて空いた席も増えた。

 そして上座から謝理理も席を立ち退座する。

 謝砂に向かって理理は他から袖で見えないように「またね」と振った。

 手を振り返してもいいのか戸惑っているうちに去っていった。

 突然ぎぃーと音を立てて大きな扉を閉じられる。

 不安になって爛を見たが、落ちつたまま茶を入れて飲んでいた。

「果物が食べたいなら私の分も食べていいよ」

 爛は視線に気づいて謝砂の近くにそっと器を近づけた。

「違う」

「食べ方が分からないなら手渡そうか?」

「このまま座ってていいのかな?」

「私が報告したことだから座って食べてて」

 口の中に葡萄を一粒押し込まれた。

 口を動かすと葡萄は大きくて甘く口の中に風味が広がるが何か違う。

「桃家の皆にこれより報告することがある」

 宗主の近くに座って姿が見えずらかった奥から人が出てきた。

 宴の席には桃家の家系の者と傘下に入っている仙家の者が残っているらしい。

 木簡を広げて読み上げた。

 謝砂の目には木簡が巻きすに見えてきて海苔巻きを連想していた。

「今回報告することは謝砂宗主と爛公子が腕輪を献上されました。邪気が強く呪符で封じ込めいますが元々は神器の一つであることがわかり、隕鉄(いんてつ)から作られています」

 謝砂は質問もできずに勝手に隕鉄という言葉の響きで隕石のことを言うのかと推測した。

 隕石というのは宇宙を調べる機関が管理してて自分には関りがない分野だ。

 恐ろしい死体人形を操る悪夢が生まれる力を持っていたとは信じられない。

 謝砂は恐ろしい傀儡の姿を思い出してしまってぞわっとした寒気が背中に走った。

 報告を受けた桃宗主が口を開く。


「人の生気を吸い傀儡に変えて操れたのは隕鉄の力だ。仙修の者ではない者が魂を喰い修練の代わりに霊力、妖力を高めたりはできず、低俗の鬼や妖獣でも魂を食することはない。一級の法器や仙噐、持ちかえった邪気を帯びた妖噐も封じたものは仙家が管理する祠か蔵宝庫ぞうほうこに保管されているはずだ。悪鬼の手に渡り邪気を溜めるようになったのことの原因は調べる」

「「「承知いたしました」」」

 謝砂は一斉に返事をするので大きな声にびっくりした。

「持ってきなさい」

 呼ばれて運ばれてきたのは呪符で隙間なくぐるぐるに包まれ僅かに震えている腕輪だった。

「腕輪に思念が残ってないかこの場で呪符を解き探ろうとおもう」

 誰がするんだろうというのが疑問だった。

「結界を」

 修仙たちが何人か立ち上がり部屋の四隅に陣をつくり透明な結界を張った。

「誰がするの?」

「呪符を剥がすのは桃宗主だ」

 短く耳元でこっそりと爛が教えた。

 桃宗主は腕輪を宙に浮かせ両手の指先から力を送り呪符を解いた。

 そのまま腕輪は指と指の間で浮かび精神を同調させたが腕輪に弾かれ桃宗主の体が吹き飛ばれる。

「うっ」

 胸に手を当てているが床に倒れることはなくぐっと踏みとどまり持ちこたえた。

 しかし腕輪は謝砂をめがけるように飛んできた。とっさに腕輪を掴む。

 腕輪から直接頭に映像が流れるように映った。

 多少抜けているところが多いが何となく話の流れが読めた。

 羅衛が妖人のようになったのには美玉が関わっていた。

 美玉の姿があってその後ろに羅衛がいた。

 美玉は子を宿せるならとその祠を拝みに行く。

 数人の家僕を引連れていたがその中に羅衛もいたのだ。

 羅衛は美玉を手に入れれる力を願ったようで祠で腕輪を見つけた。

 腕輪を手に入れると人の生気を吸い高等な妖術が使えるようになり、魂魄を喰い凝縮し魂霊丹を作りだしたようだ。

 伝え終わったのか残像のようにすぐに消えていく。

「ゆっくりおやすみ」

 腕輪に向かって謝砂は呟いた。

 謝砂が掴んだ腕輪は動くことはなく邪気も感じない。

 桃宗主は羅衛の思念がわずかに残っていて経緯を探ることができたらしい。

「美麗山の近くに祠がある。そこで腕輪を身に着けて生気を吸い、そして魂を喰う力を得たようだ」

 桃宗主の説明に謝砂が見たことは言う必要はないと黙っていた。

 結界を解き、弟子に支えられて桃宗主は腰を下ろす。

「腕輪はどこにある?」

 不意に聞かれて返事をした。

「持ってます」

 謝砂は腕を上げて腕輪を見せた。

 驚いた桃当主は再び立ち上がろうとする。

「謝宗主ご無事ですか? 邪気が強いものを素手で触れても?」

「感じない」

 爛がさっと謝砂の手から腕輪と取った。

「邪気が払われています。謝宗主が邪気を払われたようです」

 爛の一言に騒然となった。

 分からないがまずいことをしてしまったらしい。

「何もしてない。何も知らないんだ。聞かないでくれ」

 首も振って全身で否定はする。

 腕輪に触れただけで何もしてない。

「爛は見ていただろう? 何もしていないと言ってくれ」

 爛は謝砂に構わず優雅に立ち上がり人を呼ぶ。

 爛の服の裾を掴んだがぐっと引っ張られた。

 爛から受けとり小さな盆にのせられた腕輪は注目の的でじっくり眺められていた。

「たしかに邪気を感じない」

「呪符であらかじめ封じ込めていたが桃宗主が弾き飛ばされた邪気だ。そんなすぐに弱まったとは思えない」

 なにやら年長者の者たちが集まり頭を寄せて色々と思案し、相談しているのだろが結論はまとまったのだろうか。

 難しい話を聞いていてお腹が空いた。

 用意された料理も舞いに見とれて食べ損ねていた。

 堂々と今箸をとりご飯を食べていたら目立ってしまう。

 顔を動かさずに手だけを動かしでそっと葡萄を房から一粒ちぎり片方の袖で口元隠した。    

 じーっと謝砂に視線が突き刺さり食べにくくて口を閉じた。

「そんなに見られても困るんだけど」

 困って爛を頼るように視線を送る。

 謝砂が困ってる状況を楽しんでいるようで僅かに口元が上がった。

「桃宗主が弾かれたときに邪気も一緒に吹き飛ばされたということでしょう」

「そうだと思う」

 爛の説明に謝砂は大きく賛成した。

 芝居かがった説明にあきれたようにため息の声が聞えた。

「爛殿、適当なことを言わないでくれ」

「では他にどんな説明があるというのですか?」

「説明できないないので謝宗主が浄化されたと結論に至りました」

「邪気が消えたことはいいことでは?」

「そうです」

「本人が知らないと言っているのに分かる訳がない。信じないのか?」

 早口で質問攻めにされた相手は口ごもってしまった。

「そうだろ。口数は少なくても真実を話す。それでもまだ尋ねるのか?」

 爛はその場にいた者たちを黙らせた。

「もうやめなさい」

 回復したのか静かに桃宗主が話した。

「爛の言う通りだ。謝宗主殿、家の者が失礼な態度をしてすまない」

「いえ」

 謝砂は短く答えた。

 せっかく追及から逃れられたのに長く話して自爆したくない。

「仙噐や法器は道具の一つ。突然力を失うことはよくある。力を使い果たせばただの道具にもなる。邪気が払われたのだからそなたたちで調べればいい」

「分かりました」

 桃当主は話題を戻した。

「直系の門弟たちを眉麗山びれいざんに向かわせる。驍家荘と眉麗山も塵家の仙府だったな」

 塵家と呼ばれて立ち上がったのは向かい側に座る男だった。

「はい。塵家が納めています」

「食魂を疑うような報告はなかったのか?」

「塵当主から聞いていないのです。今は素貞(そてい)殿から話を聞き、驍家の者と共に当主が供養をいたしております」

 塵家の若君の報告に爛が一言挟んで報告した。

「他用で道中通りがかった謝宗主が尽力していただいたおかげです」

「謝宗主遅くなったが感謝する」

 爛が話したせいで話が塵家から逸れた。

 謝砂は感謝されるとよけいに肩身が狭い。

 怖いと逃げ回っていた負い目を今更感じて言われればなんでも引き受けてしまいそうだ。

「腕輪の場所が分かった今、祠を調べることが最優先だ」

「塵家も協力させていただきたいと願います」


「腕輪が放っていた邪気は強すぎました。門弟たちは経験が浅く危険でこの件に関して荷が重たすぎます」

 塵家は数に入らないと年長者らしき人から声が上がった。

 門弟と同じだという意味に塵家の若君は手に力を入れているようだ。

「差し手がましいようですが、爛公子だけでなく謝宗主もご一緒されては?」

「いやいや。足を引っ張るだけなんで遠慮します」

 勝手に恐怖体験プレゼントされてもいらない。

 のしをつけて返品したい。

「謝砂宗主にとって仙府外で面倒なことに巻き込んでしまってすまない」

 謝砂を無視して勝手に決めれられていく。

「謝家に帰り道の寄り道だと思ってくれ」

「えっ?」

「謝砂宗主にとっても桃家は家族の付き合い。ご理解いただけますとも」

「門弟たちは爛が率いる。この件は爛にすべてを任せる」

「分かりました」

 爛は手を重ねて礼をし宗主の命を正式に引き受けた。

 謝砂は何も言わしてもらえずそのまま宴は終了とされた。

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